表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ファンタズマ  作者: あらまき
4/5

4

 

 積みあがった皿の数を見て、自分はこんなに食べられたのかと、天道は驚いた。

 それと同時に、嘘みたいに頭痛が治まっていた。アレほど苦しかったのが全て空腹の所為だと思うと、なんとも情けない気持ちになる。

 空腹で倒れて、空腹で頭痛を抱え、空腹で不安になっていた。情けない以外の言葉が思いつかず、苦笑するしか無かった。


 それと同時に、自分が普通では無いと理解させられた。満腹になり、落ち着いて冷静に考える。

 積みあがった皿の数は二十以上。全て家族用の大皿だ。一皿五人前と考えても、百人分の食事だ。

 普通の人間なら、この量を食べられるわけが無かった。


「すまん。返せるかわからんほど食ってしまったな」

 天道の謝罪に、佐藤はどうでも良さそうに答えた。

「後で買い物に付き合ってくれたら良いさ。金は困ってないし、能力の目覚めたてなら仕方無いさ。それより聞きたいことがあるなら答えるぞ?色々起こって良くわかって無いだろう」

 ニヤニヤしながら佐藤は天道に尋ねた。相変わらず目が笑っていない。ただ、今までと違い距離感は近くなったような気がした。

 同じ釜のなんとやらだろうか。ほとんどは天道が食べてしまっていたが。


「そう……。確かに聞きたいことは沢山あるが、ただ、何が聞きたいかも説明出来ない。知らないことが多すぎて何から尋ねればいいのだろうか」

 頭の中が整理出来ない。既に情報量でパンクしそうになっていた。

 昨日の夜の事。自分の不思議な体の事。佐藤の正体。そして、これからどうしたいいのか。一体何が、どこで起きているのかわからなかった。


「そうだな。とりあえず、出来るだけ順番に話してみるか。まず、俺の生えは佐藤修二。偽名だ。本名は無い。スパイとかエージェントとか、そんな感じの活動をしている」

 佐藤の意味深な自己紹介は、疑惑がただ増えただけだった。

「いやちょっと待て。突っ込み所が増えただけだぞ。本名が無いってどういうことだ?」

「ああそこから聞くんだ。本名が無いのはアレだ。実験体として売られ、試験管の中で成長したからな俺。もちろん戸籍も無いぞ。偽装の戸籍はあるが」

 軽い口調で、非現実的なことを言い続ける佐藤に、天道はただ戸惑うことしか出来なかった。

「ちなみに名前は俺が考えた。佐藤は適当に多い苗字から。名前は蜘蛛の糸吐く音からシューで、蜘蛛能力の二番目の成功例だから修二。安直だろ?」

「すまんが、全く話についていけない。試験管からって、佐藤は人間なのか?」

 非常に失礼な質問だが、佐藤は真剣な表情で考え出した。

「うーん。俺達が人間かどうかは難しいな。一応人の腹から生まれたらしいぞ。生まれた瞬間培養層に漬けられただけで」

 天道は今まで自分は不幸だと思っていた。

 今考えたら自分に酔っていたんだろう。だが、それは大きな間違いだと気付いた。

 異常な世界で、異常なことを知らずに生きてこれたのは、間違いなく幸せだった。

 天道の日常が、佐藤の言葉と共に崩れていく。


「話が進まないな。言うべきことが多すぎるのが悪い。いや説明することなんてほとんど無いからなぁ。しょうがない。最初から話すか」

 そう言った後、佐藤は天道に質問をした。

「ファンタズマって頭のおかしい会社知っているか?」

 天道は頷いた。


 ファンタズマ総合企業。今ではそれだけの名前だが、昔は『ファンタズマ総合研究所』という名前だった。

 世界で最も優れた会社の一つと呼ばれている。ただし、その会社はある物しか製造しない。

 その会社は、世界で最も優れた『玩具』の会社だった。

 世界で広がる最先端技術。それを三段階くらい飛ばした技術を見せつける異常な会社。

 もう一つ異常なのは、誰もその技術を真似できないことだった。

 軍事利用を目指す国はもちろん。ハイテク産業として皆が真似を心がけ、一度たりとも成功していない。あらゆる意味で規格外な会社だった。

 例えば、立体視のゲームだ。頭にバイザーをつけなくても、立体視のキャラクターげ現実世界に混じる様に浮き出てくる。そして、それは触ることすら可能だった。

 他にも、ラグが全く無いネットゲーム。本当のAIを内蔵したペットロボ。そして、成長するプラスチックフィギュア。

 上げていけばキリが無い。その全てが異常な技術で、その全てが模倣すら出来ていない。セキュリティという意味でも異常な会社だ。

 意味はわからないが、子供の救世主とも呼ばれている。それがファンタズマという会社だった。

 ただし、徹底的な情報隠蔽が行われていて、本社や工場の情報は秘匿されている。

 非常に怪しく、不気味な会社だった。


「やっぱり、あそこが黒幕なのか?」

 天道はそう尋ねる。驚異的な技術力にセキュリティ能力。噂では独自の軍も持っているらしい。

 ただの玩具会社と思っている人は誰もいない。

「黒幕と言えばそうなんだが、ちょっと違うかもしれんな。上層部は世界中に面白そうな事を振りまくしか考えてない」


 ファンタズマのモットーは『遊びやすい玩具を皆の手に』

 では、その会社の上層部の真意はと言うと、実はそんなに変わっていない。

『世界がもっと面白くなれば良いから玩具をばらまこう』

 本当にそれが最終目標だった。

 別に世界征服を企んでいるとか、世界の破滅を目指しているとか、そんなことは無い。というよりも、全く興味が無かった。


 玩具会社になったのは二つの理由からだ。

 一つは大人から子供まで皆に技術を知って欲しいから。

 もう一つは、世界の技術レベルが上がるのを期待しているからだ。

 セキュリティが異常なのは、宝物には迷路が付き物だという考えからだ。

 上層部は誰も解けていないセキュリティを子供のパズル程度にしか考えていなかった。

 ファンタズマという会社を纏めている上の人間は、そういった神様気取りの異常者でしか無かった。


 上層部にとって、世界は遊び場に過ぎない。だから自分達は目的をもって何かをしていない。

 結果がわかりきっているから面白く無いからだ。彼らの考えに、善悪という考え方は一切無かった。


 そんな時、ファンタズマの研究室の一つで面白い実験結果が見つかった。

 その部署は、遺伝子研究。主に細胞の研究をしていた。

 その時の研究内容は、超能力、特にESP能力について。

 眉唾と思われた超能力者が見つかり、その細胞を調べることに成功した。その超能力者は千里眼が使えた。

 ただ、幾ら細胞を調べても、超能力の原因や方法はわからなかった。しかし、全くの無駄では無かった。


 超能力者の細胞と、一般人の細胞で、一部違う箇所が見られた。

 更にその箇所を調べることで、一つ、わかったことがある。

 その遺伝子の部分は、データをインストールする機能に近いものだということだ。

 普通の人間はその部分が空白ブランクだが、そこに情報が入ると細胞全体が変化し、全ての細胞内で情報がインストールされる。

 その部分を、【コアDNA】と呼び、研究を進めた。


 研究内容が人体実験になるまで、そう時間はかからなかった。


「そうした実験の中、俺みたいな奴らが生まれた。コアDNAに別の生き物の情報を入れることで、お手軽に超能力者が生まれる様になったと。まあ失敗率は依然高いままだけどな」

 眩暈がしてきた。知らない情報が山ほど出てくるが、一つだけ確かなことがあった。

 自分の中に別の動物がいる。それは間違いが無い。

 言目を閉じると、何となくイメージが見えてくる。毛皮を覆って、四足で疾走する。狼のような何かがこっちを食らい尽くそうと見つめていた。

「俺の中に入った生物の情報は、狼か?」

 佐藤は頷いた。

「正しくは、お前に移植された、または感染しただけどな。あと二つほど話すことがある。一つは俺達の組織のこと。もう一つは天道、おまえの事だ」


「俺達の組織って、お前はどこの所属なんだ?」

 にやりと笑い、佐藤は挑発する様に答えた。

「その黒幕さんとこだよ。正しくは、能力者がらみの組織はファンタズマしか存在しない」

 佐藤は、続けてファンタズマについて話だした。


 上層部の目的は遊ぶだけ。そこに善悪も道徳も無い。文字通り悦楽主義者の集りだ。

 だからこそ、上層部が能力者に出した指令はたった一つだけだった。

『自分達が面白いと思ったことをしろ。人類抹殺を目指しても、国の乗っ取りを目指しても、何ならこのファンタズマを襲っても構わない』

 そう言うだけで、何もしようとはしない上層部の所為で、内部は分裂し、最終的に三つの組織にわかれた。


 一つは【パレード】好きに生きろという命令を優先させた。自由な組織だ。主に禁止された犯罪行為を楽しむ為の組織。一応の規則はあるが、全く機能していない。人類の敵と呼んでも良いだろう

 次は【マーセナル】生き残ることを最優先にした組織だ。言い方を変えねば金中心の組織だ。能力者の傭兵という考えが一番近いだろう。雇い主を選ばない為、犯罪行為に加担することも多々ある。

 最後に【ガーディアン】人の為に、能力を使い人を守ると決めた組織だ。確かにお人良しの組織だが、少々傲慢な考えに酔っている節がある。

 人類は弱いから、俺達能力者が助けてやる。そんな考えを持った存在が多い。


「ちなみに俺はマーセナルに所属している。今回の任務は連絡の途切れたガーディアンのレナの救助、並びに護衛。または死亡確認だ」

 そう言いながら佐藤は天道の方をじっと見た。

「天道。お前の能力はレナの能力に酷似している。お前が見たのも、たぶんレナだろう。何か他に覚えていないか?」

「……すまんが前話したこと以外は何も覚えていない。たぶん俺を助けてくれたんだと思うけど……」

「だよなぁ。どこ行ったのか。しばらくは探すことになりそうだ」

 うんざりした声で呟く佐藤。

「見つかったら教えてくれ。俺も礼がしたい」

「ああ。いいぞ。生きていたらな。可能性は低いと思うが……」

「レナって子は、一体何に関わっているんだ?」

「すまんが、答えられない。依頼人がらみの事は話せないんだ」

 佐藤の言葉に天道は頷いて答える。情報量が多い為、天道も混乱してきた。


「最後に、お前のことだ。上層部はいつもの様に興味ないだろうけど……」

「ああ。やっぱり、俺みたいな組織と関わりが無い奴ってまずいのか?」

「いや、そっちは別に問題じゃない。単独なら何かあっても処理しやすいから誰も気にも留めん。問題はな……」

 佐藤は溜める様に言葉を切る。その間は、天道には妙に長く感じた。

「問題は?」

 我慢出来ず聞き返す天道。それに、ため息を吐いて、佐藤は続きを話し始めた。

「お前が能力者から感染したという事実だ。能力者から感染したという事例は、今まで一度も無かった」

 複雑な事情だけに複雑な心境。それに加えて複雑な体の状態まで追加されたらしい。

 天道は、不幸だと思っていた昨日まで自分を嘲笑った。

ありがとうございました。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ