第4の厄災戦・4
おはようございます。
第124話投稿させて頂きます。
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地を蹴って走る私にトネリコはその触手を素早く伸ばしてくる。
両手の剣に向かって素早く放たれた触手をギリギリで避け前に進む。
間合いに入りトネリコに向かって《オカミノカミ》を振ろうとすると右側から蛇型の魔物が襲い掛かって来る。
「邪魔だぁぁぁ‼‼」
右手に持つ《クラミツハ》で両断している内にトネリコは私から距離を取り再び間が空いてしまう。しかも、トネリコに近づけない様に数十匹が私達の間に入り邪魔し、数匹が私に向かって来る。
くそ‼周囲に居る魔物が邪魔過ぎる‼まずは邪魔な雑魚を一掃する‼
「私の持つ贈り物が《ティアマト》だけだと思うなよ‼啜れ‼《クラミツハ》」
その言葉と同時に右手で握っている《クラミツハ》の柄から棘上の突起が飛び出し、手袋を貫通して私の手の平から血が流れ出す。
此処で少し、《カグツチ》の代わりに使っている女神の贈り物について説明しておこう。
《クラミツハ》、クラスは他の女神の贈り物と変わらず《レジェンド》クラス。薄い水色の刀身の長剣。特徴は使用者の血を啜り、その血を自在に操り攻撃を行う事が出来る。
しかし、使用者にも大なり小なり体にダメージが入り、能力の使用中は《クラミツハ》を握り常時、血を与え続ける必要が有る。また、能力の使用中は《クラミツハ》本体の切れ味は著しく落ち、戦闘では役に立たなくなる。
そう言った理由から《カグツチ》や《オカミノカミ》に比べると些か扱いが難しい癖のある長剣故に私は今まで使用しなかった。
私から流れ出た血を啜り《クラミツハ》の刀身が赤く染まって行く。
赤く染まった刀身を確認し、襲い掛かって来る魔物に向けて《クラミツハ》を振ると振った後に複数に枝分かれした枝状の血液の塊が空中に残り、襲い掛かって来る魔物達がその鋭い先端に突き刺さる。
血液の塊に突き刺さり、もがく魔物は数分もすると徐々に体から水気が失せて干からびて行く。
それを確認してから私は周囲に浮かぶ光球に追加の命令を出す。
「《アクア・バインド》《パラライズ》《フレイム・ショット》《ウインドウエッジ》《ブラインド》《アース・ニードル》《サイプレス・サーヴァント》」
追加の術式で魔法を発動させ周囲の魔物を一掃し魔物の血を吸って些か大きくなり、丸い形に為った血球を近くに引き寄せ見失ったトネリコを探す。
攻撃で上がった土煙の中をトネリコが別の魔物の集まりの方に逃げて行くのを見つけ攻撃の為に近くに漂う血球に向かって命令を出す。
「《ブラッド・ランス》」
私の命令に血球から鋭く尖った槍が複数に枝分かれしながら放たれる。
此方の動きに気が付いたのかトネリコは私の方を向き触手を伸ばして応戦してくる。
攻撃の為に私の方を向いたトネリコの剥き出しの眼球と私の目が合った瞬間、一瞬思考に霞が掛かる。
くそ‼目が合っただけで洗脳効果が有るのか・・・
生まれた時から持っているスキル《女神の加護》で私と私の周囲に居る人間は洗脳や魅了等の効果は受け付けない。実は、少し前に戦ったフレスト?が持っていた《誘惑の魔眼》が私やリル達に効かなかったのも地味にこのスキルのお陰だったりする。
しかし、今回はこのスキルを以てしても一瞬、思考に霞が掛かり思考停止してしまった。恐らく相当強力な洗脳だったのだろう。
内心で毒づきながら私に迫る複数の触手を当たるかギリギリの所で避ける。
避けた際に一本の触手が仮面に掠り仮面が粉々に砕け破片で頬を切った。この馬鹿力め‼
トネリコの方を見ると私に攻撃を当てる事を優先した為か私と同じ様にブラット・ランスが掠ったようで小さな傷がついている。
「総員‼奴の目を見ない様に気を付けろ‼手記に有った以外にも目を見てもアウトだ‼触手にも気を付けろ‼」
避けた際に崩した体勢を立て直しながら通信で皆に注意を促す。
てか、手記には牙や爪って書いて有ったけどこいつには無いし目で妥当な所か・・・もっと早くに思い至らなければいけなかった・・・
自分の至らなさに些か腹を立てながらトネリコの方に目を向けるとトネリコはアイアンコング(その名の通り体毛が鉄の様に固く、力も強く凶暴な性格の為、並みの剣士では太刀打ちできない厄介なゴリラ型の魔物)に近寄ると唐突にその頭に触手で穴を開け、開けた穴からアイアンコングの頭に触手を突っ込みグチャグチャとグロテスクな音を上げる。
その異様な様子に嫌な予感がして私は血球に指示を出し、自分も剣を突き立てる為にトネリコに向かって駆ける。
私がトネリコに向かって走りだしたのを見て魔物達は再び私を取り囲もうと向かって来る。その魔物達を私の後から血色の槍が無数に枝分かれして襲う。
甘いんだよ‼せっかく道を切り開いたのに塞がせる馬鹿がどこに居る‼お前らに時間を使う余裕は無いんだよ‼
トネリコへの道を一息に走り抜け《オカミノカミ》を振るう。
《オカミノカミ》がトネリコを切り裂く直前で突然、アイアンコングの腕に《オカミノカミ》の刀身を握られ受け止められる。アイアンコングはそのまま刀身を持ち上げる。
頭部を見るとトネリコが頭を弄っていたアイアンコングは白目を剥き、頭頂部には触手を開けた穴に収めたトネリコが寄生して私を見ている。先程、予想した通りアイアンコングの脳を破壊して体を奪ったみたいだ。
内心で舌打ちをしたのと同時に私の身体は地面から浮き上がりアイアンコングの後方に向かって剣ごと投げ飛ばされる。
クルリと空中で一回転し、地面に降り立ち再び剣を構えトネリコに向かって剣を振るう。
アイアンコングの体を得たトネリコは右腕を振るって攻撃してくる。
《オカミノカミ》で右腕を切り飛ばすと切口から血ではなく無数の細い触手が飛び出して私の脇腹と左腕、右足の肉を抉る。
キモ‼なんで傷口から血じゃなくて触手が出て来るの⁉
衝撃的な光景に痛みも忘れて一瞬、思考が素に戻るが直ぐに切り替えて回避行動に移り距離を取る。
距離を取った事で急激に襲って来た痛みに思わず顔を歪めながら左手を見ると先程の一撃で肉が抉れて血が止めどなく流れている。そうこうしているうちに左手から力が抜け《オカミノカミ》が手から滑り落ちてしまう。
足も傷が深いらしく走ることは難しそうだし、脇腹も似た様な感じに肉が抉れているんだろう。
今の状態では走るのも剣を振るのも難しいか・・・
傷の確認をし、トネリコの方を見ると私の傷が相当深い物だと確信したのかトネリコはその剥き出しの目にこちらを嘲笑うかのような光を浮かべている。全く顔が無い脳みそだけの分際で器用な奴だ。
愚かにも 勝ちを確信したのかトネリコは先程までの逃げ腰とは打って変わり私に向かって駆けだし、残った左腕とうねる触手で攻撃してくる。どこからか私の事を呼ぶ声が聞こえて来るが私はそちらを見ずにしっかりとトネリコを見据える。
まぁ、足は潰したし、剣も片方取り落としたとなれば当然の行動だろう。でもね。使えなくしたのが左腕だったのは大きな失敗だよ。
もう少しで私の顔を潰し、その命を奪おうとしていたトネリコの拳が目の前でピタリと止まり小さく痙攣を始める。
トネリコの本体を見ると本体からは鋭く尖った赤い柱が何本も体外に向かて伸びている。
正直、言うとトネリコがブラット・ランスで傷を負った時点で勝負は決まっていたんだよね・・・《クラミツハ》から生み出された血の塊は悪い言い方をすれば毒だ。
《クラミツハ》の支配下に入った血から攻撃を受けると必ず傷を負った体内に血を残し、そこから傷を負った敵の血を汚染し支配下に置いて行く。今回は厄災という事もあってか少し時間が掛かったがやっと汚染が終わったらしい。
そんな事を考えている間にもトネリコの身体からはどんどん血柱が生えて来る。アイアンコングの身体からも血柱が飛び出した時点で最早立っている事が出来なくなったのかトネリコは仰向けに地面に倒れ込んでいく。
その様子を確認してから私は足を引き摺りながらトネリコの本体に近づく。
トネリコを見ると複数の血柱を生やしながら憎々し気に私を見返してくる。油断したお前が悪いんだろ?恨むんなら自分の迂闊さを恨めよ
そんな冷たい視線を向けながら真っ赤に染まった《クラミツハ》を振り上げトネリコに向かって振り下ろす。
ズブ、グチャっという音と共に《カグツチ》や《オカミノカミ》を振るっていた時には味わう事の無い肉をゆっくりと切り刻む感触が右手に伝わって来る。
トネリコは相当な痛みを感じたのか悲鳴を上げる様に右手から生えた触手を暴れさせるが直ぐに触手から血柱が生え地面に縫い付ける。
残虐だしひどい仕打ちかもしれないけど現状で左手が使えないので《クラミツハ》で止めを刺すしかない。《クラミツハ》の能力を解除してやれば楽に殺してやれるのだろうけど私は油断しないしする気も無い。こいつ等の厄介さは第一~第三の厄災で嫌という程学んでいる。楽に殺してやる為にリスクを犯すようなことはしない。
そんな事を考えながら私は何度も何度もトネリコに《クラミツハ》を振り下ろす。最初は暴れようとしていたトネリコは暴れようとするたびにその体に血柱を生やし地面に縫い付けられ十回ほど剣を振り下ろした頃に漸く動かなくなった。
トネリコが完全に死んだ事を確認してから《クラミツハ》の能力を解き、私の右手から棘上の突起が抜けて柄に収納されるのと同時に刀身が元の薄い水色に戻る。それを確認してから辺りを見回すと第三部隊の皆が頑張ってくれたお陰か魔物もほぼ狩り尽くされた様子だ。
その様子に安堵してしまった所為か急激に体から力が抜けて地面に膝をついてしまう。
不味いな・・・血を流し過ぎたのと魔力を使いすぎた・・・
アイテムボックスからポーションを二本とエーテル薬を取り出し、ポーションは一本、腕や足、脇腹等の傷に掛け、もう一本とエーテル薬の中身を煽る。このポーションは飲んでも傷口に掛けても良い所が便利なんだよね・・・
周囲を警戒しながら傷が癒えるのを待ち漸く左手が動く様に為ったのを確認してから《オカミノカミ》を回収し、《クラミツハ》をアイテムボックスにしまっていると後ろからクエウスに声を掛けられる。
「魔王様‼御無事でしたか‼」
私の姿を確認し、些か顔を青くしていたが私がポーションを使った事が分かったのか直ぐに安堵の表情に変わる。
そんなクエウスに私は苦笑いを浮かべながら口を開く。
「一応ね。ポーションも飲んだから心配はいらないよ・・・それで、戦況は?」
「魔物の九割は既に討伐済みでございます。残りもそんなに時間はかからないでしょう。死傷者の数は後ほど・・・」
その言葉に頷き私はこの後の指示をクエウスに出す。
「分かった。第三部隊は魔物の殲滅後、トネリコの死体を回収して転移陣を使って国に帰還しろ。すまないが私は狗神君達の元に向かう」
「イリア軍の援軍ではなく。帰還ですか?」
私の指示にクエウスは疑問を抱いたのか少し遠慮した様子で口を開く。
「私達、魔族は人間同士の争い事には干渉できない。これは国と同盟を結んだ際に取り決めた事だ。どんな時でも例外は無い」
「承知しました。敵の殲滅後に城へ帰還します。魔王様もこれ以上御無理はなさらない様にしてください」
「後は任せた。コリドーオープン」
私の言葉に不満は残った様子だが承知してくれたクエウスに後を任せ私は狗神君達の元に向かう為に急いで回廊を潜った。
此処までの読了ありがとうございます。
次回は勇者視点です。
ごゆるりとお待ち頂けたら幸いです。




