モヤッとする
おはようございます。
第135話投稿させて頂きます。
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☆は視点変更です。和登→コハクです
楽しんで頂けたら幸いです。
☆
煌びやかな照明に優美な音楽が流れ中央のダンスホールで複数人の男女が踊っている。
中でも目を引くのが薄い青色のオフショルダーのドレスと右肩から右腕全体をすっぽりと覆うドレス用のマントを身に纏い顔をヴェールで覆い腰まである艶やかな茶色い髪を靡かせながら踊る少女と光輝くプラチナブロンドの髪にエメラルド色の瞳、整った顔立ちに甘い笑みを浮かべている青年だ。
青年の方はアラン・テルトゥス・イリア。この国の第二王子で人当たりも良く正に貴公子と呼ばれていそうな青年だ。話を聞いていた限りコハクとは学友だったらしい。
女性の方はお察しかもしれないがメイド長や他のメイドさん達の手で綺麗にドレスアップされたコハクだ。髪の毛は最新の魔法技術で作られたエクステンドらしい。
今は社交の場で使っているというアーンバル・クレスプクルムを名乗っている。
そんな二人を見ながら俺は声を掛けてきたそうにしている令嬢避けも兼ねて少しだけ不機嫌そうに息を吐く。
此処に来る前にコハクには注意された事が4つある。
1.勇者の血を家系に取り込もうとする家が居るかもしれないので声を掛けて来る貴族には注意する事
2.不用意に異性と二人きりにならない事
3.信用できる人が持ってきた飲み物以外口にしない事
4.ペア同士なるべく一緒に行動する事
以上が此処に来る前に注意された事だった。
ペアの割り振りは、乾が早乙女さん。一緒に暁の国に行ったペア。戌夜が湊瀬さん。同じく一緒に白夜の国に行ったペア。そして最後にオレとコハクという割り振りだった。
本来だったら俺はコハクをエスコートする予定だったがイリアに着いた際に政治的な理由でコハクはアラン王子がエスコートする事になった。
俺には別にエスコートする女性を紹介すると言って来たがそれは断り俺は一人でパーティー会場に行く事になった。
結果として一人で参加するような形に為った俺はイリアの国の令嬢達の視線に晒されながら壁際に避難して周りを観察する事にした。
しばらく周囲を観察していたが視線は自然と二人の方を向いてしまい再び不機嫌に息を吐いてしまう。
「不満なら自分もダンスに誘ったら良いんじゃないですか?」
腕を組んで壁に寄り掛かっていると戌夜と湊瀬さんが躍り終わって戻って来て湊瀬さんがそんな事を言う。
「どういう意味だ?」
顔を顰めながら湊瀬さんに言葉の真意を聞くと彼女は若干呆れた様な視線を俺に向けながら口を開く。
「先輩それ本気で言ってます?さっきからコハクちゃんとアラン王子の方を見てすごく機嫌悪そうにしてますよ?踊れなくて不満なら誘わないと後悔しますよ?」
「確かに。先輩は何時も人当たり良いのに誰も近づきたくないぐらい不機嫌なのって珍しいですよね」
湊瀬さんの言葉に戌夜も頷きながら話し出す。
そんな二人に俺は顔を顰めたまま適当な答えを告げる。
「別に機嫌が悪そうに見えるのは邪魔な連中を引き寄せないためだよ。コハクも言っていただろ一人になった時には気を付けろってな。俺にはパートナーが居ないから念の為だよ。コハク達は関係ない。」
「う~ん。相当機嫌が悪いね・・・」
「自分で自分の事を誤魔化している所が質が悪いですねぇ・・・」
俺の言葉に何やらコソコソと話し合っている二人をジロっと睨む。
「コハクちゃんパーティー嫌いだって言ってましたし、今後、踊るチャンスはもう無いんじゃないですか?本当に後悔しますよ~」
「あ~、ハイハイ。乾達も戻って来るしこの話はもう終わりな」
尚もしつこくダンスに誘えと言って来る湊瀬さんの言葉を適当な言葉で切り上げこの話を終わりにする。
大体、何となくモヤッとした気分になるのだって一昨日まで懐いていた猫が他人に懐いているのを見ている様な物だからだ。そうに違いない‼
「あ、コハクちゃんのパートナーが変わりましたね」
そんな事を考えていると湊瀬さんがコハクのパートナーが変わったと言うので視線を向けると今度は黄色い髪の青年に手を取られているコハクが目に入った。
☆
「アランと散々踊った後で俺に付き合って貰って悪いな」
予定外のパートナーであるアラン君から交代し、踊り始めた途端にテトがそんな事を言って来る。
「別に気にしてないよ。それよりその礼服やなんかはどうしたの?結構上質な物に見えるけど?」
意外と上手に踊るテトにリードされながら私は彼の格好に疑問を持ち問いかける。
テトは見るからに上質な布の礼服に身を包んでおり髪も丁寧に撫でつけられている。
恐らくアラン君かリスト君が送った物だろうがそうする理由が今一分からない。
そんな疑問をテトにぶつけると彼は何とも言えない表情で答える。
「あ~、なんか今回の件で功績が認められたとかで国王陛下から叙爵を命じられて男爵位を貰ったんだよ。その祝いとかでリストとアランから一通りの礼装をプレゼントされたんだ」
「・・・出世したねぇ~」
テトから思わぬ事を告げられ驚きながらやっとの事でそんな一言を捻り出す。もちろん顔は笑顔のままだ。
「だから一応、家名が付いて今はテト・セルシア男爵って事になった。全く持って柄じゃねぇのに迷惑な話だぜ・・・」
「でも、名誉な事だよ。おめでとう」
心底嫌そうなテトの様子に彼らしいと思いながらも私はお祝いの言葉を彼に送る。
私が言ったお祝いの言葉にテトは顔を顰めながら口を開く。
どうでも良い事だけど踊っている時にあんまり顔を顰めない方が良いよ?
「今まで貴族としての礼儀なんて一切気にしなかった奴が新興貴族になったんだぞ?おめでたい事か?」
「礼儀や領地経営なんてこれからいくらでも学べるよ。リスト君達だって手助けしてくれるんでしょ?」
「まぁな・・・一応、その辺の礼節も面倒見てくれるらしい。ま、一丁頑張ってお前やアランの事を手助けしてやれるように頑張ってやるよ」
「そっか、期待してるよ」
そう言ってニッと笑うテトに私も笑いながら返事をして二人共踊りに意識を戻す。
躍っている途中で視界にリスト君と今回私がこの場に出て来る原因に為ったリルが目に入りイリアに戻って来た時から疑問に思った事をテトに聞いてみる。
「そう言えばリルとリスト君って男爵家と侯爵家で家柄的に不釣り合いになりそうだけどリルは何処かの家に養子に入ったの?」
私の疑問にテトは先程浮かべていた笑顔を苦笑に変えて答えてくれる。
「いや、リルは相変わらずミューウェルク男爵家の令嬢だぞ。確かに縁談の話が上がった時にはうるさい貴族連中からぜひ養女にって声が上がったらしいけどリストが全部関係無いって言いながら無表情で突っぱねてたからな・・・あれにはアランも苦笑いだったぜ」
「そうなんだ・・・」
テトの言葉にその場面を想像してしまい私も苦笑を浮かべながら答える。
そんな話をしていると曲が終わりダンスを止める。
「さ、曲も終わった事だし勇者の人達のとこに行くか」
そう言って私の手を引きながらテトは壁際に居る皆の元へと連れて行ってくれた。
「あ‼アーンバルちゃんお疲れ~」
「アーンバルちゃんお疲れ様」
皆の元に行くと夢菜さんと光さんが何だか機嫌の悪そうな狗神君の近くで手を振りながら迎えてくれる。
「じゃ、俺は行くな。何時に為るかは分からねぇけどまたこっちにも帰って来いよ。勇者さん達もコイツの事よろしく頼みます。じゃ、クレプスクルム女公爵。またな‼」
「はい、セルシア男爵も御達者で‼」
私を送り届けるとテトはそう言って私達から離れて行ったので私も公爵として言葉を返す。
テトの姿が見えなくなってから私は狗神君に声を掛ける。
「狗神君。大丈夫?なんか機嫌が悪そうだけど・・・」
「あー、大丈夫。大丈夫。ちょっとだけ心の整理が付いてないだけだから直ぐにいつも通りになるよ」
私の言葉に大丈夫という狗神君に何か言おうと思ったところで乾君と山辺君が飲み物を持って戻って来た。
丁度良いので私はそろそろ御暇しようと思っている事を皆に告げる。
全員からの賛成を得たので私達はクルシナ陛下に一言断り私達は黄昏の国に戻る事にした。
因みにリルはリスト君からの熱心な要望によりしばらくイリアに残る事になった。
皆を転移陣で国に送った後で私は使った転移陣を回収した後でリング・オブ・トワイライトの能力を使い帰還する。面倒だが師匠が居る限りこっちの方が機密を確実に保持できるのだ。
「皆、お疲れ様。明日からまた厄災との戦いになるから今日はゆっくり休んでね」
国に戻り髪と目の色を戻しながら皆にそう告げると唐突に狗神君に腕を掴まれる。
「悪い、少し俺に付き合ってくれ」
驚いていると私の返事を待たずに彼は手を引いて城の中を歩いて行く。彼の様子に出迎えに来てくれたメイド長や他の勇者達も驚いた表情を浮かべる。
皆を置いて連れてこられた場所は普段使う事のあまり無いパーティー用の大広間だった。
なぜこんな所に連れてこられたのか分からず頭にはてなマークを浮かべていると狗神君は掴んでいた手を離して私の方に向き直り口を開く。
「コハク、唐突で悪いけど最後に俺と踊ってくれないか?」
そう言いながら右手を差し出す彼の手に私も自分の手を乗せて笑顔で答える。
正直、心残りに為っていた事を彼が言ってくれて少し嬉しい。
「喜んで」
音楽も何も無かったが狗神君と踊ったダンスは私にとってその日一番楽しい時間だった。
ここまでの読了ありがとうございます。
今回でイリア編は終わりです。
次回もごゆるりとお待ち頂けたら幸いです。




