8年越しの後悔
おはようございます。
第134話投稿させて頂きます。
評価ポイント・ブックマークありがとうございます。とても励みになります。
また、誤字脱字報告もありがとうございます。
今回、少し長めかもしれません。
楽しんで頂けたら幸いです。
ベッドの中で悶絶しながらカレコレ1時間程が経過する。
正直、今日はもう誰とも顔を合わせたくない上に部屋からも出たくないが昨日迷惑を掛けた狗神君とヴァネッサに謝罪とお礼を言って明日の事を皆に伝えなければならない。
そんな事を考えながら非情に緩慢な動きでベッドから起きて準備を行ってから外に出る。
「あ、こはく。おはよう」
「・・・おはよう・・・狗神君・・・昨日はご迷惑をおかけしました・・・」
羞恥心に打ち勝ち稽古場まで行くと狗神君が先に来ており朝の挨拶をしてくれたので私も気恥ずかしいが挨拶を返し昨日の謝罪をする。
「あはははは・・・昨日はコハクにとっては災難だったな・・・」
「なるべくなら忘れて貰えれば幸いです・・・」
「あ-、ナルベクドリョクスルヨ~。それより、酔った後の事も覚えているみたいだけど体調は大丈夫なのか?」
「なんかカタコトだったのが気になるんだけど・・・体調は大丈夫だよ。幸い二日酔いには為ってないみたい。まぁ、少量のお酒だったし本格的に飲む様に為ったらどうなるのか分からないけど・・・記憶もばっちり残ってる・・・」
後は尻すぼみに答える。いかん・・・思い出したら恥ずかしさがぶり返した・・・
幸いなのか不幸なのか私は酔った時の記憶が残るタイプの人間だったのだ・・・初めてそれが分かったのはフェル達と小父様が酒盛りをしていた時に頭からお酒を被った時だったか・・・
「そうなんだぁ・・・まぁ、あれだな・・・これからは人の前では絶対に酒は飲まない方が良いな」
「・・・気を付けるよ・・・さ、この話は忘却の彼方に放り投げて稽古をしようか?」
そろそろ気まずくなったので話を切り少し離れて木剣を構える。
「OK、今日は勝てそうだな」
「言ってなよ」
そんな軽口を叩きながら私と狗神君は稽古を開始した。
小一時間程、木剣で稽古をしてから汗を流し食堂に行くと丁度良いタイミングだったようで他の皆も食堂に集まり朝食を摂る。
朝食を摂って少ししてから私は今回のイリスで起きた革命の顛末と明日、イリスで行われる祝勝会について皆に話した。
「わあ‼」
「クラシアの勇者のお披露目会はあまり楽しくなかったけど祝勝会なら楽しめそうかな?」
「へぇ~」
「ほぉ~」
「事の顛末は聞いてたけど祝勝会の事までは知らなかったなぁ・・・」
夢菜さんと光さんは目をキラキラさせながら男性陣は些か面倒くさそうな顔で各々反応を示す。
まぁ、現実問題として私は男の子の方の反応の方が正しいと思うけどねぇ・・・本当は彼等だって貴族のドロドロした世界に放り込みたくないけど今回ばかりは仕方がない。
「あれ?コハクちゃん。祝勝会って事はドレスコードとか絶対にあるよね?何時もの戦闘服で行くの?」
楽しそうな顔をしていた夢菜さんがふと思い出したように私に聞いて来る。
「二人にはドレスを用意して有るよ。男性陣も一応あの戦闘服は礼服としても使える様に作られているけどちゃんとした礼服も用意して有るからどちらでも好きな方を着て行くと良いよ」
「何時の間に・・・」
「コハクちゃんは行くのかな?」
夢菜さんが此方の仕事の早さに戦慄していると光さんが首を傾げながら私の出席について聞いて来る。
私は何でもない事を装いながら口を開く。
「あ~、申し訳ないんだけど私は今回顔を見せて動き過ぎたし、元々私は顔を見られない様にしているからね。此処で出て行って正体に繋がる様なヘマをしたくないんだよ」
「ほんとうにそれだけ?」
「モチロンダヨ」
そう言った私に光さんは疑問の眼差しを向けて来る。
思わず目を逸らしながら答えた私の事を光さんはジーっと見つめるので私は渋々もう一つの理由を話す。
「あと素直に言えば私はパーティーの系統が好きでは無いからね。なるべくなら行きたくないんだ。先方にも私ではなく代理の者が行く事は伝えて有るから皆も何か有ったらその人を頼ってよ」
私のもう一つの理由を聞いてジト―っと男性陣から狡いという視線を向けられるがそこは華麗にスルーしておく。だって行きたくないんだもん
ジト―っとした視線を向ける男性陣とは別に夢菜さんと光さんは何故か笑みを浮かべながら揃って口を開く。
「「う~ん。そんなに思い通りに行くかなぁ~」」
クルシナ陛下にしても夢菜さん達にしても何で私が欠席の旨を伝えると満面の笑みで上手く行かないような事を言って来るのだろう?
そんな疑問を抱きつつも私はこの後の予定を皆に伝える。
「さて、今日の予定なんだけど皆は外に行く用事は無いよね?」
私の言葉に全員が頷く。その様子を確認してから今度は私が笑みを浮かべ皆がゲンナリする一言を告げる。
「じゃあ、今日は久しぶりに皆にはダンスの練習をして貰うね?バラン、メイド長。準備をお願い」
「「畏まりました」」
「「「「「げっ‼」」」」」
私の無慈悲な言葉とバランとメイド長の返事に5人かあら悲鳴が上がる。
うんうん、悲鳴を上げたくなる気持ちはわかるよ。バランのダンス指導は「鬼か‼」っと言いたくなるもんね。私も過去に何回泣いた事か・・・でも、ダンスも踊らないと鈍るからねぇ・・・しょうがないねぇ・・・
「勇者様方は5人.。奇数なので久しぶりにコハク様も一緒に稽古をいたしましょうか?しばらく踊っておられなかったのです。コハク様も相当に鈍っておられるでしょう?」
悲鳴を上げる皆を眺めながら紅茶の入ったカップに口を付けているとバランから思わぬ事を言われて咽込んでしまう。
「ちょっと待ってバラン‼私は明日の祝勝会には参加しない‼それに午後から予定より早く直った《カグツチ》を受け取りに行く為に鍛冶屋に行く用事も有る‼よって私にダンスの練習は必要ないと宣言する」
慌ててバランに練習が必要ない事を言うと普段は従順に言う事に従ってくれる彼は何処か涼しい顔で宣言する。
「コハク様、鍛冶屋へ行く御用事は午後からですので行く直前までにすれば良いのです。それにコハク様は一国の王なのです例え今回のパーティーにご出席されなくとも何処かでダンスを披露する事が有るかもしれません。その時に無様な姿を晒せば国の威厳に関わる上にコハク様が恥をおかきになるのですよ?よって私は本日、コハク様にダンスの練習をされることを推奨いたします」
淡々としかし断れない様に適度に脅しも混ぜながらバランが強制して来る。
「それに同じことをして勇者様方ともっと親交を深めるのも良い事でしょう?」
「あー、私もそれ賛成で~す」
「一人だけ逃げ出すのは許さないよ」
バランの言葉に夢菜さん達が同意する。
・・・というか光さん、眼の光を消して物騒な事言うのヤメテ・・・
「はぁー、分かったよ・・・但し、さっきバランが言った様に私は午後に為ったら鍛冶屋に行くからね‼やっと《カグツチ》が戻って来るんだからこれは絶対に譲らないからね」
皆からの視線に負け、私は午前中までという事を強調してダンスの練習に参加する事を了承した。
結果として私達は先生であるバランに「相当、鈍っている」と言われ、みっちりとしごかれた。
午後になり昨日一昨日とは別の理由でフラフラになりながらも鍛冶屋に向かい親方を呼び出して貰う。
少しして親方が布に包まれた長剣を持って奥から現れる。
今更だが修理に出している間は《カグツチ》の盗難防止機能はオフにしてある。
親方が持っていた長剣を目の前のカウンターに置き布を外すとそこには見慣れた朱色の刀身がヒビ一つなく輝いている。
「親方、ありがとうございます」
「おうよ‼また何か有れば俺に言ってこい」
綺麗になった剣にホッとしながら親方にお礼を言うと親方は笑顔で何か有れば頼れと言ってくれた。
その言葉で私は有るものを思い出し親方に見せる事にする。
「親方、早速なんだけどこれを見てくれる?」
私はアイテムボックスからトリガーやリボルバー等の部品を取り出し親方に見せる。
親方はそれらの部品を見て首を傾げながら口を開く。
「うん?お嬢、何だこれは?」
「これは改造された女神の贈り物の残骸なんだけど調べて欲しいんだけどお願いできますか?」
実はこれはナウゼリンの剣の残骸で私が国に戻る際に女神の贈り物部分が消えて残骸に為った物だけが放置されていたのでこっそりと持ち出したのだ。
「よく分からんがお嬢の頼みだ。その依頼引き受けたぜ」
「ありがとうございます」
親方が快く引き受けてくれたのでお礼を言い。お願い事の料金を支払って《カグツチ》を受け取り城にも帰った。
その日の終わりに私はまたお風呂上りに襲撃され愉快なエステ隊に全身を磨き上げられてしまった。
翌日、相変わらず時間の経過は早い物で皆はパーティー様にドレスアップする為にメイド長率いるメイド軍団に連れられて行き、私は何故か皆が着替えている部屋の前で待機させられる。
少しすると男性陣が先に準備を終えて出て来た。
「なんか落ち着かないな・・・」
「クラシアの時には向こうの世界の服装のままパーティーに出されましたからねぇ・・・正装は初めてですね」
「俺はこっちに来てから一回正装したなぁ・・・」
着替え終えた三人は何だか気恥ずかしそうに話しながら女性陣の着替え終わりを待つ。
「それにしても俺達より時間が掛かってる所を見るとこれだけ早い時間意準備するのも納得できるな・・・」
「化粧とか色々有りますもんね」
待ち始めて20分ほど経過したあたりで乾君と山辺君がそんな話をしている。
それからもう少しして部屋のドアが開きドレスアップされた二人が部屋から出て来る。
「お待たせしましたぁ~」
「すみません。時間が掛かりすぎました」
「「「おぉ~」」」
夢菜さんは薄い黄色、光さんは薄い赤色のオフショルダーのドレスを身に着けている。
二人のドレスアップされた姿を見て男性陣から感嘆の声が上がる。
うんうん、確かにメイクアップもされているし二人ともすごく綺麗だね。
私は全員の反応を楽しみながら最後に出て来るであろうリューンを待つ。
リューンには一昨日のお酒事件の罰としてパーティーへの参加を命じて有る。
私の侍女をしてくれているが彼女はメルビスの娘で公爵家の人間なので身分的にも作法的にも本来、私なんかより出来る子なのだ・・・まぁ、普段がアレなので皆忘れているんだけどね・・・
そんな事を考えながら部屋から出て来る三人目の姿を見て私は驚きの声を漏らす。
「はぁ⁉」
そこには何時ものメイド服姿のリューンが涼しい顔をして立っている。
リューンの姿に驚いている内に何時の間にか私の両脇は夢菜さんと光さんにガッチリとホールドされてしまい、二人との身長差の分だけ体が宙を浮く。
「さ、今度はコハクちゃんの番だね」
「さっさとメイクアップを済ませちゃおう」
笑顔でそんな事を言う二人はそのままズルズルと私の事をメイド軍団のいる部屋へと引き摺って行く。
「ちょ‼ちょっと待った‼私は行かないって言ったよね⁉」
部屋の近くまで来てヴァネッサにヒョイっと抱き上げられ部屋に引きずり込まれる寸前に空いているドアの淵に捕まり抗議の声を上げると夢菜さんが近くに来る。。
「うん、確かにそう言ってたね。でもね。コハクちゃん。私は約束は守らないといけないと思うんだ」
夢菜さんはニッコリと笑いながら私のドアの淵を掴む私の手に触れ言葉を続ける。
そうしている間にも私を引き摺りこもうとするメイド達の数が増えている。
「リルちゃんから聞いたんだぁ。8年前にドレス姿を見せて貰う約束をしていたけど未だに見せて貰っていないって。だからリルちゃんから今日の祝勝会に何としてもコハクちゃんを引き摺りだしてって私達二人とメイド長さん達に連絡が有ったんだぁ~」
そう言って私の指を一本ずつ引き剥がす。
「大体、コハクちゃんも油断し過ぎだよぉ~。何のためにヴァネッサさんとルージェさんをメイド長さんがこっちに戻したと思っていたの?本来だったらもっと早く気が付いてたよね?」
そう言っている間にもどんどん指を剥されとうとう右腕が完全に外される。
「まぁ、今回はコハクちゃんの負けって事で大人しく私達と一緒に行こうよ」
笑顔で左の指を外しにかかる彼女に私は自嘲の笑みを顔に浮かべて口を開く。
「・・・くそ・・・8年前の約束をまだ憶えていたか・・・夢菜さんも光さんもメイド長やメイド軍団も憶えてろよ・・・絶対にこの借りは返してやるからな・・・」
「それじゃあ、いってらっしゃーい♡」
その言葉と同時にとうとう最後の指が剥され私は部屋の中に引きずり込まれた
引きずり込まれる直前に男性陣の方から「女ってこえぇ・・・」っという言葉が聞こえて来たのだが全く持ってその通りである・・・
此処までの読了ありがとうございます。
あと一話ぐらいでイリア編が終わる予定です。
私の急な変更から終わらないかもしれませんが・・・
ごゆるりとお待ち頂けたら幸いです。




