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第4の厄災戦・2

おはようございます。

第122話投稿させて頂きます。

評価ポイント・ブックマークありがとうございます。とても励みになります。

また、誤字脱字報告もありがとうございます。

楽しんで頂けたら幸いです。

「急な話で申し訳ないのですが、今すぐに騎士団と冒険者の方達を連れて首都に戻ってください」


 私のその言葉に周囲に居た狗神君達が動揺も動揺を隠せない様子が伝わって来る。

 まぁ、昨日の内から厄災討伐の為に此処に来たのにいきなり帰れと言われたら動揺もするか・・・


「魔王様、その言葉の意図をお聞かせ願えないでしょうか?皆、真意が分からずに動揺しています」


 そんな中でクエウスがいち早く回復し、私の言葉の意図を聞いて来る。

 私は、出来るだけ声を潜めて簡潔に言葉の意図を周りに居る全員に伝える。

 いやはや、私も有り得ないと思っていた事が起こると思って動揺している様だ・・・


「落ち着いて聞いてください。恐らくですが今から首都で反乱が起きます。皆さんには首都に戻って反乱が起きた時に対応して頂きたいのです」


 カルファダ騎士団長はまだ動揺した様子で口を開く。


「一体なぜそのような話に為ったのですか?それに一体、何者が反乱など・・・まさか・・・」


 そこまで話してカルファダ騎士団長も思い至ったのか渋い顔になり口を噤む。


「お察し頂けた通りの人物ですよ。この予想に至った原因も御想像の通りだと思います。今は首都の方に主力が居ない上に向こうに残った人達もどれだけの人間が王太子及びアラン王子派の人間か分かりません。近衛騎士団が居ても下手をしたらクラシアの介入まで考えられます。ですので、此処は僕達に任せて直ぐに戻って貰いたいのです。まさか、国の存亡が危ういかもしれない時に態々面倒事を増やすような事はしないと思うのですが残念ながら彼等は僕らを良くは思っていませんでしたのでね。無事に厄災を葬って帰ってきたら帰る場所が無かったなんて事になったら皆さんに申し訳が立ちません」


 はっきり言って話している途中で馬鹿と言わなかっただけ冷静だっただろう・・・でも、事は結構、深刻なんだよね・・・

 そんな事を思いながら私は考え込んでしまったカルファダ騎士団長の脇を走ってすり抜けこそこそと通信機に近寄る影を地面に組み伏せる。

 くそ・・・やっぱり当たりか


「そこで何をしている?君は通信兵では無いだろう?そもそも、通信は先程入れたばかりだ。勝手な真似はさせないぞ」

「ぐぁ‼」


 その言葉と共に私は兵士の腕を捻り上げる捻った腕からミシミシと骨が軋む音が鳴り騎士が悲鳴を上げる。些か力加減を誤った事は機嫌が悪いので許して貰おう。


「アルダ⁉」


 私が取り押さえた騎士の顔を見てカルファダ騎士団長驚きの声を上げる。

 そんな騎士団長にアルダと呼ばれた騎士は悲痛な声を上げながら泣きつく。


「き、騎士団長、誤解です‼自分は本国に異変は無いかの確認を取ろうとしただけです‼」


 その言葉と私の行動に周囲はザワザワと騒ぎ出し、此方に注目し始める。

 そんな事はお構いなしに私は一層低い声で男の言葉を否定する。


「嘘を言うな。僕に嘘は通じない。僕達の声はお前の居た場所までは聞こえない。そう言う風に喋っていた。言え、お前はクライト派の人間だな?」


 正直、コイツの口から聞く必要は無いけどね・・・心の中では五月蠅いくらいに罵詈雑言を喚き散らしているし、そもそもコイツがクライトに連絡を入れようとしなければ私は動かない。

 私は尋問する様に更に握っている腕に力を込めて捻り上げる。騎士団長がその行動を止めないのは前もって私の眼に関する情報を伝えて有る為、私には嘘は通じない事を知っているからだ。

 まぁ、理解してもらうまで少しだけ苦労したけど・・・

 腕の痛みが限界に達したのか取り押さえた男は声を荒げながら喚き出す。


「うるせぇ‼てめぇら魔族を信用出来ねえから俺らは国を守ろうとしているクライト様に付いてるんだよ‼大体うさんくせぇんだよ!得する事が何もねぇのに魔族が人間の為に動くわけねぇだろ‼信用してほしかったらそのフードを外して顔ぐらい見せやがれ‼それが出来ねぇならしゃしゃり出てくんじゃねぇ‼わかったらとっとと離しやがれこのクソガキ!」


 口汚く罵倒しながら暴れようとするが悲しいかな私とは体格差が有るのに男の体はピクリとも動かない。

 そんな行動にそろそろコイツの意識刈り取るか?もういらなくね?等と物騒な事を考えているとそれまで黙っていたカルファダ騎士団長が私に向かって声を掛けて来る。


「魔王陛下、誠に申し訳ないのですがアルダを離して貰えないでしょうか?」


 カルファダ騎士団長に手を離して男を離してやる。


「くそ‼この野郎‼」


 解放されて感情的に掴みかかって来ようとした男を内心呆れたまま足を蹴り再び地面に転がす。

 あのねぇ~、さっきまで押さえつけられていた相手に敵うわけがないでしょう?

 てか、君の所の騎士団長が話そうとしているのに失礼だろ?


「立てるか?アルダ?」


 私がそんな事を考えているとカルファダ騎士団長は硬い表情でアルダに手を貸して立たせる。


「騎士団長、お手を煩わせて申し訳ございません」


 騎士団長の手を取り、立ち上がった男は話しを聞いてもらえると思って騎士団長向かって口を開く。

 心なしか周りの冒険者や他の騎士達が男に向ける視線が厳しくなっている。

 え?うちの兵達や狗神君達?殺気バリバリですが何か?


「騎士団長、私の事を助けてくれたという事は私の事を信用して下さるという事ですよね?騎士団長もこんな怪しい奴らよりクライト王子殿下の味方に付いてくだるんですね?」


 おぉ・・・すげぇ・・・コイツの精神構造・・・散々、言ってくれたくせにまだ騎士団長が自分の味方だと思ってやがる(言葉の乱れ失礼)

 おっと、馬鹿(本音失礼)の思わぬ思考回路についついメイド長やバランに頭の中を見られたら間違いなく淑女矯正教育コースを叩きこまれそうな言葉使いに為ってしまった・・・

 てか、馬鹿にはやっぱり馬鹿が付くんだね?類友って奴だね☆

 そんな風に衝撃的な相手の思考に言葉遣いやキャラ崩壊を起こしているとカルファダ騎士団長は恐ろしいぐらいに静かな声音で口を開く。


「そうだな、アルダ。まず歯を喰いしばれ・・・」

「へっ?」


 そんな間抜けな声を出した後、男が錐もみしながら飛んで行き、私の目の前から消える。

 えぇ・・・まだ歯を喰いしばって無かったよ・・・

 いかん・・・今日の私はキャラ崩壊が激しい・・・てか、こんな事をしている場合じゃないんだけど・・・


「この愚か者がぁぁぁぁぁぁぁ‼‼‼‼‼‼主君を裏切っただけでは飽き足らず。この国を救うのに力を貸してくださっている魔族の方々を愚行するかぁぁぁぁぁ‼‼‼国のことを考えていないくだらない思想と言葉に唆されよって‼貴様は一体、騎士団で何を学んだんだ‼」


 私と周りの人間が飛んで行った光景に唖然としていると騎士団長の怒鳴り声で周囲の空気が揺れる。

 あの・・・どうでも良いですけど多分その男に聞こえてないと思いますよ・・・

 全員で目を丸くしていると騎士団長は私の方に向き直り勢い良く頭を下げる。


「魔王陛下、魔王軍の皆様‼部下が不愉快な思いをさせてしまい申し訳ございません‼」


 私達に謝罪をする騎士団長に私は我に返り言葉を返す。


「いえ、それよりもだいぶ時間を浪費しました・・・急いで皆に知らせて撤退の準備を・・・」


 そこまで言った所で今度は私の通信機に斥候部隊から連絡が入って来る。

 定時報告には早い・・・嫌な予感しかしない・・・


「どうした?」


 手で騎士団長に断りを入れてから急いで剥がれかけていた魔王様メッキを塗り直し右耳を抑え通信に答えると焦ったような声で斥候部隊の一人が答えて来る。


「魔王様‼大変です‼魔物の第三出現地点からそちらに向かっている魔物の一部がルートから外れています‼」


 慌てた様にそう捲し立てる言葉に私は奥歯を噛みしめてから口を開く。


「落ち着け、どこの方向に向かっている?」


 珍しく慌てている斥候部隊の一人に落ち着くように告げ魔物の行き先を聞く。

 私の言葉で少し落ち着いたのか彼は魔物の向かった先を告げて来る。


「申し訳ございません。魔王様も落ち着いてお聞きください・・・リステナ村の方向です・・・」


 リステナ村に向かっている・・・

 その言葉に私は耳に手を当てたまま固まってしまう。

 一瞬、思考を停止させた後で私は急いで村への到着予想時間を聞く。


「村への到着予想時間は?」

「リステナ村への到着予想時間は約7時間後、そちらに厄災とその他の魔物が到着するのとほぼ同時と思われます・・・・」

「原因の調査を‼何かわかればすぐに報告しろ!それとルートから外れた魔物を追跡して常に情報を上げろ‼無理に攻撃を仕掛けるな‼」

「はっ‼」


 予想時間を聞き私は次の行動に移るために指示を飛ばす。

 そんなやり取りをし、通信を切った私を皆が緊張した面持ちで見ている。少ししてカルファダ騎士団長が心配そうな顔で話しかけて来る。


「魔王陛下、何か問題が起きたんですね?」

「えぇ・・魔物の一部が此方の仕掛けたルートから外れて別の方向に向かいました・・・進路にはリステナ村が有ります・・・このまま行けばこっちに魔物が来るのとほぼ同時に村に襲来するみたいです」

「なっ!?」


 私の言葉にテトが驚きの声を上げる。私も驚いたので当たり前だろう・・・


「我々が国に戻るとなると村への救援はどうするおつもりですか?」


 表情を硬くしたままの騎士団長に私は自分の動揺を気づかれない様に注意しながら非情な言葉を告げる。


「村への救援は派遣しません。皆さんには先程言った通り首都に戻って貰います直ぐに用意をして向かってください」


 その言葉と聞きテトは私の首元を掴み睨みつけながら低い声で問いかけてくる。


「コハク、お前正気か?村を見捨てるつもりかよ」

「私は、コハクなんて名前じゃない。戦力的にも村の救援に回す余裕も無ければ時間的にも間に合わない。それに首都と一つの村どちらかを選ばなければいけないのならば首都を選ぶのは当然だ。これは黄昏の魔王としての判断だ。反論は許さない。ただ厄災を殺せばいい訳じゃないんだ。勝利条件を間違えるな」


 テトの手を振り払いながら私は冷たく言い放つ。

 振り払われた手を固く結びながら悔しそうな顔で私から顔を背けポツリと呟く。


「あぁ、そうかよ・・・魔王に為ってもお前は変わってねぇって思ってたけど・・・とんだ勘違いだったぜ・・・」

「どうだろうな。案外こっちが本性だったのかもしれないぞ」

「・・・そうかよ」

「あ‼テト君‼」


 そのやり取りを最後にテトは私の前から去って行きその後をリルが追いかけて行く。

 テトの事はとりあえずリルに任せよう・・・

 そんな事を思いつつ私は気まずそうな顔になった周りの人間に向かって行動を促す。


「先程も言った通りです。皆さんはすぐに支度してください」

「分かりました・・・」


 有無を言わせぬ私の言葉にリルのお陰で多少落ち着いた様子のテトを含めた人達は数十分後に荷物を纏めて急いで首都に向かって行った。


「敵の到着まで少し休む。何か有れば知らせてくれ」

「了解しました」


 騎士団長達を見送った後、私はクエウスにそう告げると天幕の中に引っ込みフードと仮面を取り外し、息を吐く。

 後悔するな・・・お前にそんな資格は無い。

 そう自分に言いながら数日前に見た優しく笑う人々や穏やかな村の光景を思い浮かべて泣きそうになるのを慌てて叱責する。

 泣くな‼泣く資格なんてますますある訳が無い。泣くぐらいなら最初から見捨てるなんて選択を取るな‼お前には後悔する資格も泣く資格もある訳が無いんだ


「コハク?少し良いか・・・?」


 下した結論に後悔しそうになる自分を激しく攻め立てていると控えめに後ろから声を掛けられる。


「何?」


 振り向き、返事をするとそこには少し驚いた顔になった狗神君が立っている。


「あ~、少し聞きたい事が有ってね」


 狗神君はそう言いながら私の下に近づいて来る。

 目の前に来ると真剣な顔で口を開く。


「本当に村を・・・コハクの故郷を救う方法は無いのか?」

「・・・」


 そう言う狗神君の言葉に私は言葉に詰まってしまう。

 実は一つだけどうにか為るかもしれない方法が有る。彼等勇者にネージュと共に魔物の討伐に行ってもらうのだ。でも、その方法で危険に為るのは彼等勇者だ。私の我儘で彼等に危険に晒されてくれなんて言えない。

 私の沈黙を肯定と取ったのか狗神君は更に言葉を続ける。


「有るんだな?ならその方法を実行しよう。内容を教えてくれ」


 そう言いながら狗神君は優しく笑う。


「一つだけ・・・だけどこの方法は絶対に取れない・・・」

「なんで?」


 優しく先を促す狗神君に私はゆっくりと口を開く。


「君達が危険な目に会う。私の我儘で皆を危険な目に会わせられない・・・」

「でも、第三の厄災の時には俺達にも頼ってくれたよな?」

「・・・あの時は周りにオウルも居たし、頼りにならなかったけど私も近くに居た・・・でも、今回は狗神君達だけに行って貰う事になる・・・魔物相手とは言え危険度は跳ね上がる・・・私は現状の統括者だ。無理矢理この世界に連れてこられた皆に危険な作戦を強いるなら村を諦める」


 私の言葉に狗神君は優しく頭に手を乗せて撫でながら問いかける。


「それは本心?」

「もちろんだよ」

「泣きながらそう言われても説得力が無いな」


 その言葉に私は驚いて頬に触れ、その手が濡れている事に更に驚く。

 知らない内に泣いていた・・・?

 驚きの表情を浮かべる私に狗神君は頭を撫でながら話を続ける。


「気付いてなかったのか?普段、泣かないコハクが泣くぐらい悔しいんだろ?こんな状態で厄災に勝っても俺達がすっきりしないよ。なら、打てる手は全部打ってみようよ。案外うまく行くかもしれないぞ?」


 そう言って優しく笑う彼の顔を見ながら私は袖口で目を拭い。口を開く。

 てか、私凄く子ども扱いされてる?・・・まぁ、こんな失態を見られたら仕方がないけど・・・


「狗神君、今からネージュに乗って魔物達の所に行ってもらう事を皆に伝えて貰える?何度も何度も申し訳ないけどお願い私達の故郷を助けて」

「任せとけ‼皆、話は聞いてたよな‼」


 私の言葉に今度はニカッと笑うと天幕の入り口に向かって声を掛ける。

 驚いて入り口の方を向くと入り口の布を持ち上げ残りの皆が立っていた。

 うそ・・・泣いている所見られてた・・・?

 口々に皆がしてくれている同意の言葉を聞き流しながら私は一人、羞恥に顔を赤くしていた・・・

 ・・・最近、感情の制御が出来て無くない私・・・


此処までの読了ありがとうございました。

次回もごゆるりとお待ち頂けたら幸いです。

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