第五、第六の厄災討伐戦・2
おはようございます。
第146話投稿させて頂きます。
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2個目の☆の後でコハク視点に移ります。
楽しんで頂けたら幸いです。
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————誰一人欠けるなよ————
第六の厄災と呼ばれている化け物が出現した時に現場の総指揮を執っている黄昏の魔王は甘い考えの戯言を言い放ち敵に向かって行った。
正直に言ってこの言葉を聞いた時にクレイはこの指揮官は直ぐに死ぬと思っていた。
戦えば必ず誰かが死ぬ皆無事などあり得ないそれがクレイにとっての常識だ。
本来なら総指揮は聖騎士長であるパーシヴァルが執り部外者である黄昏の魔王や勇者達はその指揮下に入るのが筋のはずだ。
黄昏の魔王が死ねばすぐに聖騎士長が指揮を執り本来の形に戻るだろう。
戦闘が始まって直ぐの時にはそんな風に考えていた。
しかし、今、目の前で繰り広げられている光景にクレイは思わずポツリと呟く。
「どっちが化け物だよ・・・」
自分の達の遥か先を行く小柄な人影は相手をしている化け物の攻撃を最小限の動きで躱し、尚且つ右手に持つ血色に染まっている長剣で反撃を加え、走る速度を落とさずに疾走している。
その光景を見てクレイは数日前に自分がどれだけ手加減されていたのかを思い知った。
☆
「これで・・・7体目‼」
ガマズミの振り下ろしてくる長い腕を最小限の動きで避け、その腕に《クラミツハ》で斬りつけて相手の血が出る前に《クラミツハ》の能力で傷口から血が出るのを止めて行く。
近くで見たガマズミは地面に付きそうなほど長い腕にヌタっとした質感に病的なまでに白い肌に青い血管の浮かんだ皮膚で顔は溶けた様に崩れた化け物だった。
一応、手記には四肢を切り裂いたり体の一部を切り飛ばしたりしたら切り飛ばした部位が再生し切り飛ばした方から新たな第六の厄災が増えると書かれていたがこれまでの経験上相手の血液にも注意する必要があるだろう。
ガマズミに関する手記の内容を思い出しながら私は相手をしていた個体を班の人達に任せて次の個体の相手をしながら敵の本体を探す。
最初に現れた実体達を走りながら確認し、私は小さく舌打ちをする。
・・・本体と思われる個体が見当たらない。
現在、ザっと敵の様子を確認するが私の眼には本体と思われる個体を発見出来ないでいる。
邪魔な個体達を相手にしながら私は密かに焦り始める。
《クラミツハ》を使用している関係上、私には制限時間がある。
早く本体を見つけないと私の方が先に動けなくなってしまう。だからと言って万が一の時の保険も仕込んで置かなければ全滅の可能性も有り得るので《クラミツハ》の使用も止める訳にはいかないのだ。
そんな事を考えながら10体の相手を終えて10体目の脇を通り抜けようとすると10体目は異様にしつこく焦った様子で私の事を追いかけて来る。
不思議に思いながら後ろに飛び攻撃を避けるとすかさず10体目の担当である班が私と10体目との間に割って入る。
「トワ‼無事か?」
狗神君が急いで私の無事を確認して来るので頷いて答える。
私の様子にホッとしたような顔をして狗神君は私の近くに来て小声で問いかけて来る。
「敵の本体は見つかったのか?」
狗神君の質問に私は周囲に聞こえない様に小声で彼に答える。周囲に聞こえると皆の士気にかかわる可能性が有るからね。
「いや・・・今この場に居る個体の中に本体だと思われる個体は居なかった。最悪、一時撤退も視野に入れないといけないかもしれない」
現状を狗神君に話すと彼は少しだけ顔を顰めて口を開く。
「手記との違いが出たって事か?ならば早めに外壁に向かって撤退するか?」
「私の眼が通用しない可能性も有り得るけどね。一つだけ気になる事が有るんだ。さっき、10体目は私が後ろに行こうとしたら慌てた様子で止め始めた。ひょっとしたら後ろに11体目が存在するのかもしれない。それを確かめて違ったら撤退して打開策を考えよう」
「分かった。俺達が上手く抑えるからその内に駆け抜けてくれ」
彼の言葉に頷き承知の意を示すと彼は剣を構えて第六の厄災に向かって走って行く。
彼の班が10体目の相手をしてくれている内に10体目と彼等の脇を通り抜け後方に向かう。
10体全てのガマズミを追い越した先には他の個体よりも二回りほど小さな体躯をした個体が溶けた顔を驚いた様に歪めギャアギャアと警戒音を発して叫び、私から逃げ出す
コイツの反応からして本体で間違いないだろう。私の眼にもサイプレスと戦った時の様に赤く光って見える。
「見つけた‼」
思わずそう呟いてからガマズミ本体の首を刎ねる為に《カグツチ》を構えて後を追い掛ける。
手記によるとガマズミの本体は手や足などの余計な部位を切り飛ばさなければ増殖する事無く殺せると書いて有ったので首を切り落とし一撃で仕留める。
必死に逃げるガマズミの本体に追いつきその首に向けて《カグツチ》を振ろうとすると不意にガマズミがその醜い顔を歪めて嗤った。
その顔を見た瞬間に反射的に《カグツチ》の刃を逸らしてわざと攻撃を外す。
空を切った《カグツチ》を構え直しガマズミを見るとガマズミは逃げるのを止めて不満そうな視線を私に向けている
・・・コイツ、本当に本体か?
眼で見て分かっている事なのに直感的にそう感じ少し距離を取ってガマズミと睨み合う。
本体だと思われる個体をどう処理するかと思っていると不意に通信機から動揺した声や誰かに怒鳴っている様な他の人達の声が聞こえて来る。
『はぁ!?なんだアンタら!?』
『冒険者は活動禁止しているはずだろ?何でこんな所に出て来てるんだ⁉』
『ちょっと‼邪魔しないで‼作戦の邪魔になるでしょ!』
『テメェら邪魔だ‼退けぇ‼』
『邪魔ですよ‼事情も知らない人達が勝手に攻撃しないでください‼』
『狗神‼止めろ‼月濱がそっちに向かった‼』
『止まれ!月濱純也‼』
突然の事に思わず通信の声に意識を集中させると唐突に後方から声が響く。
「フレイムスラッシュエッジ‼」
そんな言葉と同時に向けて炎を纏った空気の刃がガマズミに向けて放たれガマズミが嗤い燃えながら細かく切り刻まれる。
驚き、声のした方に顔を向けると其処には挑発的な笑みを浮かべた月濱純也が立っている。
「よお、魔王。敵の本体って奴を見つけてくれてご苦労だったな。お陰で楽に倒せたぜ」
そう言いながら大剣を私に向ける。
私はこれから起こるであろう事に絶望しながら月濱純也を睨み、口を開く。
「確信が持てない内に余計な事をしてくれた・・・貴様は自分が何をしたのか分かっているのか?」
そう言うと月濱純也は馬鹿にした様な笑みを浮かべながら答える。
「化け物退治さ。なんだ?獲物を取られて負け惜しみか?悪いが俺には名声が必要なんでね。ついでに魔王も退治してクラシア王国での借りも返してやる」
大剣を構え、私に向かって来ようとする月濱純也に私は酷く冷めた声で答える。
「あぁ、良いさ。お前には一度、痛い目を見せただけでは駄目らしい。相手をしてやるよ、ただし・・・この戦いが終わるまでお前が生きて居たらな‼」
その言葉と同時に地を蹴り場所を移動すると先程私が立っていた場所に無数の手が振り下ろされる。
「なっ⁉」
その光景に月濱純也は驚きの声を上げ混乱している様だ。
そんな月濱の様子に私は静かに腹を立てながら攻撃して来た化け物の方に目を向ける。
「全く持って嫌な方向にばかり当たる感だな・・・」
私の目の前には予想通り先程の月濱純也の攻撃で何百体と増えたガマズミが立っていた。
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