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実験

こんばんは、第116話投稿させて頂きます。

評価ポイント・ブックマークありがとうございます。とても励みになります。

誤字脱字報告もありがとうございました。

この話で里帰りは終わりです。

☆は視点変更です。コハク→テト→コハク→エリスの順の視点になります

楽しんで頂けたら幸いです。

 

「あは♪初めまして♪こんにちは♪」


 大量のゴブリンの死体が転がるこの場に相応しくないぐらいに明るい声で挨拶をして来る少女に気味の悪さを感じながら私はゆっくりと相手を刺激しない様に口を開く。


「貴女は一体何者ですか?何でこんな場所に居るんですか?」

「もー♪挨拶したんだから返すぐらいしてくれても良いんじゃないかな?」


 私の言葉に少女は少し拗ねた様な態度であくまでも明るく再び口を開く。

 あくまでも明るく私なんかいつでも殺せるという態度があまりにも不気味だ。


「・・・いきなり襲撃されたら挨拶を返すも何もないと思いますが?」

「あー、それもそうだね♪失敗♪失敗♪」


 可愛らしく笑いながら頭を掻く少女はそう言うと再び口を開く。


「さっきのは、無しで♪お詫びに質問に答えてあげるよ♪僕の名前はエリス・ケールだよ♪此処にいた理由はちょっとした実験の為だよ♪」


 私に対して襲って来た事を無かった事にすると言ってエリス・ケールと名乗った少女は此処にいる理由や自身の名前をペラペラと喋り始める。


「実験?こんな所で一体何を実験していたと言うんだ?」


 エリスの言葉に質問を重ねると彼女は笑顔を絶やさないで口を開く。


「むぅ、さっきから質問ばっかりだねぇ♪僕が名乗ったんだから君にも名乗って欲しかったなぁ~♪まぁ、良いや♪ちょっと前に面白い薬を手に入れてねぇ♪その実験だよ♪」


 薬という言葉に私は更に身を固くしてしまう。恐らく少し前にオウルの国を襲ったのは彼女だろう。

 そんな私にエリスは更に言葉を続ける。


「あ♪そうだ♪僕からも君にお願いが有るんだけど聞いてもらえるかな?」


 私が首を傾げると彼女は楽しそうに口を開く。


「君は、黄昏の魔王だろ?君が受け継いだ鍵が欲しいのだけど譲ってもらえないかな?」


 鍵の一言に今度は現在も首から下げたままにしている魔王就任の際に先代から託されていた用途不明の鍵を思い出す。

 何故、今更この鍵が話題に上がるんだ⁉

 混乱したままの頭で私はゆっくりと口を開く。不味い完全に相手のペースに飲まれている。


「申し訳ないけど鍵が何なのかも分からないし、もし分かったとしても貴女が何に使うつもりなのかも分からない状況で譲るつもりは無い」


 なんとかその言葉だけを伝えるとエリスは多少考えた様な顔をした後に再びニッコリと笑いながら口を開く。


「ありゃ~♪誤魔化されちゃったかぁ♪まぁ、今回は君に迷惑を掛けたし何時でも奪えるから今回は諦めるよ♪じゃあ、僕は行くね♪今度会う時には名前を教えてね♪チャオ♪」


 彼女は私が鍵をぶら下げている場所に目を止めた後、そう言うとクルリと後ろを向き去って行く。

 私は去って行くエリスを引き止めもせずに見送り、彼女の姿が見えなくなった瞬間にガクリと地面に倒れ込み肩で息をする。正直、まだエリスが戻ってくる可能性も有るが恐怖で今は立つのも難しい。

 助かった・・・()()()()()()()()・・・

 そんな情けない考えが思考を支配し、震える体を抱きしめながらその場に蹲る。

 蹲りながら混乱する頭で得た情報を整理し、私はしばしその場で休息を摂った。


 ☆


 目の前の白い仔ドラゴンを見失わない様に全力で走る。仔ドラゴンは俺が遅れていないかを時々振り返りながら飛んでいる。存外器用なドラゴンだ。

 この仔ドラゴンと合流出来た事によって朝から行方が分からなかったアウインの無事が確認出来て少し安心出来た。

 正直、この仔ドラゴンもこいつの御主人であるトワも怪しい事には変わらないのだが不思議とこいつ等が悪い奴らとは思えない。まぁ、リストからの言葉も有るわけだし大丈夫だろう。

 しばらくするとトワとアウインが待っている開けた場所まで出る。

 しかし、広場に入って直ぐに目に入った折れた矢に嫌な予感がして来る。

 何時、襲撃されても良いように鞘から剣を抜き辺りに気配の無い事を確認してから俺は大きな声で二人の名前を呼ぶ


「アウイン‼トワ‼居たら返事をしてくれ‼」


 大声で名前を呼んで耳を澄ませる。そんな行動を何回か繰り返していると何処からか声が返ってきた気がした。仔ドラゴンも何かを聞いたのか顔を上げて音がしたように思える方向を向く。


「―――っき‼―――の———‼」

「聞こえた‼」


 仔ドラゴンが向いた方向に意識を集中すると誰かが必死で叫んでいるのが聞こえ俺と仔ドラゴンはそちらに向かって走る。

 少し走ると唐突に漂って来る鉄の臭いに思わず顔を顰める。一瞬、アウインかトワの血かと焦るが転がっている死体を見て思わず声を漏らす。


「レッドキャップ⁉それにゴブリンもか‼」


 子供くらいの体躯をした魔物の死体は首を切られていたり袈裟切りにされていたりと様々な殺され方をしている。

 詳しく調べようと死体に近づくと唐突に上から声を掛けられる。


「テトの兄貴‼」

「アウイン‼」


 上を向くと黒いコートを頭からすっぽり被ったアウインが高い位置に有る太い枝の上で泣きそうな顔で此方を見ている。

 そのアウインが唐突に宙に吊り上げられる。驚いて後ろに目を向けると記憶にあるより大きくなった。

 仔ドラゴンが両手で器用にアウインを掴み持ち上げている。

 幸い、アウインが暴れなかった為、何の問題も無く。無事にアウインは地面に降ろされたがこの仔ドラゴン結構、無理するな・・・・まぁ、コイツがこうしてくれなかったらアウインを降ろすのに時間が掛かっていただろうが・・・

 そんな事を考えながら、ビックリするような降ろされ方をして固まっているアウインに俺は急いで現状の確認を取る。仔ドラゴンはいつの間にか小さくなっている。


「兄貴・・・トワが・・・トワが」


 子供だからしょうがないが不安や混乱で要領を得ないアウインから根気強く話を聞く。

 アウインからの話を纏めるとトワと話している時に急にゴブリン達の襲撃を受け、トワは木の上にアウインを避難させ、村に厳戒態勢を引くように俺に伝えろと言った後、一人でゴブリンを殲滅しに行ったらしい。

 仔ドラゴンは一瞬、ゴブリンの死体が続く道の方を見たが直ぐに首を振って俺達の方を向いて来る。どうやら俺達を村に戻すのが

 先決だと判断した様子だ。主が心配だろうけど義理堅い奴みたいだ。


「悪いな・・・ネージュ、アウインを村に届けたら直ぐにトワの後を追うから少しだけ我慢してくれ」


 そう言いながら俺はアウインを背負い来た道を急いで引き返す。

 道中何にも襲われることも無く無事に村に着き急いで村長達を集めて現状を説明する。

 トワの言うとおりに万が一の為に厳戒態勢を引いてもらい俺は再び森に戻る事を告げる。


「あ、兄貴‼これトワに渡してくれ‼」


 村から出て行こうとするとアウインが慌てた様子で被っていたコートを脱いで俺に手渡してくる。

 恐らく防具の役割の有るコートが必要だと考えたのだろう。


「分かった。預かっとく」


 トワは姿を隠している節も有ったし確かにコートが無いと不便だろうと思いアウインからコートを預かり畳んで持ち《ライトニング・オーラ》を使って一気に森の中を駆け抜けた。

 最初に来た時の半分の時間で先程の場所まで戻り転々としている死体を追いながら森の奥に進むと唐突に周囲の温度が下がったような感覚に襲われる。

 疑問に思いながら奥に進むと不自然に切り開かれた場所が目に入り、異常に光輝いている。


「なんだ・・・これ・・・?」


 急いで駆け付けたその場所はそんな言葉が漏れる程に異常な光景だった。

 辺り一面が氷で覆われ広場全体に恐らくゴブリンだと思われる物の肉塊が氷の塊となって転がっている。凍り付いている物が肉塊や血だと知らなければ見とれていただろう。


「トワ‼」


 そんな異様な広場の奥に蹲っている恐らくトワだと思われる白い人影を見つけ声を掛けな

 体を抱きしめる様に蹲っていたトワに手を伸ばそうとするとブンっという音共に唐突に朱色の長剣が突きつけられた。


 ☆


「・・・テト君・・・?」


 気配を感じてエリスが戻って来たのかと思い、慌てて剣を振った相手の顔を見て私は思わずそんな声を漏らす。

 正直、突き付けた剣の切っ先は震えているし、気配察知で分かる事なのに情けない・・・普段だったらこんな無様な姿はさらさないのにとんだ失態だ・・・少し休んで多少冷静になったとは言えエリス・ケールと出会った恐怖で未だに混乱しているようだ・・・


「トワ、とりあえず剣を降ろしてもらえないか?」

「・・・すまない・・・」


 その言葉に何とかトワとしての口調で答えながら《カグツチ》を降ろし《オカミノカミ》を地面から引き抜き鞘に仕舞う。・・・後でしっかり手入れをしなければ・・・


「何が有ったんだ?ゴブリン達はどうなった?」


 私が剣を下げ鞘に仕舞ったのを確認し、ホッとしたような顔でゴブリン達の末路を聞いて来る。ネージュは心配そうに肩に乗って来たので軽く撫でながらテトに事の顛末を話す。

 村の事を考えたら心配するのも当然だろう。


「詳しい事は分からないけど上位種の魔物が消えた事によってゴブリンが異常に繁殖したんだと思う。ゴブリンは全て殲滅したよ。この場が氷で覆われているのも僕の魔法の所為だよ。申し訳ないけど後で村の人達と死体を処分して貰いたいんだけど大丈夫かな?」


 ゴブリン達は駆除した事を伝え申し訳ないが死体の処理を頼む。正直、死体の処理まで今の私に時間的な余裕がない。


「分かった。死体はこっちで処理出来る様に後で村長に伝えておく」

「ありがとう。後はあのゴブリンロードの死骸だけは僕に回収させて貰う。少し調べたい事も有るしね。あと、まだこいつ等の巣は確認していない。悪いけど一緒に確認して貰えるかい?」


 テトが頷いて了承してくれたので私は洞窟の奥に向かって歩こうとしているとテトに呼び止められる。


「ちょっと待った。これはトワのだろ?返しておく」


 そう言うと手に持っていた黒い物を私に手渡す。広げて見るとアウインに被せて来たコートだった。

 それを見てアウインが無事にテトに保護されたのを確認してひとまず安堵の息を吐く。


「ありがとう。アウインは大丈夫だったかい?」

「今は村で村長達の所にいる。後でお説教だ」

「ゴブリンに襲われた後だからあんまり怒らないであげてよ。精神面の配慮をしてあげてね」

「あぁ」


 その言葉に私は仮面の下で苦笑いを浮かべながらコートを着込む。

 まぁ、怒られるのはしょうがないね。

 その後はテト共に洞窟の中を探索する。洞窟内はさほど広くなく直ぐに行き止まりになっていて残党は居なかった。気になる事は洞窟内に幾つかのアンプルを発見した事で私はそのアンプルとゴブリンロードの死骸をアイテムボックスに放り込み。村に危険は去った事を告げに行った。

 幸いだったのは私の様子がおかしかった事をテトが追及してくれなかった事だ。

 エリス・ケールの事を話していたらテトにも危険が及ぶかもしれないし間違った選択かもしれないけどしばらくはフェル達とだけ情報を共有しよう・・・


「では、お世話になりました。一応、ゴブリンは全て駆除したはずですがしばらくは警戒を解かない様にしていてください」


 数時間後、テトと共に事の成り行きを話し終え私は村の出口前でそう告げる。


「こちらこそ、村を守って頂きありがとうございました。不肖の息子がご迷惑をおかけしてすみませんでした。」

「いえ、大事になる前に食い止められてよかったです。アウイン君にも怪我がなくて良かった」


 そう言って頭を下げる父にそう告げるとユユ達も口々に挨拶をしてくれる。

 その中にムウを見つけ私はムウに声を掛ける。


「あ、そうだ。ムウさん、もし良ければ畑にこの方植物をこの紙に書いてある方法で栽培を行ってみてください。うまく行けば食料事情などの改善につながると思います。昨日、見た感じ最近作物の収穫量が減っているのではないですか?この方法なら数年後にはある程度作物を育てるための栄養源が良い状態になります。実験という言い方は悪いかもしれませんがぜひ試してみてください」


 そう言いながら暁の国から持ってきた苗芋と栽培方法や土を元気にする方法の描かれた紙をムウに手渡す。


「なんだ?直ぐに戻るわけじゃないのか?」


 その様子を見ていた農家さんの一人が面白くなさそうにそんな事を言う。その言葉に私ゆっくりと答える。


「政治と一緒ですよ。何年も掛けて悪くなった物は同じ年数以上掛けないと良くなんてなりませんよ」


 その言葉にバツが悪そうな顔で黙ってしまった農家のおじさんを最後に見て私は全員に頭を下げる。


「では、僕は次の場所に向かいます。改めてお世話になりました」


 その言葉を最後に私は今度こそ村の外に向かって歩き外に出る。

 来た時とは逆に草原方向に向かってゆっくりと歩いていると後ろから不意に呼び止められる何かと思って振り向くとテトとアウインが走って追い掛けて来ていた。そう言えばさっきの場に二人共いなかったな・・・

 立ち止まって二人を待つとアウインは息を切らしながらテトは余裕の様子で追いついて来る。


「トワ‼守ってくれてありがとうな‼俺、頑張るからまた村に来てくれよ‼」


 息を整え一気にそう言ったアウインに仮面の下で笑いながら頭を撫でてやり私は口を開く


「君が無事で良かったよ。置き去りにしてすまなかったね。また、近くに来たら寄らせて貰うよ。お父さん達と仲良くね」

「絶対だぞ‼約束だからな‼」


 そう言うとアウインは顔を赤くして踵を返し村まで走って行った。はて?何か恥ずかしい事でも有ったのかな?

 私とアウインの会話が終わると今度はテトが口を開く。


「今回は本当に世話になったな。お前が居なかったらヤバかった。本当にありがとう」

「村に被害が出なくて良かったよ。僕は行くけど君も首都に戻るならまた会うと思うその時にはよろしく頼むよ」


 そう言いながら右手を出してきたテトの手を言葉を返しながら手袋を外して握り返し握手をする。


「ま、それもそうだな。首都で会った時には今回聞かなかった事も詳しく聞かせて貰うからそのつもりでいてくれよ」

「了解したよ」


 そう言いながら握手を解き、テトに見送られなから私はある程度進んだところでネージュに乗り、次の場所へと移動した。


 ☆


「Broken down♪ Broken down♪」


 上機嫌になりながら 童謡を謳い。今回の彼女との遭遇を思い返す。

 今回あの子と出会ったのは私にとっても予想外の出来事だった。私の今回の実験を嗅ぎつけたわけでは無いだろうがあの強化ゴブリン達を殲滅されてしまったのには驚いた。

 まぁ、ちょっと腕を試すために奇襲した所為で彼女の警戒心を上げてしまったのは少し失敗だった。お陰で喋らなくて良い事まで喋ってしまった。まぁ、この世界ではこの実験の成果を使う事は無いからバレても何も問題ないんだけどね。

 彼女達には順調に厄災を撃破して貰わないと困るし今はまだ生かしておいてあげよう。

 鍵だって今はまだ焦る時ではないしね。


「My fair lady♪ふふふふ♪楽しくなって来たなぁ♪」


 そんな独り言を呟きながら私は一人森の中を歩いて行った。


補足するとエリスの実験は白夜の国で得た薬に手を加えてどのような反応を示すかの実験でした。

やっとこのキャラとコハクを絡ませることが出来ました。

次回は別の人の視点になります。

ごゆるりとお待ち頂けたら幸いです。


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