修理依頼
おはようございます。第118話投稿させて頂きます。
評価ポイント・ブックマークありがとうございます。とても励みになります。
また、誤字脱字報告ありがとうございました。
楽しんで頂けたら幸いです。
朝の日差しと頭を預けているフワフワふかふかの毛皮から伝わってくる心音でゆっくりと目が覚めて行く。
目を開けると一足早く起きたのかネージュとテルミアはもうベッドの上には居なかった。ついでに抱いて寝ていたオウルも・・・
「よう、起きたか?」
押し付けている耳からも響いて聞こえて来る声にそう言えば、エリス・ケールから受けた恐怖が抜けずにフェル達に無理を言った事を思い出す。
私は未だに何か有ると彼等に甘えるような行動を取る。転生して意識が体に引っ張られていたらしく。小さい頃にやって貰った事で物凄く落ち着いてしまうのだ。
その最たる行動がこのフェル枕だ。昔、幽霊系の魔物と戦った時にフェル達がこうして一緒に寝てくれたお陰で少しずつ恐怖心が薄れて眠る事が出来た。まぁ、幽霊系との戦いなんて今でも嫌だけど・・・
「おはよう・・・フェル」
そんな事を思いながら私はゆっくりと体を起こしフェルに挨拶をする。
「おはよう、早く顔を洗って着替えて飯を食え、そんなにゆっくりと出来ないんだろ?話したい事も有るしな」
そう言うとフェルは私の寝間着の襟首を咥えて持ち上げ、ベッドから降り洗面所に向かう為に部屋の外に出る。この眠り方をすると私はとことん子供っぽくなるため大体こんな形で何時も運ばれている。
全く持ってお世話になりっぱなしだ・・・
でも、そのお陰かは分からないが昨日のエリス・ケールに対する恐怖心は薄れ、何時もの様に行動できるようになった。
「さて、顔を洗って意識がはっきりしたな。飯の前にお説教があります。少しそこに正座しなさい」
顔を洗って意識がはっきりするとフェルが出口でお座りの姿勢のまま前足でタシタシと床を叩き私に正座をする用に促す。
はて?何か怒られる事をしたかな?
「お前もテルミアももう16歳になるんだ。そろそろ少し男の事を警戒しなさい。俺達は男なの‼簡単に一緒に寝ようなんてもう思わないの‼」
そのフェルの言葉で私は正座をさせられた意味を察する。
要するにもう少し男に警戒心を持てって事か・・・失礼な・・・私だって誰彼構わず一緒に寝るわけではない。
まぁ、心配してくれているのは分かっているんだけどね。
「でも、フェルとオウルは私とテルミアを女として見てないでしょう?」
私が首を傾げながらそう言うとフェルは何とも言えない顔で呆れた様に言葉を返す。
「確かに俺とオウルはお前達の事を妹ぐらいにしか思ってないけどな。そう言う問題じゃないんだよ」
「心配してくれてありがとうフェル。気を付けるよ」
前足の肉球で顔面をぽふぽふと押しながらそう言うフェルに私は笑いながらお礼を言う。
あ、でも、テルミアは妹じゃ駄目だったんだ・・・
「あ、そうだ。私はその扱いで大丈夫だけどテルミアの気持ちにはちゃんと答えてあげなよ?」
「どういうことだ?」
私の言葉にフェルは頭に?を浮かべながら首を傾げた。
・・・駄目だこりゃ
呆れながらそんな事を考えていると今度は何故かフェルが呆れた様に口を開く。
「俺の事はどうでも良いが、お前はどうなんだよ?」
「私?なんで?」
「いや、お前もう16歳になるし、勇者・・・特に和登の事とかどう思ってるのかと思って・・・」
「・・・弟子?」
「駄目だこりゃ」
ついさっき私が思った事をフェルは呆れた様に口にした。
何なんだろういきなり?私と彼にそんな雰囲気は一切ないだろうに・・・
そんなやり取りの後、私は何時もの装備に着替え、皆と朝食を摂ってから一度、黄昏の国に帰る為に転送装置のある場所に向かう。
「それじゃあ、フェル、オウル、テルミア、お世話になりました。色々ありがとう」
見送りに来てくれた三人に振り向いてお礼を言う。
いやはや、やはり昨日の私は冷静では無かった・・・オウルが眠そうだもん。本当にごめんね・・・
「コハク様、今度はゆっくりお話しさせてください」
「気を・・・張り・・・つめ・・・過ぎるな・・・よ・・・」
「俺達を頼る事は気にするな。お前ばかりに動き回らせて悪いな」
フェルの言葉に私は首を振って答える。
「フェル達や小父様が此処で他の国ににらみを利かせてくれているから私は安心して動き回れるんだよ。これに関しても本当にありがとう」
「そっか、こっちこそあんがとな。それとな、エリス・ケール事だが、奴が此方に接触してきた以上、優達にも話しておいた方が良いと思うぞ。後、なるべくなら彼等に隠し事もしない方が良いかもな」
「そうだね。私もそうした方が良いと思う。ヴィレドさんやマティスさんに関しても話しておくよ」
「嫌な役をやらせてわりぃな・・・」
「覚悟の上だよ。じゃあ、そろそろ行くね」
「あぁ」
その話を最後に私は転移装置を起動させ黄昏の国に戻った。
「親方、居ますか?」
「は、はい‼すぐに呼んできます」
暁の国から黄昏の国に戻って早々に私は先代が《カグツチ》の修復を頼んだ鍛冶屋の下を訪ねた。
受付の若いお弟子さんにそう尋ねると彼は慌てた様子で親方と呼びながらお店の奥に消えて行く。
目的は当然、《カグツチ》の修復をまた頼むことだ・・・怒られるだろうなぁ・・・
「おう‼お嬢、急に国に帰って来てどうした?」
私が声を掛けると店の奥からひげもじゃの背の低い男性がのしのしと姿を現す。
言わずもがな鍛冶師と言えばドワーフさんだ。名前はルドルフ、あだ名は親方、先代からずっとこの国の鍛冶をしているらしく私も整備や調整でちょくちょく顔を合わせている。
「親方、怒るかもしれないけどまずはこれを見てくれる?」
親方の質問に答えず私は早々に本題を切り出す。些か失礼かもしれないけど言うより先に見て貰った方が早いだろう・・・
そう言いながら私はアイテムボックスから《カグツチ》を出すとゆっくりと慎重に鞘から抜く。
鞘から出した《カグツチ》の無数にひびの入った刀身を見た瞬間、親方は今まで見た事がないくらいに目を丸くして驚いている。
5分程、唖然とした後、親方は唸るようにして声を絞り出す。
「お嬢・・・これは一体どういう事だ・・・《カグツチ》がこんなになっちまうなんてどんな使い方したんだ?」
親方の言い方に微妙に委縮してしまいながら私はおずおずと事のあらましを説明する。
「イリアに行った際にある人物からの不意打ちを防いだ時に一撃でこうなった・・・私の技量が足りなかったよ・・・」
私の言い方に親方はハッとしたような表情になり申し訳なさそうに口を開く。
「いや、悪い。俺の言い方が悪かった。お嬢を責めるてる訳じゃねぇ。《カグツチ》がこんなんになっちまう戦いだったんだ。怪我が無いか少しばかり心配してたんだ。お嬢に怪我が無かったのならそれに越したことはねぇ。剣やなんかは道具だ。下手な使い方をしたり、整備を怠っていたならこんな事は言わねぇがお嬢に限ってそれはねぇ。壊れたら俺が直してやるから安心しな。最優先でやってやる」
「ありがとうございます。親方」
親方の言葉に私は少しだけ笑顔を見せながらお礼を言う。
私は本当に皆に心配を掛ける人間だなぁ・・・・
私がそんな事を考えていると親方は《オカミノカミ》を指差し、聞いて来る。
「《オカミノカミ》は大丈夫なのか?一応、こっちで見ておくか?」
その提案に少しだけ考え、私は一つ頷く。
「うん、念の為、お願いしても良い?仕上がりはどれぐらいになるかな?」
正直、現状で使い慣れた武器を手放すのは愚策だろうけど、私個人のメンテナンスでは限界が有る。《オカミノカミ》にも何かしらのガタが来ていてもおかしくないここら辺でしっかり見て貰うべきだろう。
「《オカミノカミ》は見て見ないと分からんが、数時間も有ればすぐに返却できるだろう。《カグツチ》は正直、次の戦いには間に合わねぇな。最低でも5と6番目の厄災戦前になるだろう」
「分かった。ありがとう。料金はこれで足りる?」
そう言いながら金貨が30枚程入った革袋を親方の前に置くと親方は中を確認して顔を顰めながら口を開く。
「お嬢、これは多すぎるぜ。これじゃあ、うちがぼったくっているみてぇじゃねぇか」
そう言いながら袋から既定の料金を取り出す親方に私は更に4枚ほど追加で金貨を渡す。
そんな私に親方は更に何か言おうと口を開くが先に私が言葉を発する
「飛び込みで優先して貰うんです。その間、他の仕事はしばらく受けられなくなるでしょう?せめてこれぐらいは受け取ってください」
私の言葉に親方は溜息を吐き金貨を受け取りながら口を開く。
「全く、見た目も性別も全然ちげぇのにお嬢と先代は変な所でそっくりだな。有難く受け取っとくよ。《オカミノカミ》の整備が終わったら連絡を入れるから引き取りに来てくれ」
「はい、それじゃあ、よろしくお願いします」
親方の言葉に私は苦笑を浮かべながら返事をし、《カグツチ》と《オカミノカミ》を預けて一度、城に戻り溜まった仕事を片付けた。
数時間後、特に問題の無かった《オカミノカミ》を受け取ってから私は再びイリアに向かった。
お話内ではテシテシやぽふぽふっと表現していますが実際はダンダン、バシバシっという感じの強さです。
次回もごゆるりとお待ち頂けたら幸いです。




