第五、第六の厄災討伐戦・4
おはようございます。
第148話投稿させて頂きます。
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今回から和登視点です。
楽しんで頂けたら幸いです.
「2班、急げ‼」
何を思ったのか他の班より長く戦場に残り第六の厄災と戦い続けてヘトヘトに為っている2班の班員を外壁の内側に招き入れる。
戦場の方を見ると乱入して来た冒険者達と体から赤い柱を生やした第六の厄災が未だに戦闘を行っている。恐らく体から生えている赤い柱はコハクの持つ《クラミツハ》の能力だろう。
逃げてきた人たちを見てその中に見慣れた黒コートの人物が居ない事に気が付き、嫌な予感がして辺りを見回すとこの班の班長の男が目に入り足早に近づく。
「おい‼トワは何処だ‼お前は最後まで戦闘区域に居たな?何か知っているだろ‼」
逃げ延びホッとした様子のクレイに声を荒げながら襟元を握り持ち上げながら詰問すると周囲から驚いた様な視線を向けられる。
最初に取り決めた事を無視して残っていたのも含めてつい口調が荒くなる。
「狗神、少し落ち着け。締めすぎると喋れなくなるぞ」
「先輩、落ち着いてください。喧嘩腰で接しても良い事は有りませんよ」
クレイを持ち上げながら詰問していると不意に肩を叩かれ乾と戌夜に窘められる。
二人の言葉に少しだけ冷静になりクレイを地面に降ろす。
「まぁ、最初に取り決めていたトワの指示を無視していたんだそれ相応の理由が有るんだよな?」
「まさか、余計な事をした人達を助けるかどうかでモタクサしていた訳じゃないですよね?」
俺がクレイを降ろした事を確認してから乾と戌夜も冷たい視線を向けながらクレイに問いかける。
よく見ると2班の人達も睨む様にクレイを見ている。まぁ、すぐに撤退を指示しなかったのだから当たり前か
「それは・・・「先輩‼山辺君‼アレ‼」」
クレイはバツが悪そうな顔になりながら口を開こうとするのを早乙女さんが戦場を指差しながら声を出し遮る。
急いで指差す方向を見ると先程まで居た戦場を全て覆う程大きな青と白の魔方陣が二つ描かれている。
「ネージュちゃん?」
双眼鏡を覗きながらそんな事を言う湊瀬さんの言葉に上空に目を向けると遥か彼方の空が一瞬だけキラリと白く輝くのが見える。
その光景を見た瞬間に魔法陣が発動したのか戦場一帯が巨大な氷柱が光のオーラを纏って現れ戦闘区域一帯を氷の中に閉じ込める。
「何だよ。あれ・・・」
まるで時が止まったかのように誰も動かなくなった氷柱を見て誰かが呆然とした様子で呟く声が聞こえて来る。
その場に居る全員が呆然としたまま巨大な氷柱を眺めているとザザっと班長の人間に配られた通信機(俺達はサイプレス戦の時に配られた物)にノイズが走りメアニアさんの声が聞こえて来る。
「全班長に通達じゃ。至急、班員を解散し神殿の会議室に集合せい。よいか‼大至急じゃ‼遅れることは許さんぞ‼」
メアニアさんは数日前のコハクにじゃれていた様子とは打って変わり凛々しい声音で指示を飛ばし通信を切る。
通信を終えた俺達は指示通りに急いで班員の人達を一時解散させる。
「皆さん‼メアニアさんからの指示です。不安あると思いますが一時解散して休んでください。動きが有ればまた此方から連絡します」
クレイの事は一時置いて置き、各班に各々で指示を飛ばして今回、班長に為った全員で神殿の会議室に向かう。
神殿への移動中、家の窓から顔を出している街の人達の顔を見ると皆不安そうな顔で此方を見ている。
恐らく、戦闘音は無くなったが突如現れた光り輝く氷柱や戦闘が終わったのかを聞きたいのだろうが俺達の様子を見て止めたのだろう・・・
そんな不安が籠った視線に晒されながら俺達は大神殿の会議室へと向かった。
「呼び立ててしまって済まなかったのう。とりあえず、皆、お疲れさんじゃったの。予想外の事が起こったが大した怪我も無く全員無事で戻って来てくれて良かったのじゃ」
忙しなく書類に目を通し時にはサインをしながらメアニアさんが俺達に声を掛けて来る。
そんな彼女に向かってパーシヴァルさんは若干顔を顰めながらメアニアさんに反論する。
「全員無事?メアニア様。トワ様が戻って来て居ませんが?」
その言葉にメアニアさんは書類を机に置き、真剣な顔で答える。
「その件に関しては何の問題も無い。クレイの命令違反も関係ないのじゃ、最初からトワと決めて有った事じゃからな」
その言葉にこの場に居る全員が驚いた顔をする。なんせ俺達は何も聞かされていなかったからだ。
そんな空気を読み取ったのかメアニアさんは溜息を一つ吐きながら説明をしてくれる。
「トワからの要請での・・・万が一、予想外の事が二回も起きたなら結界魔法を使って戦闘区域一帯を封印処置する様に言われておったのじゃ。今のあの場は光と氷の結界魔法で時間停止した状態じゃ。話せばお主等が反対するから絶対に言うなと言われたのじゃよ。あ、言っておくが妾は話した方が良いとちゃんと言ったからの」
そこまで喋った所でカップを手に取りのどを潤すと話を続ける。
「トワを責めるでないぞ。お主等に話せば自分達も残ると言いかねないと思っての事じゃからな・・・さて、パーシヴァル、他の者達を連れて下れ。次の命が有るまで体を休めておくのじゃ。勇者達はもう少し残ってくれんかのまだ話すことが有るからの」
「・・・承知しました。クレイ、スイン、ヒュウ、ケイン。行くぞ・・・それからクレイ。お前には後程、正式に命令違反の罰を下す。覚悟しておけ」
「・・・はい」
メアニアさんの命令でパーシヴァルさんはクレイ達を連れて退室する。
コハクが戻ってこなかった理由とは関係なかったがどうやら撤退の命令を無視した罰は下されるらしい。
彼等が退室したのを確認しメアニアさんが口を開く。
「ネージュ、もうよいぞ。コハクの手紙を勇者殿達に渡してあげるのじゃ」
メアニアさんが声を掛けると椅子の後ろからゆっくりとネージュが顔を見せて俺達の元に歩いて来る。
「勇者、これ。主から・・・」
ネージュはそう言って手紙と何かの液体が半分ほど入った小瓶を手渡してくる。
「手紙を読むならそこに座って読むとよい」
「ありがとうございます」
メアニアさんがソファーを勧めてくれたのでお礼を言って皆で腰掛ける。
受け取った手紙の封を破り手紙を読み上げる。
『この手紙を読んでいるという事は皆に内緒で計画をしていたプランCを発動させた事だと思います。プランCの事を黙っていたのは本当に申し訳ないけど皆にはやって貰いたい事が有ったので秘密にさせて貰いました。ごめんなさい。さて、話は厄災に対してに戻りますが、プランCを発動させたという事は私が敵の本体に何らかの違和感を持ち撃破出来なかった上に予想外の戦力が介入したという事でしょう。恐らくですが私が敵を撃破しなかった理由は敵の本体が現れた一匹だけでは無かったからでしょう。そこで狗神君達には居ると予測される敵の半身を撃破して貰いたい。恐らく敵の半身は今回同時に厄災が出現している憤怒の国に居ると予想されます。憤怒の国へは予め私の持っている《リング・オブ・トワイライト》をフェルウに渡しています。狗神君の着けている物からコリドーオープンのキーワードで回廊が開きます。最後に敵の見極めですが手紙と一緒に渡した小瓶の中身はコネクト薬という薬で一時的に飲んだ人間同士のスキルを共有する事が出来る物です。渡した物は私とのスキル共有が出来るようになっています。量が余りないので誰が飲むのか皆で話し合って決めてください。また皆に迷惑を掛けるけどまた力を貸してくださいどうかよろしくお願いします。コハク』
手紙を読み終え、小瓶を持ちながら俺は皆を見る。
誰もコハクの頼みを拒否するつもりは無いらしく頷いて参加の意思を示してくる。
皆の意思を確認し、俺はメアニアさんに向けて口を開く。
「メアニアさん。現状を打開する為に俺達はこれからコハクの指示に従って憤怒の国に向かいます。良いですか?」
その問いにメアニアさんは頷いて了解の意を示し、口を開く。
「もちろんじゃ、我が国の為によろしく頼むのじゃ」
メアニアさんの許可が取れたので誰が薬を飲むのかを相談しようと他の皆に向き直り話をしようとすると乾達が先に喋り出す。
「じゃあ、薬を飲むのは狗神で良いな」
「そうですね。時間も惜しいですし先輩に飲んでもらうのが一番ですね」
「憤怒の国の状況も気になりますし、狗神先輩ここはグイっと逝っちゃってください」
「狗神先輩。お願いします」
思ったよりもあっさりと薬を飲む役を任されたので素直に皆の意見を乗る事にする。
それにしても早乙女さん。逝っちゃっての字がなんか不穏な響きに感じるんだけど気のせいかな…?
「分かった。俺が代表して飲ませて貰う」
皆にそう言い小瓶の蓋を開け中身を一気に煽る。
何とも言えない味の薬を飲み干すと唐突に右目に痛みが走る。
「ぐっ⁉」
唐突な痛みに呻き声を漏らし、右目を抑えながらその場に蹲る。
早乙女さんの逝ってらっしゃいはある意味当たっていたのかもしれない・・・
そんな事を考えながら痛みは段々と体全体に広がって行き、痛みに耐えきれず俺はそのまま意識を手放した。
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