魔王様、故郷に帰る・3
おはようございます。第114話投稿させて頂きます。
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また、誤字脱字報告ありがとうございました。
今回少し長めですが楽しんで頂けたら幸いです。
「さ、もう少しで村に着くぞ。ミリーの事、抱っこして貰ってわりぃな」
見覚えの有る森の中を歩いてしばらくしてテトがもうすぐ村に着く事を教えてくれる。
「子供一人ぐらい軽いし構わないよ。まぁ、僕に素直に抱っこされてくれた事に些か驚いてはいるけどね・・・」
テトの言葉に私は内心で苦笑を浮かべながら答える。
そんな私の左腕には途中で転んで足を捻ってしまったミリーが抱っこされている。ミリーは痛みで涙目ながらも現在はネージュと遊んでいて多少、元気を取り戻している。
そう言えば、一応ネージュもこの子達と同年代だったか・・・
「俺が警戒を解いたから信用したんだろうな。ミリーは人の雰囲気に敏感だし、悪い奴じゃないって分かったんだろう」
「やれやれ、そう思って貰えているなら光栄だね」
全く、身分を保証してくれる人が居るとこんなに簡単に信じて貰えるとは・・・やっぱり顔を見せて信頼して貰った人間が居ると楽と言えば楽だな・・・でもなぁ・・・あんまり無暗に正体をばらすわけにもいかないしなぁ・・・正直、襲撃が面倒くさい・・・
そんな事を考えているとテトが後ろを向いて私に抱かっているミリーとじゃれているネージュを見て少し不安そうな顔をして口を開く。
「なぁ、その仔ドラゴン。大丈夫なんだよな?人を襲ったりしないよな?わりぃけどドラゴンに良い思い出が無くてな・・・」
まぁ、テトの立場からしたら当然の心配だよね。
8年前に先代に襲われたのに巻き込まれているし苦い顔にもなるか・・・
「その心配は無いよ。この仔は本当に卵から孵った瞬間から育てている仔だし、何より人が好きみたいなんだよね。そもそも、人を襲う様な仔だったら何もできない無力な子供がこれだけ居るんだよ?もう襲っているよ。万が一が有ったら僕が責任を持って始末するよ。まぁ、そうは絶対にさせないけどね」
そう言いながらミリーとじゃれているネージュの頭を撫でてやるとネージュは気持ち良さそうに目を細める。
「そっか・・・変な事言って悪かったな」
「いや、当然の警戒だと思うよ。気にしないで」
テトは心底申し訳なさそうに謝った後また前を向いて歩き出す。
てか、本当に成長したな・・・昔はユユを追いかけまわしたりしても謝らないやんちゃ坊主だったのに・・・私が知らない人だと思っているのも有るのかな?
そんな会話をした直ぐ後に視界が開け森を出ると記憶にあるより些か大きくなったように思える村が見えてくる。
村には魔物除けの魔道具が使われているから特に塀とか壁は無い。まぁ、私達やアウイン達みたいにこっそりと森に行く子が出て来るから壁は有った方が良いと思うけどね・・・
「さ、着いたぞ。此処が俺達の村、リステナ村だ。ようこそ俺達の村へ」
その言葉と共に私達は村の中へと入って行くと入って直ぐに緑色の瞳に赤毛の少女と赤茶色の髪をした青年がテトを見つけて掛けて来る。どうやら心配してずっとこちらを見ていた様だ。
二人共、テトの後ろにいる子供達を見て安心した顔をした後に私に抱っこされているミリーが涙目なのを見て私に対して些か警戒したような顔をしながらテトに話し掛ける。
あぁ、うん、気にしてないよ。そりゃあ、こんな怪しいのが涙目の女の子を抱っこしていたら警戒するよね。気にしてないとも・・・
「テト、無事で良かった。子供達の事を任せて悪かったね。そちらの人は?」
「あぁ、ユユ、ムウ。子供達も俺も何にも心配いらねぇよ。コイツはトワ、怪しいナリしてるけど学校のダチが怪しい奴じゃないって言ってるから多分、大丈夫だ。森の魔物の生態調査に来たらしい」
「ミリー‼大丈夫⁉」
ムウとテトが会話をしているとユユが警戒心を滲ませながらも私に近づいて来て心配そうにミリーに声を掛けるとミリーは「ねーね」っと言いながら彼女に抱かっていく。
成程、私が居ない内にユユにも妹が出来ていたか・・・
「此処に来るまでに転んで足を捻ってしまったようです。一応、応急処置はしましたが後でちゃんと治療してあげてください」
そう言いながらミリーをユユに預けると彼女はミリーを抱っこしたまま深々と頭を下げる。
「妹の怪我の手当てをしてくださってありがとうございました。私はこの子の姉でユユと言います。警戒して不躾な目で見て申し訳ありませんでした」
「いえ、僕が怪しいのは重々承知していますので謝らないでください。寧ろ警戒しすぎるぐらいが丁度いいですよ。気にしないでください」
頭を下げるユユの顔を上げさせてそう言うと彼女は昔見た様な少し困った顔で笑い納得する。
「テト‼戻ったのかい‼良かった。もう少し遅ければ自警団と共に森に探しに行こうと思っていた所だった」
ムウとテト、私とユユが話していると教会のある方から中年の男性がそんな言葉と共に走って来る。記憶より些か年を取り、白髪が増えているがこの世界での父だ。
父よ、おじさんになったね・・・
「いやいや、村長。俺もう16っすよ?村の誰よりも戦闘訓練積んでいるし、チビ達を探しに行って俺まで森で迷ってたら間抜けすぎるっすよ」
父の言葉にテトは頭を掻きながら苦笑を浮かべて応える。
「あなた、テト君達戻って来たの?」
父とテトが話していると今度は昔の私やアウインと同じ髪色の女性が現れる。
父の後を追って来たのかこれまた記憶より少し年を取っ・・・・あれ?・・・あれ~?10年前と全然変わって無くない?年取って無くない?母よ、貴女は一体いくつなのですか?
母よ・・・変わらないね・・・
あ、因みに父の名前はジオ・リステナで母の名前はテミス・リステナです。
「ところでテト、彼は誰だい?」
私がお父さんとお母さんの外見に一人突っ込んでいる間にもお父さんとテトの話は進んでいたらしく先程のムウと同じ様に私の事を聞いて来る。
テトが説明の為に口を開こうとするのを手で制し私は一歩前に出て自己紹介を行う。
流石に何回も紹介させるのはテトに申し訳ない。
「お初にお目に掛かります。村長さん、僕はトワと言います。此処には森に居る魔物の生態を調査しに来ました。突然の事で申し訳ないのですが村近くの森に入る許可を頂けないでしょうか?」
そう言いながら手袋を外し、握手を求めるとお父さんは一瞬、躊躇ったが握り返して自身も自己紹介をしてくれる。
「ご丁寧な挨拶ありがとうございます。私はこの村の村長をやらせて頂いていますジオ・リステナです。こっちは家内のテミスです。森のへの立ち入りならご自由にどうぞ。何もない村ですがゆっくりして行ってください」
「僕が言うのもおかしな話ですが僕の事を怪しまないんですか?」
握手をした状態でそんな事を言うとお父さんは苦笑しながら答える。
「いやいや、最初に見た時には失礼にも怪しいと思っていました。でも、テトが村に害をもたらす人間を連れて来るわけが有りません。それに貴方のミリーの扱い方はとても優しかった。そんな方が悪い人間には思えなかっただけですよ」
「そうですか・・・ありがとうございます。ところで調査は、明日行いたいのでこの村には泊まれる場所は有りますか?出来れば使い魔も一緒に泊まれればいいのですけど・・・」
父の言葉に御礼を言いながら握手を止め、手袋を戻して宿の場所を尋ねる。今日は少し時間を使いすぎたので時間は惜しいが調査は明日にしようと思ったのだ。
まぁ、宿の場所は知っているんだけど今の私が何も聞かずにそこに言ったら不自然だしねぇ・・・
「あ、宿の場所なら後で俺が案内してやるよ。それより村長、そろそろ結婚式を始めた方が良いんじゃないか?あんまり遅くなったらユユ達が可哀そうだろ?」
「あぁ、そうだったね。トワさんそれでもいいでしょうか?」
「僕は全然かまいませんよ。むしろ、そんな時に来てしまって申し訳ない限・・・すみません。失礼ですけど彼等が今回の式の主役ですか?」
「?ええ、この二人の式です」
私の言葉に父や母、周りの皆が頭の上に?マークを浮かべる。
二人が駆け寄ってきた時から気になっていたが二人が着ているのは些かくたびれたドレスとスーツだ。まぁ、平民のそれも村人の結婚式で豪華なドレスというのも何だか変だかそれにしても頂けない。一生に一度の事なのにこれではあんまりだ。それに私は自分が着飾る事は好きではないが他の女の子を着飾らせる事は大好きなのだ。
だから私は彼等の結婚式に少しだけ口を出すことにした。まぁ、口を出すって言ってもドレスとスーツを提供するだけなんだけどね。コハクとして出席出来ないせめてものお詫びだ。
「もしよろしければボクにお二人の衣装を提供させて頂けませんか?僕はこれでも商いもしているんです。折角の結婚式なんです。着飾らないと勿体ないです」
「えっと、それは流石にトワさんに悪い気がするんですけど・・・」
「いえ、僕の方から申し出ている事ですし、気にしないでください。ムウさんもお嫁さんのもっと綺麗な姿を見て見たくはないですか?」
ミリーを抱いたままユユが口を開くが私は仮面の下で笑いながらその言葉を否定し、セールストークでムウに同意を求める。必殺、旦那の陥落
ムウは少し考えた後、ゆっくりと口を開く。
「トワさん。図々しいかもしれませんがよろしくお願いできますか?」
「お任せを」
ムウの言葉に私は仮面の下でニヤリと笑い、アイテムボックスから前日、城に一度戻って持って来た様々なサイズのドレスとスーツを引っ張り出す。これを持っていくと時にメイド長に驚いた顔をされたのは秘密だ。
いきなり出て来た礼服に皆が目を見開く。
ミリーを母に預けたユユとムウにサンプルを見せ、二人とも気に入った物を選んだらピッタリのサイズを手渡し、私はお母さんに声を掛ける。
「テミスさん、申し訳ないですけどユユさんの着付けを手伝ってあげてくれませんか?一人でウェディングドレスは着れないので・・・」
私の言葉にお母さんはユユから預かったミリーを抱っこしたまま首を傾げた後で笑顔で私にとって衝撃的な事実を口走る。
「私に頼まないでトワさんが着付けてあげた方が正確じゃないかしら?女の子同士なんだからムウ君に遠慮をする必要は無いと思うわよ?」
『は?』
お母さんのその言葉と共にミリー以外の子供達を含めた全員の視線が私に向く。
えぇ⁉なんで⁉何で性別がバレたの⁉私おかしなこと言ってないしおかしな行動してないよね⁉
内心で動揺しているとその様子を見たお母さんが楽しそうに口を開く。いや、私は全然楽しくないよ⁉
「だって、トワさん手が男の子の手じゃなかったわよ?声も男の子にしては高くて可愛い声だし、極め付けはミリーちゃんが抱っこされていた時に胸が有ったって教えてくれたもの」
しまった・・・手と声だけなら誤魔化せたけど致命的に失敗した・・・
「色々な理由が有って隠していたんでしょうけどバラしてしまってごめんなさいね。それでお願いできる?」
肩を落として落ち込んでいる私にお母さんは申し訳なさそうに謝り私に確認を取って来る。
あぁ、うん、完全に私の落ち度です・・・気にしないでください・・・
「ムウさんとユユさんがその言葉で女だと信用してくれるなら着付けとメイクは僕が引き受けます・・・」
私は左手で頭を抱えながら力なくお母さんに答えた。
さて、少し時間が経ち私とユユは村の教会の一室に二人で入り着付けを行っている。
お母さんの言葉に二人は驚きながらも私にユユの着付けをお願いして来た。
子供達の騒動の所為で準備時間も余り無いというので急いで場所を移動し、着付けを行っている。
因みに子供達はミリーを含めて母に連れていかれ村の奥様方総出でお叱りを受けている。まぁ、危ない事をしたんだし当然の罰だよね。
え?お前が言うなって?良いんだよ。私はちゃんと責任は自分で取っているんだからね。
そんな事を考えながら私は急いで尚且つ適切にユユにドレスを着つけて行く。もちろん。ドレスに合うアクセサリーもセットだ。
ドレスの着付けを終え、ユユを椅子に座らせて今度はメイクに取り掛かる。
ユユにメイクを施し、今度は髪のセットアップの為に髪を梳いているとユユが少し寂しそうにしながら口を開く。
「左利きなんですね・・・」
その言葉に私は敢えて答えず首を傾げる動作だけで答える。
「いきなりごめんなさい。私の幼馴染にも左利きの女の子が居たんです。8年前に手紙だけ残して行方不明になってしまって・・・同じ左利きの人を見て思い出したら寂しくなっちゃって・・・しっかりした子だったので大丈夫だと思うんですけどとても心配で・・・トワさんは色んな所に行っているんですよね。コハクという名の今は銀髪の女の子なんですけど心当たりは有りませんか?」
その言葉を聞き、未だに心配してくれる皆に申し訳なく思いながら私は髪を編み込みにする手を止めないままゆっくりと口を開く。
「すみませんが僕の記憶にそんな子を見た記憶は有りませんね・・・お力に慣れずに申し訳ない」
「そうですよね。ごめんなさい。いきなりこんな話をしてしまって」
そんなユユの返事で話は終わり、それと共にユユのセットアップを終える。
ユユを立たせて最終チェック中に私は再び口を開く。
「でも、しっかりした子供だったのならいつか厄介事が終わった時に戻って来ますよ」
いつかは皆にまたコハクとして会いに来たいという思いと共に口にした言葉を聞きユユは笑顔を作り、口を開く。
「そうですね。その時はコハクに沢山文句を言ってやります」
そう言って元気に笑うユユの顔を見ながら私はごめん、少し手加減して等と思いつつユユのメイクアップを終えた。
少ししてユユを迎えに来たムウが綺麗に着飾ったユユを見て「綺麗だ」っと言って呆けていたのをテトと揶揄い。私とテトはやっと始まる式に参列する為に外に出た。
式は恙無く終わり私はコートを着たままベッドに寝っ転がる。ネージュは既に夢の中で龍の姿のままスヤスヤと眠っている。
ネージュの寝顔を見ながら私は今日の事を思い返す。多少のトラブルは有ったが概ね色んなことがうまく行って良かった。ずっと会いたいと思っていた弟に合えた事も嬉しかったがユユとムウの結婚に快く参列させてもらえたのは本当に嬉しかった。
ちょっとしたトラブルにも感謝だ。
まぁ、式の最後の時のブーケトスの時に私の所に来たミリーにもう一度、抱っこをお願いされそれを快く引き受け抱っこしている所にユユの投げたブーケが私とミリーに向かって飛んで来てミリーが見事にキャッチし他の若い子達ががっかりしていたのも良い思い出になりそうだ。
一時の幸福に包まれながら私は久しぶりに穏やかな気持ちで眠りについた。
次回で里帰り編は終わりになる予定です。
ごゆるりとお待ち頂けたら幸いです。




