薬師の少女・1
おはようございます。
第136話投稿させて頂きます。
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本日は別の人の視点です。楽しんで頂けたら幸いです。
「ねぇ~、ジュンヤ様ぁ~、わたしぃ~、新しい指輪が欲しいなぁ~」
「ジュンヤ様、ジュンヤ様、私、新しいバッグが欲しい‼オーク革じゃなくてジェネラルオーク革のやつ‼」
「それより宿と食事よ‼長旅でこんな田舎の国なんかに来たんだからお風呂付きの良い宿でジュンヤ様のお体を考えてゆ~くり休んでからショッピングをするべきよ‼ジュンヤさまぁ~そうですよねぇ~」
クラシア王国からの長旅の末に漸くルファルデ法国の街に入りアンナ、ベラ、ミランダが口々に喋りだす。どの子も豊満な肉体を持つ特徴的でかわいい子達だ。
全く、国王も国の防衛の要である勇者パーティの俺達にルファルデ法国への使者を任せるなんて何を考えているのか・・・
しかも、ルファルデ法国も勇者が来ているのに別の来客が来ているからと明々後日また来訪して来いとは・・・勇者が来ているのだ。他に来客なんぞ放っておいて出迎えるのが普通じゃないのか?大体、この国が聖女と任命した女の子が人間を裏切った勇者と未だに行動を共にして居るんだぞ?普通は迷惑を掛けたクラシア王国に詫びの一つでもあるべきだろう。全く持って遺憾だ。
そんな事を考えながら彼女達に笑顔を浮かべながら答える。買い物も良いがまずは勇者が来たという事をこの国の連中に知らしめないといけない。
「そうだな、だけどまずは冒険者ギルドに行って明日行う依頼を適当に見繕おう。次に宿を取って買い物は依頼が終わった報酬で買いに行こう」
俺はそう言うと皆の肩を抱き冒険者ギルドに向かった。
「あの、特区地域の探索許可。何とかなりませんか?《アレキサンドライト》クラスの冒険者か5人からのパーティしか入れないというのも知っているのですが私と彼女は魔物から隠れる事に慣れていますし、今は軒並み危険な魔物も減っています。万が一、危険な魔物に出会っても私と彼女は隠密に特化しているので薬草を集めて帰ってくるぐらいなら危険は少ないと思うんです。受注を出しても誰も受けてくれませんし、もう私が行くしか手が無いんです」
ギルドに着き、ドアを開けると直ぐに背の低い14~16歳ぐらいの緑髪の可愛らしい少女が受付のお姉さんに懇願するような声が聞こえて来る。少女の様子にお姉さんも困惑しながら少女に答えている。
「申し訳ございません。ギルドの規定ですので特例は認められません。リーフさんとワコさんの冒険者ランクは《アクアマリン》なのでその地区への探索は許可できません。どうしても行きたいのなら《アレキサンドライト》クラス以上の方に護衛の依頼を出してパーティを組むしかありません」
「そこを何とかして頂けないですか?この街に着いたばかりで知り合いがいないですし、ワコさんは戦えるのですが私は、戦闘は出来ないので入れてくださるパーティが居ないのです。依頼を出してもさっき言った様に誰も受けてくれないし、これ以上は報酬も上げられません。けど、早急にその地区で採れる薬草が必要なんです」
そう懇願している少女は遠目から見てもかなり整った容姿にダブっとした若草色のフード付きのローブの上からも主張している胸が見て取れ、かなり魅力的なプロポーションをしている事が分かる。・・・Dは有るな・・・
さっきから周りにいる他の冒険者も下卑た視線を向けている。傍に付いている17歳ぐらいの背の高い東洋人を思わせる容姿で茶色の髪の少女も負けず劣らず可愛らしい。藍色の兎を肩に乗せているのもチャームポイントだ。だが周りの冒険者を威嚇しているのか顔を顰めているのが少しだけ勿体ない。・・・AAか・・・
「誠に申し訳ございませんが特例は認められません。こちらでも護衛の依頼を受けてくれる方やパーティに入れてくれる方を探しますので2日程待っていてください。もしくは余りお勧めは出来ませんが食堂の方で声を掛けてみてください」
「・・・わかりました・・・ワコさん。少し食堂に寄っても良いですか?」
『分かった』
受付のお姉さんが無慈悲にも駄目だと言うとリーフと呼ばれていた少女は少しだけ気落ちした様子でワコと呼ばれた子に声を掛けて酒場の方へ向かう。
ワコと呼ばれた子は喋れないのか紙に言葉を書いてコミュニケーションを取っている。
「ジュンヤさまぁ~、入り口で棒立ちに為ってどうなさったんですかぁ~」
俺が入り口で彼女達の様子を窺っているとその様子を疑問に思ったミランダが声を掛けて来る。
「あ、あぁ、ごめんなミランダ。ちょっと気になる話が聞こえて来ただけさ。ちょっと受付に行って来るから先に食堂の方に皆で行っていてくれ」
「「「は~い♡」」」
元気よく返事をした三人が酒場へと向かったのを確認してから先程緑髪の少女が話をしていた受付の女性に声を掛ける。
「すまない。少し聞きたい事が有るのだが良いかな?」
「はい。どうなさいましたか?」
俺の言葉に受付の女性は笑顔を作り応対してくれる。
彼女に笑顔を向けながら俺は先ほど見た少女について受付の女性に聞いてみる。
「すまないが先程話していた少女が何を困っていたのか教えて貰えないか?」
「なぜそのような事が知りたいのですか?」
俺の質問に受付の女性は少しだけ怪訝な顔で警戒しながら訊き返してくる。やはり、訊いているのが女性の個人情報なので知り合いでもない男である俺がそんな事を訊けば変な顔もされるだろう。
俺は微笑みながら受付の女性に弁明する。
「いや、すまない。此処に着いた直後に貴女と先程の少女が何やら言い合っているのを見かけて少し気に為ったんだ。俺で力に為れるなら力を貸したいと思ってね。どうだろう?話して貰えないかな?」
俺の言葉を聞き受付の女性は少しだけ考えた後で口を開く。
「申し訳ありませんが個人の情報なのでお答えする事は出来ません。どうしてもお知りになりたいのならまだ食堂の方にいらっしゃいますのでご本人からお聞きください」
ちっ、俺がイケメンとは言え、やっぱり訳も分からない男に迂闊に女の子の情報を教えないか・・・まぁ、食堂に行って自分で交渉しろという所は中途半端な守り方としか言えないが・・・勇者という事を明言して事情を訊いても良いがそれでは面白くない。どうせならあの子を助けて助けた後に勇者だと分かる方が運命的だろう。
そんな事を考えた後で受付の女性に笑顔を向け、口を開く。
「わかりました。お時間を取らせて申し訳なかった。ひょっとすると彼女の依頼を受けるかもしれないのでその時はよろしくお願いします。俺の名前は月濱 純也という。因みに俺のパーティメンバーのランクは全員、《サファイア》だ」
そう言い残し俺は受付から離れると先程二人の少女が入りアンナ、ベラ、ミランダ達を先に行かせたギルドに併設されている食堂に向かう。
「アンナ、ベラ、ミランダ。待たせて悪かった。依頼はもう少し待っていてくれ。直接、依頼主と話してくる」
「「「は~い」」」
食堂とは名ばかりの酒場で先に料理や酒を注文して居た三人に声を掛け、周囲を見渡すと先程見かけた緑色の髪の少女が机に突っ伏しているのが目に入る。
どうやら冒険者への声掛けに失敗した様子でワコと呼ばれていた少女が紙に何かを書いて慰めている。
彼女達の姿を確認し、俺はアンナ達に一声掛けてから少女達のテーブルに向かい声を掛ける。
「すまない。少し良いかな?」
ぐったりと突っ伏している少女とそれを励ましている少女になるべく笑顔を心掛けながら声を掛ける。
リーフと呼ばれていた少女は俺の声に驚いた様に顔を上げ、ワコと呼ばれていた少女はペットの兎と同じ様な胡散臭い物を見る様な表情で俺を見る。
「あの・・・私達に何か御用でしょうか?」
リーフと呼ばれていた少女は俺の方を向き可愛らしく小首を傾げながら鈴を転がした様な声で俺に何の用事かと問いかけて来る。
間近で見るとまるで作り物の様な美貌に一瞬だけ見入りながら笑顔を崩さない様に気を付けて口を開く。
「いや、さっきギルドの受付で何かお願いしている様な声が聞こえたから俺に手伝える事が有ったら力に為りたいと思ってね。まぁ、要するに自分を売り込みに来たんだよ。良ければ話を聞かせて貰えないかな?」
「本当ですか⁉」
俺の言葉が終わった途端に少女は勢いよく椅子から立ち上がり嬉しそうに俺の両手を握り喋り出す。
少女の身体が近づき花の様な匂いが鼻孔をくすぐる。
「依頼を受けて頂けるなら嬉しいです。先程から色々な方に声をお掛けしたのですけど誰も受けてくださらなくってどうしようかと思っていたんです。あ‼私はリーフと言います。薬師です。こちらは私の護衛を務めてくださっているワコさんと相棒の月夜です」
簡単に自己紹介を終えてから彼女は事の経緯を説明しだす。リーフから聞いた話によると彼女達もこの国には来たばかりで来て早々診察した患者の治療に少し珍しい薬草を使った薬が必要だった様で冒険者に薬草の採取依頼を出すも誰も受けてくれず。仕方がなく自分で採取に行こうとしたが薬草の生えている森には冒険者ランクが足りずに入れなかった。
俺が見た一幕は丁度その場面だったらしい
それで食堂で護衛依頼してくれる冒険者を探したがリーフ自体は戦えないと知ると軒並み断られてしまった。
「だから貴方が護衛を受けてくださるのならとても心強いです。えっと・・・」
嬉しそうにそう言うリーフが唐突に困った顔で俺の事を見て来るのでそう言えばまだ名乗っていない事を思い出し、口を開く。
「あぁ、そう言えば俺はまだ名乗って無かったな。俺の名前は月濱 純也だ。仲間も気軽にジュンヤと呼ぶからジュンヤと呼んでくれ」
そう言った俺にリーフは少しだけ迷ったような顔をしてから口を開く。
「えっと・・・ツキハマ・ジュンヤさんは家名持ちなのですね・・・ジュンヤさんはお貴族様でファミリーネームなのですか?」
リーフの言葉にそう言えばこの世界は貴族以外に名字を持っている人間は少なく、外国同様ファーストネームが先に来ると思い出し俺は首を振って訂正する。
「いや、俺は貴族じゃないけど少しだけ特殊な身の上でね。ジュンヤはファーストネームなんだ。だから畏まる必要は全然ないぞ」
そう言うとリーフは表情を緩めると口を開く。
「そうでしたか、すみませんでした。それともう一つすみません。まだお会いしたばかりですのでツキハマさんと呼ばせて頂いても良いですか?」
「あぁ、構わないよ」
リーフの言葉に笑顔で答える。
「ありがとうございます。ツキハマさん。では、護衛の件。お願いしても宜しいでしょうか?」
「あぁ、こちらこそよろしく頼む。向こうに仲間が居るから詳しい話は向こうに行ってからしようか?」
「はい‼ワコさん、行きましょう‼」
リーフの言葉にワコが頷き立ち上がる。上手く彼女達の依頼を受けられた事に内心、ほくそ笑みアンナ達の待つテーブルに向う。
「ちょっと待ってもらえるかしら?私達もその子に相談が有るのよ」
歩き出そうとした俺達は唐突に声を掛けられ驚き立ち止まる。
その喋り方は女性の様な口調だがその声が野太く低い事だ。
驚き慌てて振り向くと其処には筋骨隆々なスキンヘッドの男と黒髪を後ろで束ねた細身の男が立っていた。
ここまでの読了ありがとうございます。
次回も火の勇者視点です。
次回もごゆるりとお待ち頂けたら幸いです。




