光刃の獣・2
おはようございます。
第102話投稿させて頂きます。
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日々寒くなりますので皆様も体調にお気を付けください
楽しんで頂けたら幸いです。
☆
「分かった。コハク以外の者は29の組を作って行動しろ‼」
通信機に向かってそう言った後、フェルは部下の人達に布とインクを持ってこさせて1~29の番号を振るように指示を出している。
コハクが敵にダメージを与えた事で突破口が見えて来たのだろう。
俺達も何か手伝えないだろうか・・・
「初めての戦場なんだ。君達はいざという時の為に座っていてくれ」
フェルの近くまで行こうとすると横から静かな声で止められる。横を見ると男の俺から見ても美形だと思う白色の髪を長髪にした男性が立っている。彼の髪色を見ていると確かにコハクの髪は銀色なのだと改めて認識する。
初めて見た時はびっくりしたが普段は梟の姿のままのオウルが今は人の姿をしているのだ。
オウルにそう促されてしまったので仕方なく乾達の居る所に行く。
「よっ、何そわそわしてんだよ?」
近くに行くと双眼鏡を覗いていた乾が小さな声で語りかけて来る。
因みにその双眼鏡はこの戦いの為に作られた特殊な物らしく強い光を見ても目が潰れない特殊な魔道具らしい。
てか、俺は別にそわそわなんてしているつもりは無いぞ・・・月夜も落ち着いているし・・・
「・・・いや、別にそわそわなんて・・・」
「はぁ、気づいてないなら重症だな。良いか?落ち着かねぇのも分かるけど始まっちまったんだからしょうがないだろ?少し落ち着け。俺達じゃ圧倒的に経験不足なんだ。今出て行ってもコハクたちの迷惑になるだけだろ?歯痒いのはお前だけじゃねぇんだ。勇者の中で年上の俺達が落ち着かないでどうする?」
そう言いながら乾はまた双眼鏡に目を戻す。少し離れた場所では戌夜やマカ達が同じ様に双眼鏡を除いている。
「まぁ、狗神の場合は彼女に助けられているから特別力に為りたいと思うのも納得できるんだけどな・・・戌夜や湊瀬さんだって落ち着いていられないみたいだしな。俺だって暁の国が危機的状況だったら落ち着いてなんていられないからな・・・」
しばらくして準備が整ったのかフェルが1~29の番号を振った旗を掲げた騎竜隊と一緒にコハクの所に向って行った。
『28番部隊‼赤く発光を始めたぞ‼気を付けろ‼』
番号が振られた事で指示が出しやすくなったのかフェルが合流してから順調に敵にダメージを与えている。
しばらくはこちらが一方的に攻撃をするという光景が続いていたが唐突に変化が起きる。
『なっ⁉5番部隊‼回避―――――‼‼‼‼‼』
コハクの焦った声音と共に第三の厄災の一面から光が瞬く。
「やべぇ、コハク避けろ‼」
双眼鏡を覗いていた乾や他の皆が叫ぶ声が聞こえる。
慌てて近くの双眼鏡を手に取り覗き込むと飛んでいる竜の中で一際目立つ見慣れた白龍が数多のレーザーに撃ち抜かれ地面に向かって落ちて行った。
☆
『コ・・・生き・・・る・・・応・・・答・・・』
不快な雑音と共に聞こえて来るフェル声のお陰で意識が少しずつ覚醒する。
幸い下が雪のお陰で命は有る様だ・・・
まだ不明瞭な意識のまま自分の体の状態を確認する為に四肢を動かす。
「っ‼‼」
腕や足を動かすと激痛が走るが幸い四肢はまだ有る様だ・・・
「ネージュ・・・」
体中に走る痛みを無視し、身を起こし、一緒に落ちたネージュを探す。
「ぐぅ・・・」
体を起こすと唐突に嘔吐感が込み上げバシャッという音と共にその場に血だまりが出来る。
内臓がやられているのかしばらくその場に蹲り咳き込む。
「ネージュ・・・」
一通り血を吐き出し落ち着いてから立ち上がりネージュを探す。体中に痛みが走るがとりあえず動けるので自分の体は後回しだ。
痛む体を無理矢理動かし辺りを見渡すと私が倒れていた場所から少し離れた所にネージュが倒れている。
「ネージュ‼」
近寄って状態を確認するとその凄惨な姿に声を失う。
白く輝いていた鱗はレーザーに撃ち抜かれた所が無残にも黒く焼けていて真っ黒な痕を複数残し、更に翼は千切れかけている。出血は傷口が焼けている為か確認できない。
恐らく私の傷口も同じ様に焼け焦げているのだろう。だが、今はそんな事に構っていられない。私はアイテムボックスから紫色の液体の入った瓶を取り出しネージュの口元まで急いで歩く。
「ネージュ、意識はある?有るなら薬を飲ませるから口を開けなさい」
瓶を見せながら声を掛けると薄っすらと目を開け浅い呼吸を繰り返しながらグゥゥゥゥと唸り口を堅く結ぶ。
「ネージュ、良い子だから口を開けて」
口に手を入れ無理に開かせようとするが私のダメージも大きい所為か力が入らず開かせることが出来ない。
ネージュの方を今度は眼を使い見ると飲ませようとしている薬を私に使えと言って来る。
「ネージュ、我儘言わな・・・」
そこまで喋った所で私は咳き込みまた吐血してしまう。
「ネージュ‼」
私の様子を見て更に口をきつく結ぶネージュを見て思わず声を荒げてしまう。心の声は相変わらず私が薬を使う事を考えている。
ネージュやメイド長達が私の事を第一に考えてくれるのは本当にありがたいのだが今は私もネージュも一刻を争うのだ。頼むから言うことを聞いて欲しい。
「ネージュ‼いい加減にして‼今は一刻を争うの‼算数は教えたでしょ?私の事を心配してくれるのは嬉しいけど貴女に使うポーションの量と私に使うポーションの量を考えるとこれが最善なの‼それに貴女が拒否すればするほど私の治療も遅れるの‼まだ、我儘を言うのなら牙の一本をへし折って無理やり喉の奥に流し込むよ‼」
多少、卑怯かもしれないが自分を人質に取りネージュを脅す。
私の言葉にネージュは少し考えた後、不満そうにゆっくりと口を開く。
「ごめんね」
私はそう言いながらネージュの口に手を突っ込み喉奥にエリクサーイミテーションを流し込む。
ゆっくりと喉が動き嚥下すると薬の効果が出て来たのか焼け焦げた後や千切れ掛けた翼が再生していく
ネージュの状態を確認した後で私も梟印のポーションを三本飲む。施設が分かっている限り2つ破壊された今、あまり使いたくはないがしょうがない。
耳の通信機を使ってフェルやオウルに連絡を取ろうとしたが受信はすれど発信は出来ない状態みたいだ。落ちた衝撃で壊れたのか・・・この辺は改良の必要アリだ・・・
「ネージュ、人の姿になれる?」
何とか動くという状態まで回復してからネージュに声を掛け、無残に壊れたティアマトを右手で持ち、不満顔で人の姿に為ったネージュを左手で抱き上げる。
「あるじのばか・・・」
抱き上げた時に小さな声で不満を言われたが後でちゃんと話し合わなければ・・・
「コリドーオープン」
リング・オブ・トワイライトの起動ワードを口にし、回廊を開く。
とにかく現状の確認とネージュを休ませる為に私達はオウルの居る本陣に向かうことにした。
次回はオウルの視点から始まり予定では第三との戦闘を終わらせられたらなと思います。
ごゆるりとお待ち頂けたら幸いです。




