イビルベア
こんばんは、11話を投稿させていただきます。
今回でまず魔王への第一歩を踏み出します。
楽しんでいただけたら幸いです
「どういう事だよ。コハク!この辺りには魔物は出ないはずなんだろう!」
テトが恐怖からか少し大きな声で私に問い詰める。
「テト、少し静かにしてあいつ等に気づかれる」
小声でテトに注意をしながら思考を巡らせる。
私も本で得た知識だけど、ブラッドベアは確かにこの森に生息しているけど生息地域は冒険者が行くような奥地だし、人が来るような浅い場所には滅多に姿を現さないはずだ。ましてや群れでこんな所に居るなんて異常事態だ。
「ねぇ、、、あの熊だけ他とちょっと違わない?」
ユユの指さす方に全員で視線を向ける。
そこには、他の熊よりも一回り大きい体をしていて通常の赤い毛皮ではなく更に濃く深い色合いの紅色をした熊がそこにいた。
私は、それを見て愕然としてしまった。
「イビルベア・・・?」
「イビルベア?コハクそれは何?」
呟きに気が付いたムウが小声で聞いてくる。
「私も本で読んだ事しか知らないけどイビルベアはブラッドベアの変異種だよ。ブラッドベアよりも狂暴でこいつが現れると普段群れなんて作らないブラッドベアが群れを作って行動する上に全体を統率する厄介な奴・・・」
「おい!あいつなんか喰ってる音がしないか?」
ムウの質問に答えているとテトが後ろでそんなことを言って来た。
ポーチから出している風にしながらアイテムボックスから双眼鏡を出し、イビルベアに注目すると確かに何かを食べている。
バキ゚、グチャ、ミシ、バキバキバキ、という嫌な音とともに血生臭い匂いが風に乗って流れてくる。
イビルベアの食べている物を見て驚愕と同時になぜ此処に熊の群れが居たのかの謎が解ける。
イビルベアは、人間を食べていた。
「三人ともあいつが食べている物を見ちゃダメ!」
三人に小声で声を掛けながら双眼鏡を置き、近くにいたユユの目を塞ぐ。
「え?コハクどうしたの?」
「ユユは絶対に見ないほうが良いと思う・・・」
「コハク、あいつは何を食べているの?」
「多分人間の冒険者、でもって此処に熊の群れが来た原因だと思う・・・」
「どういうこと?」
「多分何かの依頼の際にたまたまイビルベアを見つけて狩ろうと思って手を出したんだと思う。イビルベアは変異種だから毛皮とかが高く売れるらしいし、名声も上がるから。でも、群れで行動していたから手強くて近くの村に逃げ込もうと思って此処まで熊の群れと一緒に来ちゃったんだと思う。あいつらの習性は一度獲物と見定めたら殺すまで追いかけてくるから・・・」
「じゃあ、とりあえず村まで来る事とは無いの?」
「それも、多分もう無理。私も全部本からの知識だから当てにならないけど、一度人間を食べたらまた人を襲うみたい。あいつらの群れに襲われて壊滅した村も有ったみたい。」
私の言葉に目隠しされているユユがビクリと反応する。テトとムウも状況の悪さに声も出ないようだ。
「テト、ムウ、ユユを連れて急いで村まで戻って大人たちにこの事を知らせて」
「コハク、君はどうするつもり?」
私の言葉を聞いてムウが顔をしかめながら聞いてくる。まったく、感の鋭い子だ・・・
「私はここに残って熊達を見張ってる」
「お前、それ一番危ないじゃないか!やめろよ、皆で一緒に逃げるぞ」
「そうだよ、一緒に逃げようよ!」
テトとユユが私を止めようとして手を引こうとする。うん、一緒に逃げたいのは山々なんだけどね。生憎、村長の娘としての義務があるんだよね。
「二人ともごめん。一緒には逃げられない。私は、村長の娘だから少しでも村の人を守らないと行けない義務がある。」
「でも・・・」
ユユが何か言おうとしているのをムウが横から遮る。
「コハク、死ぬ気はないんだよね?」
「大丈夫。こんな所で死ぬ気はないよ。」
「分かった。出来るだけ早く大人を呼んでくるから無事でいてね。」
「「ムウ!!」」
テトとユユがムウの言葉に驚愕する。
あまり大きな声を出すと熊に気づかれるよ。
「僕達が一緒に居ても足手まといになるだけだよ。それよりも、早く大人を呼んできてコハクの危険を減らす方が現実的だと思う。」
ムウの言葉に二人はまだ言いたいことが有るみたいだけど言い返せない。実際問題この四人の中でまだ戦えそうな私が残るのが最善の手だし、早く大人を呼んでもらうのが一番良い方法なのだ。
出来るだけならこんな所で無駄に口論をしていないで早く行って欲しいところでもある。
「畜生、分かったよ。コハク絶対に死ぬなよ。」
「気を付けてね・・・」
「コハク、頼んだよ。」
三人が走って助けを呼びに行こうとする。ユユはまだ心配そうにしている。
「ユユちょっと待って」
ユユの近くまで行き、両手で頬を包み額を合わせる。
「ユユ達が大人にこの事を知らせて大人が此処に来るまで絶対に死なないって約束するよ。」
「本当に?」
「私は、嘘は言わないでしょ?」
「うん・・・」
「でも、なるべく早くお願いね。あと、どんな音がしても絶対に戻ってきちゃ駄目だからね」
三人が心配しながら静かに走って行く。三人が見えなくなってから私は熊の群れに視線を戻す。三十匹ぐらいの群れが見える。その中の一匹が此方に向かって来る。さすがに距離が有ってもあれだけ喋っていれば気づかれるか・・・
近づいてくる熊を見ながら私は思考を戦闘モードに切り替えて立ちあがった。
次回は熊との闘いです




