正当な報酬の支払い
おはようございます。
第139話投稿させて頂きます。
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今回は和登視点です。
楽しんで頂けたら幸いです。
「期待外れだな・・・あれじゃあ全く役に立たない・・・」
火の勇者である月濱 純也と別れ薬師の少女の仮面を付けていたコハクはポツリと呆れた様に呟くと再びニコッと笑い口を開く。驚く事にその時にはもう薬師の少女の顔に戻っている。
「さあ、ワコさん。後もう少しだけその恰好でお付き合いくださいね」
そう言うとコハクは月濱 純也達とは反対方向に向かって歩き出す。
なぜ俺達が偽名まで使ってこんな事をしていたのかにはちょっとした理由が有る。
第四の厄災の討伐後にコハクはクラシア王国の皇太后様から勇者の動向に関する情報を受け取っていたらしく予め薬草の採取依頼などを出していたらしい。国に着いて直ぐにコハクは俺達と別れて行動する事を話し、俺達には神殿に行くように指示をしたのである。心なしかコハクが神殿に行きたくない様に見えたのは気のせいか?
そして実はコハクが作った薬には本当に必要としている人がいる。
薬草の採取依頼を出す際に実際に必要としている人を探し出して依頼したらしい。
此処までの経緯を思い出しながら俺は周りに聞こえない程度の声量で隣を歩くコハクに声を掛ける。
「それにしても期待外れって月濱 純也の事なのか?一体何を期待してたんだ?」
月濱 純也に対するリーフの時の態度を思い出し些か面白くない思いをしながら何を火の勇者に期待していたのかを問う。
コハクはあくまでリーフとしての口調を保ちながら口を開く。
「あぁ、言い方に語弊がありましたね。正確に言うと火の勇者だけではなく。ゴディニさんとレイダさん以外のこの国に居る冒険者全員が期待外れで役に立たないという意味ですよ」
「えっと・・・それは何を基準にして判断したんだ?」
笑顔のままで冒険者達を酷評するコハクに一応理由を聞いてみる。
何かリーフのままなのに笑顔に不機嫌な様子が見えてるんだよなぁ・・・
「簡単ですよ。私がリコリス商会の子達に変装して貰って依頼を出したのが三日前。因みに依頼は他の薬草採取依頼に比べるとかなり破格な額で依頼して有りました。でも、3日経っても誰も受注を受けなかったという事はあの程度の特区地区に誰も行けないのなら第6の厄災との戦いになんて役に立たないという事です。因みに火の勇者は反応速度も剣の振りも足さばきも数ヶ月前に対峙した時と何も変わっていませんでした。全くこの数ヶ月一体何をしていたのやら・・・とりあえず、メア・・・神殿側には冒険者を今回の戦いに参加させない事と火の勇者をクラシアに帰すように申請しないといけないですねぇ・・・」
「そんなとこを見てたの?」
「基本ですよ?」
俺の顔を見て小首傾げる様にそんな事を言う。
「その点、ゴディニさん達は流石と言える方達でした。恐らくこの国の為には戦いに参加してくれない事が残念です。あ、着きましたね」
最後の言葉に付いて聞こうとしたタイミングで丁度薬が必要な人の家に着き、話を中断する。
コハクはドアをノックする。
「・・・はい」
小さな声で返事が聞こえてドアが少し開くと中から少し疲れた女性が顔をのぞかせる。
女性の顔を見るとコハクは綺麗な所作で礼儀正しくお辞儀をしてから口を開く。
「急な訪問申し訳ございません。初めまして。私、薬師をしておりますリーフと言う者なのですけれど街の方から此方にご病気の方がいらっしゃると聞きまして私でお力に為れるかもと思いお尋ねさせて頂きました。宜しければご家族の診察だけでもさせて頂けないでしょうか?」
「・・・どうぞ」
そう言ってもう一度丁寧に頭を下げたコハクに女性は少しだけ考えた後に中に招き入れてくれる。
てか、初対面だったんかい・・・何で病人が居てその人の病気に効く薬を知ってるんだよ・・・魔王の情報網怖い・・・
「失礼します」
そう言って中に入り女性はコハクと俺を病人の元に連れて行ってくれる。
部屋のドアを開けるとそこには恐らく女性の息子であろう顔色の悪い少年がベッドで寝ている。
コハクは女性に断りを入れると部屋に入り少年をアイテムポーチから取り出した診察器具を使い診察した後に心配そうにしている女性に声を掛ける。
「ご安心ください。息子さんは私が持っている薬で治療出来ます」
そう言いながらアイテムポーチから薬の瓶を取り出し母親に手渡しながら説明をして行く。
「毎日朝晩に一匙ずつ飲ませてあげてください。一週間ぐらいで食欲が出て来るようになると思うのでそしたら消化に良い物を少しずつ食べさせてあげてください」
そう言ってコハクは一礼してから薬の代金も受け取らずに家から出て行こうとする。
「ちょっと待ってください‼お薬の代金が・・・‼」
女性が慌てて薬の代金を払おうとするのをコハクは手で制して止める。
「薬の代金は気になさらないでください。そのお金で元気になったお子さんに少しでも美味しい物を食べさせてあげてください。それともし薬が効かなければしばらく神殿にお世話になるので神殿の方にご一報をください。ワコさん行きましょう」
泣きながらお礼を言う女性に背を向けて俺とコハクは女性の家を後にした。
「良いのか?それなりに費用も手間も掛けて作った薬だろ?今回無駄に出費しただけに為ったんじゃないか?」
女性の家を出て、少しした所で俺はコハクの今回の行動について聞いてみる。
実際問題、あの薬は必要ないのに安くない金額を月濱 純也に支払い採取した薬草を使って作られたものだ。代金を貰わないなんてコハクがただ損をしただけだ。
そんな質問をするとリーフではなくコハクの顔で少しだけ笑いながら答える。
「変な奴だと思ってる?彼女達には正当な報酬を与えただけだよ」
「正当な報酬?」
俺がおうむ返しに聞き返すとコハクは頷きながら口を開く。
「私は彼女達を架空の患者として依頼を出し、その結果、火の勇者やこの国に居る冒険者の実力を測るのに利用したんだよ。勝手に利用されたんだからそれ相応の報酬は有ってしかるべきでしょう?それにあの子を治せる薬は高額な上に白夜の国でしか作られていないからね。私は情報が手に入ってあの親子は病気が治るウィンウィンの関係だと思わない?」
なんだか気恥ずかしいのを誤魔化すような物言いに多少苦笑してしまう。
要するに部下からあの親子の事を聞いて助けてあげたいと思ったのか・・・それを色々こじつけたのね・・・
「なんか失礼なこと考えてないかな?」
「いや、全然。それより良く薬とか作れたな」
些かジトっとした目で見られて慌てて否定して話題を逸らす。
その取り組みはうまく行った様でコハクは歩きながら答えてくれる。
「私達、原初の名を冠した三魔王は何かの時の為にお互いの技術を共有していたからね。お陰様で畑仕事からポーションや薬の調合まで出来る様に為っちゃたよ」
そう言いながら肩を竦めたコハクはクルリと俺の方を向くと今はエメラルド色の瞳で俺を見ながら口を開く。
「さて、これで調査は終わりだけど神殿に行く前にもう少しだけ私に付き合ってもらえるかな?」
ニコッと笑いながらそう言うコハクに俺は自分を指差しながら答える。
「良いけど・・・この格好のままで?」
「うん。その恰好じゃないとまだ都合が悪いんだ」
その言葉にはぁっと溜息を吐き、口を開く。
「了解・・・で?次は何をするんだ?」
「うん?デート」
笑いながらそう言う彼女の予想外な言葉に俺は少しだけ呆然としたままその場に立ち尽くしてしまった。
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