薬師の少女・3
おはようございます。
第138話投稿させて頂きます。
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「あ、ゴディニさん。あの草はレンメイ草って言って解熱作用や解毒作用がある薬草です。葉の周りが赤いのが特徴でアレに似ているのでヤッテラレッカ草というのも有ります。ヤッテラレッカ草は葉の周りが赤紫色で毒草なのです。誤って食べると腹痛や下痢、嘔吐などの症状を引き起こします。レンメイ草が有る場所には大体一緒に生育しているので注意するようにしてください」
「成程ね。手帳に書き記すから少しだけ待って頂戴ね」
そんな会話をしている可愛い少女と厳ついおっさんを見ながら俺達は現在、件の特区地区の森をリーフちゃんの目的地に向かって散策している。
昨日、細かい契約内容を煮詰めた後で一旦、宿屋へ帰り皆を寝かせた後に野営用の道具の用意や必要な備品を買い足し俺も早くに休んだ。
その後、今日のまだ暗い内に皆を起こし事前に話し合った集合場所に集まり馬車に乗って三時間程のこの特区地区の森を彼此3時間ほど歩いているが目的地はもう少し先らしい。
アンナ達は先程から疲れた様子で歩いている昨日の酒が完全に抜けていないのだろう。
そんな事を思いつつリーフちゃん達を見ているとゴディニの手元を覗いていたリーフちゃんが唐突に顔を上げ、俺達に向けて口を開く。
「南方向、5m程の距離、数4、ロックウルフです」
「あ、ああ‼」
「わかったわ」
リーフちゃんの言葉に従い俺とレイダが武器を構えて駆けるとそこには彼女の言った通りに4匹のロックウルフが固まっている。
左側に居た2匹をレイダに任せ俺は右側に居た2匹を切り捨てる。
「お二人共、大丈夫ですか?」
「あぁ、俺は大丈夫だよ」
「私も問題ないわ。貴女、本当に凄いわね。正直、貴女の察知が此処まで適格とは驚いたわ」
実際、俺達が魔物と遭遇したのはこれが初めてでは無く何回か戦闘している。
その全てで彼女はいち早く敵の居場所を察知して俺達に教えてくれるので先制攻撃を仕掛けることが出来るのだ。本当にリーフちゃんの感知能力様様だ。
正直、アンナより感知能力が高くて正確だ。家のパーティに欲しいな・・・依頼が終わったら勧誘してみるか
そんな事を考えながらレイダの言葉に俺も同意の意を示して頷くとリーフちゃんは満面の笑みで口を開く。
「本当ですか!お役に立てているのなら嬉しいです‼」
うん、可愛い・・・絶対に勧誘しよう。
勧誘方法を考えながら俺は皆に付いて目的地までの道のりを歩いた。
些かワコちゃんの視線が厳しいような気がするけど気のせいだろう
さて、少し時間が経ち俺達は遂に目的地である森の中心地付近に着いた。リーフちゃんが言うには此処からは深夜になるまで待機するらしい。
理由は彼女の求めるゲツメイ草という薬草が深夜0時から1時までの一時間だけ花が咲く珍しい植物でその花を材料に使うらしい。
テントを張り魔物除けの魔道具をリーフちゃんが使ってくれたので俺達は順番に見張りをしながら仮眠を摂る事になった。
テントの部屋割りはゴディニのおっさんとレイダで一つ。アンナ、ベラ、ミランダの三人で一つ。俺が少し小さめのテントに一人。リーフちゃんとワコちゃんで一つという分け方に為った。ワコちゃんは何時もリーフちゃんにべったりなのになぜかテントだけは別の物を使う事を主張していたがリーフちゃんが袖を引きながら「同じテントは嫌ですか?」という上目遣いの一言で何も言わずに受け入れた。
交代で仮眠を摂りつつ夕食等を終えて漸く迎えた深夜12時にアンナ達に寝るように言って一人で見張りをしていると唐突にテントを張っていた広場の草に変化が現れる。
月明りに照らされていた何の変哲もない草にまるで早送りでもしているみたいに淡く黄金に輝く花が咲いていく。
そんな不可思議な光景を見て俺は改めてゲームの様な世界に来たのだとちょっとした感動を覚える。
「あ、ゲツメイ草が咲きましたね」
感慨に耽っているとリーフちゃんが一人でテントから出て来て俺の近くに歩いて来る。
俺の近くを通り過ぎ花に近づくとしゃがみ込み足元に咲く光る花を5個ほど丁寧に詰んでいく。
美少女と黄金に輝く花という神秘的に見える光景を見ながらふと気に為った事を思い出しリーフちゃんに聞いてみる。
「そう言えばリーフちゃんは何でこの花が此処に有る事を知っていたんだい?この国には来たばかりじゃなかったのか?」
その言葉に少しだけキョトンと首を傾げた彼女は直ぐに言葉の意味に気付いたのか俺の方に歩いてきながら答えてくれる。
「実は私がまだ小さい頃にお師匠様と此処に来た事が有るんです。師匠は自由に出入りできる方だったのでその時にこの場所教えて頂いたんです。その他にも生き残るすべや色々な事を教わりました。気難しい方でしたけどすごく感謝していて憧れの方なんです」
「そうなんだ。師匠の事大好きなんだね」
そんな話をしながら近くに来たリーフちゃんは薪に鍋をセットしてから水を入れ積んできた花をアイテムポーチから取り出した水で洗い複数の薬草と共に鍋に入れ煮始めた。
どうやら薬草の入手に時間を掛け過ぎたため、戻って直ぐに患者に渡せるように此処で薬に加工するらしい。
薬を作り出したリーフちゃんを眺めているとゴディニのおっさん達が交代の為に起きて来たので渋々後を任せ俺も仮眠を摂る為にテントに戻った。
翌日は特に問題も無く街まで戻り俺達は無事に依頼の成功を報告して報酬を受け取る事が出来た。正直、依頼が依頼だった為に俺が勇者だと知らしめることは出来なかったがそれは厄災の訪れの時で十分だろう。
それより今はどの様にしてリーフちゃん達をパーティに勧誘するかだ。
色々考えたがシンプルに行く事にし俺はゴディニのおっさん達と話をしているリーフちゃんに向かって行き声を掛ける。
「リーフちゃん。お疲れ様。少しだけ話が有るんだけど良いかな?」
「あ、ツキハマさん。今回はありがとうございました。話ですか?大丈夫ですよ」
笑顔でそう言う彼女を少し皆から離し、俺は本題を切り出す。
「リーフちゃん。単刀直入に言うけど俺達のパーティに入ってくれないかな?君の事は俺が守る。俺と一緒に世界を守る手伝いをしてくれないか?」
「世界を守る?すみませんツキハマさん。よく意味が分からないのですけど・・・」
俺の言った事に些か動揺した様子のリーフちゃんに俺は自分が勇者である事と此処に来た理由などを話した。彼女は少しだけ困惑した様子で口を開く。
「ツキハマさんは勇者様だったんですか・・・でも何で私なんかを?」
「君の察知能力はとても頼りになるし俺は君と旅をしたいと思うんだ。リーフちゃん。お願いできないかな?」
俺の言葉に彼女は残念そうな顔をしながらゆっくりと首を横に振り拒絶の意を示す。
「ツキハマさん。本当に嬉しい申し入れなのですが、ツキハマさんが勇者様なら私は絶対に足手纏いになります。それに私には私にしか出来ない事が有るんです。申し訳ありませんがツキハマさんのパーティに入れて頂く事は出来ません」
半ば予想していた彼女の言葉に俺は内心でがっかりしながら笑顔を作り、口を開く。
此処でしつこく勧誘しても嫌われるだけだろう・・・ならば一度引くのも欲しい物を手に入れるテクニックだ。
「そっか、駄目元だったけど残念だ。もし、気が変わったら何時でも言ってくれ。直ぐに迎えに行くよ」
「はい‼その時にはお願いします」
その後は薬を渡しに行くという彼女達と別の依頼に行くというゴディニ達とギルドの前で別れて俺は当初の目的であるルファルデ法国の神殿へと再び向かう事にした。
俺達が見えなくなるまで大きく手を振っていたリーフちゃんは最後まで可愛らしくパーティに向かえることが出来なかったのが改めて残念だった。
☆
笑顔で手を振り、ゴディニ達と月濱 純也とそのパーティ一行と別れた後、自分の事を勇者だと独白した月濱 純也達が歩いて行った方角をリーフと呼ばれていた少女はジッと見つめポツリと呟く。
「期待外れだな・・・あれじゃあ全く役に立たない・・・」
そう言った彼女の瞳は先程まで可愛らしく笑っていた人物と同一人物かと疑いたくなる程に冷たい光を宿していた。
☆
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