啞然とする広場
おはようございます。
第127話投稿させて頂きます。
評価ポイント・ブックマークありがとうございます。とても励みになります。
また、誤字脱字報告もありがとうございます。
前回投稿できずに申し訳ありませんでした。
楽しんで頂けたら幸いです。
☆は視点変更です。リスト→コハクです。
☆
「早く媒体を探し出せ‼」
「結界の解析を急げ‼」
「絶対に逃がすな‼」
騎士や魔法使いが怒鳴り声を上げながら走り回っているのを横目に見ながら俺は学園近くの中央公園に置かれたテーブルの上で学園の見取り図を睨む様に見ているアラン殿下の顔を見る。
反逆者クライトとデイルとその一派に利用され暴動を起こそうとした町の住民を穏便に鎮圧し、予想されていたより早く戻って来た騎士団のお陰も有り早々に討伐し、クライト達を確保出来るところまでは追い詰めたが最悪な事に奴らは学園に結界を張りそこに逃げ込んだのだ。
「不味いな・・・クライトは学園の隠し通路を使うつもりか・・・」
「隠し通路?そんなもんが有るのか?」
地図を睨みながら唸る様にそう言うアラン殿下に戻って来てからずっと不機嫌なテトが最近使っていた敬語をかなぐり捨てて訝しげに聞いている。
俺もアラン殿下も子供の時からの付き合いなので彼の口調を気にしていないが一部の騎士はタメ口で話す彼にギョッとした顔をしている。
アラン殿下はそんな騎士達の様子を気にする事無くテトに答えている。
「王族しか知らない隠し通路が至る所に有るんだ。隠し通路と言いつつ中は迷路のように複雑で中も広い物がね。普通は城だけだと思うけどね・・・当然クライトも知っているし彼等はそこから逃げるつもりなんだろうね。まぁ、あのプライドの塊みたいなデイルや着飾るのが大好きなクライトやダミアが地下を通るなんて・・・「————あ————」・・・なんか聞こえる?」
そう言い辺りを見回すアラン殿下につられて俺とテトも耳を澄ました途端に周囲に女性の悲鳴が響き渡る。
しまった‼まさかまだ残党が居たのか⁉・・・というよりこの声とても聞き覚えの有る声なんだが・・・
「あああああああああああああああああああああああ‼‼‼‼‼‼‼‼‼‼‼」
そんな事を考えていると大きくなった悲鳴と同時にフワリと俺達の目の前に何か白い物が降り立つ。
唐突に表れた人影に俺も周囲を見渡していた騎士も冒険者も皆が目を丸くしてしまう。
それ自体が光を発している様に錯覚するほどに美しい銀色の髪を持つ見覚えの有る人影・・・コハクは立ち上がると腕に抱いている誰かに向けて声を掛ける。
久しぶりに会った時には仮面とフードで顔を隠していた彼女は、今は顔を隠さずにこの場に現わられ冒険者や騎士の視線を釘付けにしている。
「えっと・・・大丈夫?」
驚く様な登場とは裏腹に誰かを気遣う様な声音で訪ねる彼女の腕に誰かが抱かれている。
その言葉に彼女の腕に抱かれているもう一人は硬直が解けたのかもぞもぞと動き出し文句を言う。
「もう‼コユキちゃんの馬鹿馬鹿馬鹿馬鹿馬鹿馬鹿‼なんでこんな無茶ばかりしてるの‼効率主義とか言っていたけど絶対効率的じゃないよね⁉危うく死ぬかと思ったよ‼」
先程までの緊迫した空気を壊すかのように大きな声で叫びながらコハクの事をコユキと呼び、ひょっこりと顔を出し彼女の胸元を抱き上げられながらもポカポカと叩く少女・・・・最前線に向って行ったリルの姿を見て無事だった事にホッと胸をなでおろす。
「ごめん。ごめん。罵倒やお叱りは後で受けるよ」
そんな気の抜ける様なやり取りをしながらリルの事を地面に降ろしたコハクは真面目な顔を作り今度はアラン殿下の方を向き、口を開く。
降ろされてもなおポカポカと背中を叩くリルがその緊張感を台無しにしている所が何とも言えないが・・・
「久しぶりだね。アラン君、積もる話も有るけど時間が無いから現状の確認だけさせて貰えるかな?」
「全く、8年前に姿を消していきなり現れたかと思ったらいきなり本題かな?コユキ。まぁ、今は本気で急いでいるからしょうがないか」
コハクの言葉に先程のリルの呼び方から状況を予測した殿下が話を合わせ、呆れた様子でコハクに状況を説明する。
周りの騎士達や冒険者などは突然に現れた彼女に対して警戒の表情を浮かべているが殿下の様子から口を挟んでは来ない。
彼等へ説明は後でコハク達と打ち合わせよう・・・
そんな事を考えているとコハクへの説明が終わったのかコハクが口を開く。
「なるほどね。要は結界さえ破壊してしまえば良いんだよね?」
「あはははは・・・・結構面倒くさい物だからそれが出来たら苦労しないんだけどね・・・」
別に何でも無い事の様に言う彼女に殿下は苦笑いを浮かべながら答えるとコハクは更に言葉を続ける。
「簡単な事だよ」
そう言うと彼女は何もない空間に手を突っ込み一振りの剣を取り出すとスタスタと人をかき分けて学園の門に向かって歩き出す。
冒険者や騎士は彼女の言葉に訝しげな表情を浮かべながら道を譲る。
そんな彼等の様子を意に介さず彼女は鞘から剣を抜くと二、三度、周囲を見回してから刀身に触れて何かを呟くと結界の張られている門に向かってその刃を振り下ろした。
その様子を見ていた騎士や冒険者達は呆れた様子で彼女を見ている。
中には「アレで壊れたら苦労しねぇぜ」っと明らかに馬鹿にした様子の者までいる。
それもそうだろう通常なら結界は張った本人かその構造を解析しなければ解除なんて不可能だ。
コハクの行動に呆れ果て各々の持ち場に戻ろうとした彼等の耳にガシャンっと信じられない音が聞こえて来る。
驚き門の方に目を向ければ俺達を散々悩ませてくれた結界は無残にも粉々に砕かれていた。
彼女は結界が崩壊したのと同時に学園の中に駆けだして行った。
☆
「きゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁ‼‼‼‼」
腕の中で悲鳴を上げるリルをしっかりと抱きしめながら羽織の力で空気を操り足場を作って宙を蹴る。
落下中に何度も空気の足場を作りそれを蹴って速度を殺しながら地面に向かう。
先程からリルはずっと悲鳴を上げているけどまぁ、普通はそうだよね・・・ごめんね?
そんな事を考えながら宙を蹴り続けて漸く目的地である公園に降り立つ。
とりあえずリルの確認が優先だね・・・
周りの視線が何となく集中している気がするけどあんな登場の仕方をしたら仕方がないか
「えっと・・・大丈夫?」
私の言葉に半ば放心状態だったリルはハッとした顔になり顔を真っ赤にしてポカポカと私の事を叩きながら怒り出す。
「もう‼コユキちゃんの馬鹿馬鹿馬鹿馬鹿馬鹿馬鹿‼なんでこんな無茶ばかりしてるの‼効率主義とか言っていたけど絶対効率的じゃないよね⁉危うく死ぬかと思ったよ‼」
「ごめん。ごめん。罵倒やお叱りは後で受けるよ」
怒っているには怒っているのだろうけど私の事をコユキと呼んでいてくれている所と全然痛くない所を見るとこれからの事を考えて手加減してくれているのだろう・・・後が怖いなぁ・・・
内心でそんな事を思いながらリルを降ろしてこちらを生暖かい目で見ているアラン君に向き直り口を開く。
「久しぶりだね。アラン君、積もる話も有るけど時間が無いから現状の確認だけさせて貰えるかな?」
「全く、8年前に姿を消していきなり現れたかと思ったらいきなり本題かな?コユキ。まぁ、今は本気で急いでいるからしょうがないか」
私の久しぶりという言葉とリルの呼び方から私が魔王として来ていない事を察してくれたのか苦笑いを浮かべながら話に乗ってくれる。
隣にいるテトは些か不愉快そうに私の事を一瞥したが今は何も言う気は無いらしい。まぁ、見限られたと言った方が正しいのかもしれない・・・
意外な事に少しだけ寂しく感じながらアラン君から現状の説明を受け私は思考を切り替えてアラン君と話す。
「なるほどね。要は結界さえ破壊してしまえば良いんだよね?」
「あはははは・・・・結構面倒くさい物だからそれが出来たら苦労しないんだけどね・・・」
私の言葉にアラン君は苦笑いを浮かべ周りからも呆れた様な馬鹿にしたような視線を向けられる。
まぁね・・・私も普通の人間だったら「何、言ってんのコイツ?」みたいな態度を取ってしまっただろう。でもね。君達の前に居るのは魔王なんだよ・・・知らないだろうけど
そんな事を考えながら私は何でもない事の様に言葉を続ける。
「簡単な事だよ」
そう言いながら私は少し前にアイテムボックスにしまった《クラミツハ》を再び取り出し人をかき分けて門の近くまで行く。
結界みたいな物を破壊する時には女神の贈り物や勇者や魔王の武器みたいに時間が経てば勝手に修復してくれるものが有ると便利なんだよね。
眼を使い結界の術式の解読と起点に為る場所を探す。
見っけ‼術式の起点を発見し読み解くと構造の稚拙に些か呆れてしまう。
こんな単純な術式も破れないなんて・・・前にクラシアの事を馬鹿にしたのは撤回した方が良いかな?これなら8年前にネーヴェさんが張った氷結界の方が起点も巧妙に隠されていてよっぽど質が悪かった・・・
結界の破壊方法はその結界を構成していると相性の悪い属性を展開されている術式に合わせて流してやればいい。まぁ、私にそんな事は関係ないんだけどね。
因みに七つの属性で相性が悪い属性は《火→風→土→雷→水→火 光⇔闇》とこんな感じである。
過去に先代との戦いで《フィジカルフルブースト》で私の身体が自壊していったのはあの魔法が反発するエネルギーを使っての強化魔法だからだったりする。さて、話がずれたけどそろそろこのお粗末な結界を破壊するか・・・
えっと、この結界の属性は闇の魔法で構成されているみたいだから光の魔法を叩きこんであげればいいね。
《クラミツハ》の刀身に触れて周りに聞こえない程度の声音で《ルクスエンハンスアーマメント》を掛けて剣を振るう。
起点に為る核に剣を振るい結界を構成している術式を無理矢理切り裂く。
「アレで壊れたら苦労しねぇぜ」
私の行動を冷やかすように見ていた冒険者の一人が馬鹿にしたような一言を放った瞬間にガシャンっと結界が崩れる音が鳴り響きその場に居た全員が呆然とした様子が伝わって来る。
馬鹿だね・・・ゴルク達のお陰で誰の差し金で嫌気香が弄られたのかを私は知っている。よって、今の私は結構怒っているんだよ?生半可な行動を取る訳が無いじゃないか。
さぁ、デイルにクライト、私の故郷を危険に晒してくれた対価は払ってもらうぞ・・・
少しだけふらつく足に喝を入れ、唖然とした様子の人達を置いて私は一番に学園内に向かって走りだした。
読了ありがとうござました。




