黄昏時に響く悲鳴
おはようございます。
お久しぶりです。本日より再開させて頂きます。
第126話投稿させて頂きます。
楽しんで頂けたら幸いです。
☆は視点変更です。和登→コハク→リルの順です。
「何とか為ったか・・・?」
魔物を切って数時間が過ぎた頃、周囲に展開していた魔物が居なくなり動く者が俺達だけに為った所でそんな一言が飛び出しその場にひっくり返る。
周囲は血塗れだしこんな所に寝転がりたくは無いけど疲労が限界で動けない。
寝転ぶ前に皆の事を見て見たけど乾や戌夜達も同じ様な物だった。女の子は寝転ぶわけにはいかないのかしゃがみ込んでいる。
フュッテさん達斥候部隊も戦闘はメインではないので皆ぐったりした様子だ。
流石に何時間も魔物と戦うのはきつかったか・・・
目を閉じて寝転がっていると近くに誰かが来た気配がする。
「イヌガミ様、大丈夫ですか?傷の手当等をしますので少し此方に来てください。お手をお貸ししましょうか?」
「あぁ、ありがとうございます」
差し出してくれた手を素直に掴み彼に引っ張られながら起き上がる。
正直、このまま寝て居たいけど体があっちこっち痛むし手当てをして貰った方が良いだろう・・・
そんな事を思いながらフュッテさんに肩を借りながら歩き出そうとすると目の前に人が一人通れそうな穴が現れる。
過去に二回見た事の有る穴は俺にとっては安堵の象徴だ。一度目は自分の処刑の時、二回目はコハクの生存を知らせてくれた穴だからだ。
そんな事を思っていると予想通りの人物が穴を潜り抜け姿を現す。
別れた時に被っていた仮面を着けておらず。顔色も悪くて服に穴が開いてそこから見える素肌にあちこち血の跡が付いているがポーションを使った様子が見て取れたので少し、ホッとする。
コハクは俺達の方を向くとホッとした様子を見せるがフュッテさんに肩を借りている俺を見て心配そうな顔になり口を開く。
「狗神君‼フュッテ‼良かった。無事だったんだね・・・怪我をしたの?」
不安げに聞いて来るコハクを安心させる為に一度フュッテさんから離れ、俺達の状況と彼女が今一番知りたいであろう村の事を話す。
「いや、流石に長時間の戦闘に慣れてなかったから疲れて動けなくなっちゃったからフュッテさんに肩を借りてるだけだよ。俺や乾達に細かい怪我は有っても命の危険が有る様な怪我は無いよ。コハクの故郷も無事だよ」
そこまで喋るとコハクは安堵したように表情を和らげ直ぐに表情を引き締めると口を開く。
「そうか、良かった・・・狗神君、とりあえずはお礼を言わせてありがとう。勇者の皆と斥候部隊の皆のお陰で故郷を守れた。フュッテ達も本当にありがとう。皆に心からの感謝を・・・」
「ま、魔王様⁉我々に頭など下げないでください」
そう言って俺達に向けて頭を下げるコハクにフュッテさんは慌てて頭を上げる様に促している。まぁ、主君から頭を下げられたら誰だってビビるか・・・
「これは礼儀だよ。フュッテ、私は君達に無理を強いたんだからね・・・被害報告は後で聞く。私はまだやらないといけない事が有るからね。しばらく、ここで待機してネージュが戻ったら勇者を含めた皆で城に帰還してくれる?しんどいかもしれないけどお願い」
「魔王様、まさかやる事とは・・・」
そう言いながらネージュが居る方に向かって歩こうとするコハクにフュッテさんが声を掛けるとこちらを振り向きコクンと頷く。
「ゴルクからまだ戦闘が続いていると連絡が有った。私はこれからイリアの首都に向かう。後を頼んだ」
「しかし、魔族と勇者は人間の戦争には不干渉では無かったのですか?」
「そ、魔族と勇者はね」
コハクはそう言うと少しだけ悪戯をする子供みたいな笑顔でコートを脱ぐ。
その下には先の戦いであちこちに血が付いてボロボロになった薄く青み掛かった白い冒険者服が現れる。
「これで私は魔王でもなんでもないただのコユキだ。この国出身の冒険者が介入してもおかしなことは無いし、仮面の下の私の顔を知っているのはあの国ではクルシナ陛下とアラン君、ライオネス王太子、リスト君、テトぐらいだからね。いくらでも誤魔化せるよ」
そう言ってクスリと笑いながらコハクはネージュ達の元へと歩いて行った。
☆
狗神君達と話した後、私はネージュ達の休んでいる場所に行き先程狗神君達としたような問答を終えてからネージュに聞く。
「ネージュ、かなり無理させる事になるけどもう一度だけイリアの首都に向かって飛んでもらえる?私を降ろした後はまたここに戻って来て皆と一緒に城で待っていて貰いたいのだけど・・・」
「飛べるけど主と一緒に居られないの?なんで?」
私の質問にネージュは些か不機嫌そうに答える。
どうやら自分だけ先に帰る事に不満が有る様だ・・・
私はネージュの顔を撫でながらしっかりと理由を教えてあげる。
「この国と結んだ約束でネージュを含めた魔族は人間同士の争いには介入してはいけないの。ネージュはトワの姿の時に皆に見られているから姿を見られてしまうと約束を破った事になってしまうの。実は私が今からする事もギリギリ駄目な範疇なのだけど私だけなら誤魔化しが効くの。私の自分勝手な理由でごめんね。帰ったら沢山一緒に居よう?それじゃあ、だめ?」
「お歌も歌ってくれる?」
「もちろん。ネージュが寝るまでいくらでも歌ってあげる。お願いできる?」
「・・・うん、わかった。主、顔色も悪いし、無理だけはしちゃヤダよ?」
「ありがとう。ネージュ」
そう言って頭を摺り寄せて来るネージュを撫でているとリルが声を上げて会話に入って来る。
「あ、あの‼コハクちゃん。私も一緒に行って良い?私だってこの国の人間だもん一緒に行きたい」
そう言って手を挙げるリルは何が何でも付いて行くという意思を瞳に宿している。
正直、リルも無理をしているしゆっくり休んでもらいたいけどこういう時の彼女は意思を曲げないので私は素直に頷く事にする。テトとの仲も取り持ってもらいたいしね・・・
「分かった。直ぐに動ける?魔力が少ないならこれを飲んで時間が無いから直ぐに出発するよ」
リルにエーテル薬を渡し、ネージュの準備をしようとするとリルは私の手をがっしりと掴み離さない。
疑問に思いリルの方を向くとジトっとした目で口を開く。
「準備も大切だけどコハクちゃんはまず服を着替えようか?そんなボロボロの格好で行くなんて女の子としてどうかと思うよ」
その言葉にチラッと自分の格好を確認するとあちこち破れて自分の血が付いている。
まぁ、正直言ってあまり外聞の良い恰好とは言えないけど今は時間が無いんだよなぁ・・・
そう思いながら視線をリルに戻すと独特な威圧感を放ちながらニッコリと笑ってゆっくりと口を開く。
「き が え よ う ね?」
「・・・はい」
リルの威圧感に耐えられず私は素直に頷きネージュの陰に隠れて新しい服に着替える事になった。あれは絶対に逆らってはいけない物だ・・・
またトムさんに補修を頼まないとなぁ・・・
「じゃあ、私達は行って来るからネージュが戻ってきたら皆で先に城に戻っていてね。ポーション類は置いて行くから皆の治療に使ってね。頼んだよ」
数分後、無事に着替えを終えて二人乗れる大きさに為って貰ったネージュに乗りながら私は残る皆にそう声を掛ける。
「分かりました。魔王様とリル様もお気をつけて」
「コハク、リル、怪我するなよ」
「気を付けるよ」
狗神君達とのそんなやり取りを最後にネージュに声を掛け私とリルは首都に向けて飛び立った。
☆
「コハクちゃん、そう言えば首都の方の戦況ってどうなっているの?」
皆と別れて少し時間が過ぎて日が沈み暗くなって来た空を飛ぶネージュちゃんに乗りながら私は普段よりも顔色の悪いコハクちゃんに首都の状況について聞く。
コハクちゃんは手綱を握りながら思ったよりも軽やかな口調で答えてくれる。
「少し前にゴルクから聞いた話によると首都の方もそれほど深刻じゃないみたいだよ。貧民街の人達を使った暴動なんかも有ったみたいだけど無事に鎮圧出来たみたいだし、反乱分子も大方捕らえたらしいよ。あとはクライトとその取り巻き達を捕まえれば漸くこの事態も収束するよ」
その言葉を聞き、私はほっとしながら口を開く。
「良かった・・・大きな被害は無かったんだね?」
「こっちから戻した部隊が思った以上に早く帰って来たみたいだからね。まぁ、被害状況は直接見て見ないと分からないけどね・・・」
そんな会話の後また少しして目的地である首都の王城が見えて来たころに私は一体どうやって皆の所に行くのかとふと疑問に思ってしまう。
反乱が起こってしまったので当然、街に入る為の門は完全閉鎖だし、魔王軍の介入を知られないためにもネージュちゃんで皆の居る所に降り立つわけにもいかない。
そんな疑問が頭に浮かび私はコハクちゃんに聞いてみる。
「コハクちゃん、どうやって皆と合流するの?そもそもどうやって街の中に入るの?」
そんな質問をしている間にもネージュちゃんはどんどん進み中央公園が見える場所にまで迫って来た。見ると無数の明かりが遥か下に見えている。
距離的にも相当上空を飛んでいるみたいだ・・・まさかとは思うけど・・・ねぇ・・・
頭に思い浮かんだ嫌な予感を振り払う様に頭を振っているとコハクちゃんが口を開く。
「リル、実はさっき着替えた時に私は少し装備を変えているんだ。今、私の着ている羽織は風の精霊の加護を持っている特殊な物なんだ。これを着ていると空中での歩行が出来る様になるんだよ」
そう言ってニコリと微笑むコハクちゃんは女の私でも惚れ惚れしてしまう程綺麗だったけどそれと同時に彼女の言葉で嫌な予感がじわじわと形に為って行く。
そうこうしている内にネージュちゃんは首都の上空で旋回をし始める。
「リル、怖いと思うけど私を信じて少しだけ我慢してね」
そう言うとコハクちゃんは器用に鞍の上に立ち私の事をひょいっと横抱きにする。
あ、これ本当に不味い奴だよね⁉コハクちゃんすっごく良い笑顔だけど此処から飛び降りるつもりだよね⁉
内心で突っ込んでいるとコハクちゃんはネージュちゃんに向かって話しかける。
「ネージュ、此処までありがとう。皆の所に戻って先に城で待っていてね」
「うん、主も気を付けてね」
「ありがとう。ネージュも道中気を付けて。じゃあ、リル。準備は良い?」
コハクちゃんが私に確認を取って来たので無駄だと思うけど悪足搔きをしてみる
「コハクちゃん、ごめんね。私やっぱり皆の所に戻りたいなぁ・・・なんて・・・」
私の言葉に笑顔を崩さないままコハクちゃんは絶望的な一言を付ける。
「ごめんね。リル。皆への説明も有るから無理。しっかり口を閉じていてね」
ですよね~、だってさっきから私の身体を抱き上げている腕が身動きできないぐらいに力が込められてるもん・・・全然痛くないけど
その一言と同時にふっと体に浮遊感が襲う。
「え⁉ちょ⁉待って‼まだ心の準備が・・・きゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁ‼‼‼‼」
日が沈んで暗くなった夜空に私は悲鳴を響かせながら首都の広場に向かって落下していった。
二週間お休みさせて頂きありがとうございました。
また村娘Aをよろしくお願いいたします。




