光刃の獣・3
おはようございます。
第103話投稿させて頂きます。
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今回、少し長めですが楽しんで頂けたら幸いです。
☆
「フェル大丈夫だ。こちらで捜索は続ける。コハクの眼が無い今、また何時攻撃が来るか分からないんだ。お前も気を付けろ」
フェルとの通信を切り、出そうになる溜息をグッと堪えコハクや他の生き残りの兵を探しに出たアライさん達に連絡を取る。
通信の様子だとアライさん達の方も芳しくないらしい。コハクと連絡が取れなくなり約2時間、最悪の場合を想定しなければいけないかもしれない
一通りの指示を出し、勇者達の方を見る。さっきから自分達も捜索隊に加えてくれと言われるが現状の彼等をなるべくなら動かしたくはない。
しかも今回は勇者達のフォローも頼まれているので俺もあまり動けない。自分の国の事なのにフェルとコハク達に任せてしまっているのが物凄く心苦しい・・・
「なぁ、オウル、頼むから俺達にも捜索の手伝いをさせてくれ」
「オウルさん、お願いします」
考え事をしていると和登とリルが駆け寄って来る。後ろからは他のメンバーも来て口々に捜索への参加を名乗り出ている。恐らく捜索が芳しくないのを聞いて皆、焦っているのだろう。勇者達はコハクと年齢も近いし、仲も良くなっていたので心配して当たり前だろう。。
「皆、気持ちは分かるが我慢してくれ・・・第三の厄災の攻撃がまた来て君達が巻き込まれるかもしれないんだ・・・頼む・・・」
和登達には申し訳ないが危険が有る以上安易に戦場に出すわけにもかない。コハクが断固反対したため彼等をまだ危険には晒すわけにはいかないのだ。
「「でも!」」
「私の捜索をする必要は無いよ」
和登とリルが俺に反論を仕様としていた所に唐突にこの場に居ない人間の声が響き。俺と和登の間に黒い回廊が開かれる。
「心配を掛けちゃったね・・・」
そんな声と共にぐったりしているネージュを抱きかかえたズタボロのコハクが回廊から現れる。
見ると着ているコートには彼方此方に穴が開いて黒く焼けついており、そこからはだと思われる黒い焼け跡がのぞいている。仮面は壊れたのか被っておらず壊れたティアマトを持つ右手には明らかに力が入っていない。
一応、今回はポーションで回復はした様だがあくまで最低限だろう。恐らくダメージに対して回復量が足りていない。
「コハク‼」
「コハクちゃん‼ネージュちゃん‼」
コハクの姿を見て皆が駆け寄った瞬間にコハクが握っていたティアマトは砂の様にサラサラと光の粒子に変わり夢菜の聖武器に吸い込まれて行く。
「えっ⁉」
その光景を見て夢菜は驚いた様な声を上げるが予め女神の贈り物と聖武器の関係性を説明していたのか驚いた声は上げたが説明を求める様子はない。
「オウル、悪いんだけど戦況はどうなってる?私が墜落してからどれぐらい経った?」
一通り全員と話した後、コハクは現状の確認をして来る。
「コハクが連絡を絶ってから約二時間が経過した。製造施設はコハクが知っている物も併せて5つ、ポーションを隠して有った施設は4つが破壊されたのが確認されている。今はフェル達が相手の上を走り回ったりして当てずっぽうで相手の面を破壊したりしているが負傷者はどんどん増えている」
現状の様子を伝えるとコハクは顔を顰め、俺に頼みごとをする為に口を開く。
「オウル、悪いけど飛竜を一頭貸して貰える?あと、ネージュを休ませてあげたいんだけど医務室の連れて行ってあげてくれる?」
そう言いながらぐったりしているネージュを優しく俺に預けてそのまま飛竜の居る場所に向おうとする。
おい‼おい‼まさかもう行くつもりか⁉
コイツとの付き合いもそろそろ八年になるが未だに俺もフェルもコハクの行動に戸惑う事が多い。兎に角、一度コイツを休ませなければ・・・
そう思い声を掛けようと思った瞬間、意外な人物がコハクに声を掛けた。
☆
「コハクちゃん、焦るのも分かるけど少し休憩しよ?」
オウルから飛竜を借りて戦場に戻ろうとしていると目の前にリルが立ち休む様に問いかけて来る。
「でも、フェル達がまだ戦っているんだよ。ゆっくり休んでなんかいられ・・・」
「そんな満身創痍で戦っても足を引っ張るだけだよ。それにコハクちゃんの弓だって夢菜ちゃんの武器に吸収されちゃったでしょ?それだと戦えないよ?少しだけお茶を飲んで休憩して冷静になろう?ね?オウルさん、すみませんが誰かにお茶を入れてくれるように言ってもらえませんか?」
「わかった」
リルは私の言葉を優しい口調で遮るとオウルにお茶を用意して貰う様に頼んだしまった。他の皆も彼女がこんなに素早く行動するとは思わなかったのか驚いた顔をしている。
私も彼女がこんな風に言って来るとは思わなかった。だが、冷静に考えると確かに現状の私が戦場に戻っても足手まといになるだけだった。
「少し落ち着いた?」
入れて貰ったお茶を飲み一息ついた所でリルが私の目を見ながら聞いて来るので素直に頷く。
「予想外の敵の攻撃が来て焦るのも分かるし被害が出過ぎているのも分かるけど落ち着かないと倒せる敵も倒せなくなっちゃうよ?」
・・・確かに・・・師匠やレクセウスからも急いては事を仕損じるとよく言われていた・・・
確かに落ち着いて思い出すと敵の本当の弱点が見えて来た。
「倒す方法を思いついたみたいだね。そのためにしないといけない事あるよね?」
「うん、ありがとう。リル」
お茶を飲み干し私はリルに向かって微笑むと椅子から立ち上がり狗神君達に頭を下げる。
その行動に一同は目をぱちくりさせて驚いた顔をする。
全く、私はフェルとオウルに彼等を今は戦場に出さないと言ったのに有言実行の出来ない人間だなぁ・・・
「皆、危ない目には合わせないと言った手前情けない話ですが皆の力を貸してもらえないでしょうか?」
「「「「「「「もちろん(だよ)(です)‼」」」」」」」
私が頼むとすぐに全員からの返事が返って来る。オウルは私が協力を申し出た事が少々意外だったみたいだ・・・まぁ、彼等をまだ戦わせないと言っていたのは私だし当たり前か・・・
「よし、準備は大丈夫?」
「私は大丈夫だよ。コハクちゃん」
少しして、私はオウルが用意してくれた飛竜に湊瀬さんと共に騎乗する。
他の皆には墜落した人の探索や救援に向かって貰った。
「コハク、ちょっと待て」
そんな声と共に私の手元に小さなイヤリング型の通信機が投げ渡される。使っている石の色的にオウルに渡していた物だ。
「持っていけ、お前の通信機は、壊れたんだろ?俺はアライさん達が戻って来れば個別に連絡が着く。お前にはないと不便だろ?」
「ありがとう。借りて行くよ」
「おう」
オウルにお礼を言い私は飛竜に指示を出し、湊瀬さんを連れて戦場に舞い戻った。
「それでコハクちゃん。あれを倒すってどうやるの?」
飛竜に乗り少しして、私しがみ付きながら第三の厄災の倒し方を聞いて来る。うん、まぁ、倒し方って言ってもシンプルなんだけどね・・・
「うーん、実は作戦は無いんだよね。でも、アイツには核が有る。そこを撃ち抜く。」
「で、出来るかな・・・」
私の言葉に湊瀬さんは不安そうな声を上げる。
「湊瀬さんとティアマトの力を吸収した湊瀬さんの聖武器なら出来るよ」
私のその言葉と同時に私達は戦闘領域に入った。比べてはいけないがやはりネージュと比べると飛ぶスピードが段違いに遅いか・・・
「湊瀬さん。戦闘領域に入った。お願い出来る?」
「やってみる‼」
私がそう聞くと頼もしい返事が返って来る。
『コハク‼生きてたか‼オウルから連絡は有ったが安心したぞ』
「フェル、心配かけてごめんね。」
『気にするな、コイツの攻略法が思いついたんだろ?俺達は何をすればいい?』
通信機から聞こえるフェルに応答をすると安心したような声が帰って来た。心配させて申し訳ない。
そんな事を考えながら私はフェルの質問に答える。湊瀬さんの事を何も言わないのは予めオウルから聞いていたのだろう。
「さっき突然に破壊した面から攻撃されたでしょ?その時に私の眼には一か所周りと違う赤さで輝いていた場所が有ったの。そこが多分アイツの核だと思う。私達はアイツの核を破壊もしくは表に引きずり出す。フェルは私達と一緒に来て他の皆は援護を私達が破壊し損ねたら総攻撃をお願い」
『了解‼野郎ども聞こえたか?もうひと踏ん張りするぞ‼』
『おぉ‼』
そんな応答を聞きながら私達は戦闘を再開する。
「湊瀬さん、15番‼」
「はい‼」
全員が配置に着き丁度攻撃を仕様と赤く発光した面に向かって私は湊瀬さんに指示を出す。
湊瀬さんの放った鉄矢はティアマトと同じ様な威力と本来の聖武器の性能なのかティアマトを上回るスピードで飛んで行き私の指定した場所に着弾し破壊する。てか、ティアマトの起動ワード無しでこの威力か・・・
「次‼22番‼」
「はい‼」
そんな感じで先程と同じ様に順調に面を破壊すると遂にその時が来た‼
面を破壊していると私達が撃墜された時と同じ様に唐突に10番とナンバリングした面と26番とナンバリングした面が入れ替わり、10番が赤く発光する。よく見るとやはり一か所だけ発光の色彩が違う。
「元10番‼斜め25度‼」
「モードデストロイ、ライトニングエレメント‼」
「《ヘプタ・ライトニングエンハンスアーマメント》《ヘプタ・フレイムオーラ》」
湊瀬さんが起動ワードを口にした瞬間、私は強化魔法を掛ける。
「いっけぇぇぇぇぇぇぇ‼‼‼‼‼‼」
そんな声と共に放たれた矢は私の指示した場所に少しのズレも無く着弾する。
矢が相手の核だと思われる部分に当たるとシールドでも張ったのか矢の速度が減速するがそのまま敵の核を押し込んで行く。
少ししてピシッと言う音がすると矢を射った反対方向の面から何かの花を模った第三の厄災と同じ色の結晶体が放った矢に押されて出て来る。それと同時に三十面体を構成していた菱形は浮力を失い地に落ちる。
周りを飛んでいた八面体達は焦ったように全てが赤く発光を始める。
『核が出たぞ‼総員、八面体に注意を払いながら攻撃‼』
「八面体が全て発光を始めた‼手当たり次第に叩き落せ‼」
その言葉と共に全員で八面体や核に向かって攻撃を行う。初めの内はシールドで対抗していた第三の厄災だったがとうとうその時が訪れる。
湊瀬さんが放った矢が敵のシールドを抜け核に直撃する。
ビシッという音と共に相手の核にヒビが入り核の右上部分が砕け散る。
深刻なダメージを受けたらしい核はそのまま急いで私達から距離を取ろうと八面体を盾にして一目散に逃げだす。
「逃がすか‼」
近くに飛んできた八面体を通り過ぎざまにカグツチで切り捨て飛竜に指示を出し、後を追う。
相手の核もそれなりにスピードが有るが追いつけない速さではない。
「こんのぉぉぉぉ‼‼」
後ろで湊瀬さんが弓を引き更に核を砕くと相手のスピードが下がり並走する。
第三の厄災の核は三十面体の時や八面体と同じ様に赤く発光し、レーザーを打って来る。
レーザーを避けるのと同時にピシッと音がして出て来た時と同じ様に空間に亀裂が入るのが目に入る。
恐らく、分が悪いと思い今回は撤退する腹積もりの様だ。
私は咄嗟に手綱を湊瀬さんに渡し飛竜から核に飛び移る。
「いい加減に消えろ‼」
カグツチとオカミノカミを突き立てそのまま切り裂く。
パキンっという音と共に核が完全に砕けると目を負いたくなる光と共に私の視界は真っ白に塗り潰された。
次回で第三の厄災は完全に終わりです。
ごゆるりとお待ち頂けたら幸いです。




