第4の厄災戦・1
おはようございます。
第121話投稿させて頂きます。
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さて、時間は少し過ぎ私達は首都から馬で半日程、離れた平原に黄昏とイリアの混合軍を展開させている。
此処までの間にも結構、色々な事が有った。
まず、首都の方に戻ってきたテトと再会し私の事を話したり、狗神君と訓練を続けてまだ多少の不安定さを残しながらも魔法が使える様に為ったり、夢菜さんがとりあえずはネージュなら安定して龍に乗れるようになったりと本当に色々な事が有った。まぁ、それなりに準備も整ったし、言う事は何もないのだけどね。
ただ、クライト側が今日まで何も言ってこなかった事だけが不安な所だ。
『魔王様、対象は第二ポイントを順調に通過したっす。このまま順調に行けばあと半日程でそちらに到達するっす』
クライト側の事を気にしていると厄災達の通り道に観測班として配置しているゴルクから通信が入る。
その通信に私は思考をいったん中断し、ゴルクに返答を返す。
「了解、ゴルク達は第二待機場に移動して他のサポートをお願い」
『了承っす‼』
そう言って通信を切り私は集まった皆の方を向き、口を開く。
「皆さん、厄災はあと半日程で敵が此方に来る予定です。準備を整えておいてください」
待機していた騎士や冒険者、黄昏の国の兵からの返事を聞きながら皆から少し離れた場所に移動し、道具の再確認を行う。
それにしても、先代の手記に書いて有った誘導が効いてくれて助かった・・・流石に数か所から同時に現れる魔物や厄災を出現場所で迎え撃つのは無理が有ったからね・・・でも、順調な時ほど注意が必要だ・・・何処かに何か見落としている事は無いか・・・
そんな事を考えながらコート内に隠し持っている投げナイフや《カグツチ》の代わりに今回使用する剣をアイテムボックスから取り出していると後ろの方から声を掛けられる。
「よぉ、コハク。こんな所で何してんだ?」
その声に私は人の集まっている場所から外れた場所に居てよかったと心底思った。此処には不特定多数の人間が集まっているのだ。誰かに聞かれたらシャレにならない。
仮面の下で呆れたような表情になりながら私は声の主に向かって注意をする。
「あのねぇ、テト。正体を明かした時に言ったでしょう?この格好の時にはトワ。次にその名前を読んだら物理的に君の口を塞ぐよ」
「あ、わりぃわりぃ。つい癖で言っちまった」
振り向きながらそう口にすると当の本人は頭を掻きながら謝って来る。
全く、学生から募った勇士で参加してくれているのだからありがたいのだが私の正体については注意してほしい・・・
私は溜息を一つ吐き、テトに用事を聞く為に口を開く。
「それで?君は僕に何か用事かな?」
「おう、そうだ。これを渡そうと思ってたんだよ」
テトが訪ねてきた理由を聞くと彼は思い出したように右手に持っていた黄昏の国から送って貰った携帯食を私に差し出してくる。
私は首を傾げてその意味を促す。
「お前、昨日ここに来てから何も胃に入れてないだろ?まだ、敵が来るまでに半日有るんなら今のうちに食っとけよ。食える気分じゃないのも分かるけど食える時に食うのも仕事の内だって俺の師匠も言ってたぞ。食わねぇといざという時に思考が鈍るぜ」
確かにテトの言う事は一理ある。緊張で食欲など無いなど言っている場合じゃないな・・・
全く周りの人間の事を心配できるなんて本当に彼はこの8年で成長しているな・・・
「・・・ありがとう。全くテトに心配されるとは僕も焼きが回ったかな?」
「けっ、うるせーよ。俺だって成長してんだよ」
そんな憎まれ口を叩きながら携帯食をテトから受け取り近くの草原に腰掛け、包みを剥す。
そんな私を見てテトも横に腰掛け同じ様に携帯食の包みを剥し、大きく口を開いて齧り付く。
「お‼黄昏の国の携帯食は美味いな」
「これでも日々改良しているからね。他の国の携帯食も食べた事あるの?」
「あぁ、学校の訓練やなんかで他の国に行った事も有ったからな。携帯食や保存食の現地調達なんて何回もやったぜ」
そんな会話をしながら私達は集まった集団を見ながら食事を続ける。
見ていると騎士や冒険者、黄昏の国の兵士達や勇士で集まってくれた学生達が話しているのが見える。前もって顔合わせをしていたお陰か警戒した様子やギスギスした様子はうかがえない。
あ、あんな所で狗神君達勇者組と騎士団長さん、うちの第三軍団長のクエウスが話をしている。
ちなみにこの中に副団長は居ない。騎士団長さん曰く万が一に備えて一部の部下と共に首都の警護にあたっているらしい。まぁ、それは表向きな理由で私達に突っかかって行かない様に騎士団長達が配慮してくれたのだろうけどね。
その様子を見ながらテトは手早く携帯食を食べ、懐から二本目を取り出す。
二本目って・・・これ一本で結構お腹いっぱいに為る様に作って有るんだけどなぁ・・・良く食べるね・・・君。
そんな事を思っていると二本目の包みを剥しながらテトが奇妙な物を見る様な顔で口を開く。
「妙だな・・・クライト王子の取り巻き共が一人も居ねぇ・・・」
「別に妙な事は何もないだろ?彼らが自分の命を懸けて僕達と一緒に戦うなんてとても思えないけど?」
テトの言葉に私は首を傾げながら思った事を話す。
だってクライトやデイルは私達の事を嫌っているし、自分の命第一主義だから別におかしな所は何もないだろうに・・・
私の言った事にテトは口に含んでいた携帯食を飲み込んだ後に口を開く。
「それは俺も同感なんだが、何かいやに俺に突っかかって来る奴が一人居てな。そいつが数日前に俺が首都に戻って来た時に次の戦で大きな手柄を立ててやるってニヤニヤしながら言って来たんだよなぁ・・・でも、此処には来てねぇし・・・途中で怖気づいたのか?」
そう言って再び携帯食を口に含むテトの言葉に私は少し考え、咀嚼しているテトに一つ質問をする。
「テト、今この場にアラン君やライオネス王太子派の人間はどれぐらい居る?」
私の言葉にテトは再びゴクンっと喉を鳴らして嚥下してから答えてくれる。
「騎士団の人らについては知らねぇけど学園の奴等は殆ど今回の作戦に参加してんな。騎士団もそうなんじゃねぇか?」
「じゃあ、今、首都にはアラン君達派の人間は殆ど居ないんだね・・・」
「まぁ、全員ってわけじゃないだろうけどな」
その言葉で私の中に何とも言えない気持ち悪さが渦巻いて来る。
「おい?大丈夫か?」
食事の手を止めて考え込んでいる私にテトが心配そうに声を掛けて来るけど今の私は反応を返せない。
テトに宣戦布告をしていた生徒の不在、此処に集結している現王太子、第二王子派の人達、逆に首都に大勢残っている第三王子派の人間、都合良く残っている反魔王派の副団長とそれに付き従う一部の騎士・・・
そこまで整理してみて私は現状で起らないと思っていた事態が起こる可能が有る事に気付き持っていた携帯食を落とす。
「おい、本当に大丈夫か?」
そんな私にテトは先程と同じ様に声を掛けて来るが私は返事もしないで急いで立ち上がり話をしている騎士団長達の方に向か合って歩く。
テトも慌てた様子で私の後を追って来る。
「カルファダ騎士団長、少し良いですか?」
急いで近づいてきた私に談笑していた皆が驚いた様子で私の事を見る。
「トワ陛下?何か有りましたか?」
カルファダ騎士団長は驚きながらも私に用事を聞いて来る。
私は驚く皆を他所に単刀直入に内容を話す
「急な話で申し訳ないのですが、今すぐに騎士団と冒険者の方達を連れて首都に戻ってください」
私のその言葉にそれまで弛緩していた空気が一気に引き締まった。
次回はしっかり戦闘に入る予定です。
ごゆるりとお待ち頂けたら幸いです。




