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ファンタズマ  作者: あらまき
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始めましての方始めまして。

こちらは不定期更新となります。



 ああ、なんてどうでもいい人生なんだろうか。

 己の価値を見出せぬ少年は、夜の町並みを一人、つまらなさそうに歩く。

 その少年の見た目を一言で言うなら、不良に分類される。

 学生服を着崩し、睨みつける様に前を向いて歩く。

 着た方が楽なのに、わざわざブレザーを手に持って背負っている辺り、本人にもその自覚はある上、それを良しとしている風に見える。

 

 実際は、何も考えていないし、何もしていない。

 少年は空っぽそのものだった。 

 睨んでいる様な瞳だが、よく見ると何も映していない。その瞳が映しているのは虚無その物だ。

 不良というよりは、ただの怠惰の塊だ。何もしたくない。少年の真意はその一言に過ぎる。

 

 ただ、遠目に見たら性質の悪い不良にしか見えず、夜じゃなかったとしても、少年の側に人はあまり寄ってこないだろう。

 深夜に一人で歩く柄の悪い高校生くらいの子供。

 これで、不良という自覚が無いからなお性質が悪い。


 別に本人も不良になりたいわけでは無かった。

 ただ、生きていて良かったと確認出来ることがほとんど無く、人生をつまらないと思っているだけだ。

 その結果、学校をサボったり、途中から行ったり帰ったり、ただただ時間を無駄に過ごしていた。

 今日も、ゲーセンでゲームもせずにぼーっとしていたら、こんな夜中という時間になっていた。

「どうせ一人の家に帰った所で、何かあるわけでも無いしな」

 少年は一人で愚痴る様に呟きながら、ゆっくりと帰宅路を歩く。

 虚無感に体を支配されている少年。


――自分は今生きていないな

 そう、少年は思っていた。

 生きているというのは、一生懸命に生き続け、頑張っている人に送られる言葉だ。

 ただただ時間を浪費している自分に相応しい言葉ではない。

 今の自分に相応しい言葉は、『死んでいないだけ』になるだろう。

 

 そんな無気力な少年、天道輝テンドウアキラは、その日、偶然普段と違う帰り道を通っていた。

 いつもの帰り道、何か事故があったらしく、封鎖されていたので普段の帰宅路では無く、人通りの少ない道を通っていた。

 そして偶然立ち止まり、偶然、路地裏に目が行ってしまった。

 本当にただの偶然のが重なっただけだ。そこで、天道は何か光る物を見た。

「ん?何だ?」

 基本的に無気力で怠惰な性格が、今の天道だ。普段なら小さな事くらいなら、気付いても放置する。

 それなのに、その時は好奇心に負けてそちらの方に移動してしまった。

 好奇心は猫をも殺す。言葉は知っていても、それが実際だとは、天道は全く考えもしなかった。


 路地裏の奥に行くと、誰もいなかったし、何も無かった。

 その代わり、天道は自分の意思と関係無くその場に突っ伏し倒れた。

 倒れていることを気付いたのは、地面の感触と何か気持ち悪い液体の感触からだ。

 大量の生暖かい液体……。それが自分の血液だと気付くことは無く、天道はそのまま意識を手放し、闇に落ちた。




 失敗した。失敗した。失敗した。失敗した。

 少女は全力で何かから逃げていた。

 失敗した。失敗した。失敗した。失敗した……。

 後ろの方から、何かが追ってきている。それはきっと自分よりも早いだろう。

 失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した……。

 少女の後悔からの言葉が、脳内に延々とリフレインしていた。


「煩い!良いから静かにしろ!死ぬか生きるかの瀬戸際なのよ!」

 自分の脳内に怒鳴るという意味のわからない行動を取る少女。

 全くの無駄な行動ではあるが、混乱している自分を落ち着かせる程度の効果はあったらしい。

 もう一刻も猶予が無い。少女はまず、自分の状態を確認した。

 まず、右腕が無くなっている。

 怪我とか、欠損とかというよりは、全くの消滅だ。肩から先が存在していない。

 血は無理やり止めたから問題無いが、痛みだけは消えていない。むしろ幻痛すら感じる。

 次に、胸から背中にまで、貫通した小さな穴が開いている。俗に言う、風通しが良くなったという状態だ。

 心臓を避けてくれていて、本当に良かったと思う。

「あんまり綺麗にあいていて、指が通りそう。痛いの嫌だからしないけど」

 最後に、大量の細かい傷。

 少女も壁の中に地雷が設置されているとは予想もしていなかった。

 地雷の直撃から、狙撃による追撃。有体に言えば、絶体絶命に瀕死の状態だった。

 地雷自体は大した威力が無かった。細かい傷が無数に付く程度で済んだ。

 ただ、何故か血が止まらない。おそらくだが、地雷はそういう失血目的の地雷だったのだろう。

 どう見ても、どこの傷を見ても、それは異常以外の言葉が出ない。

 生きているのはおかしい。

 それでも、少女の顔色は健康的だ。焦りからか、額に冷や汗が流れている位で、とても瀕死の重傷人には見えない。

 ただ、顔に焦りがあるせいか、可愛らしい顔の眉間に強く皺が付いていて、少々おっかない顔になっていた。


「問題は、ここからどう逃げるかなのよね」

 少女はそう呟いて周囲を見回す。

 この怪我塗れの惨状でも、少女は自分の能力に自身がある様だ。

 相手の武装の情報は無い。それが不安点だが、機動力では勝っている。そう分析していた。

 不安なのは、失血死するかどうかだった。

 この傷でどの位持つか。少女は、走り続けて一時間と予想していた。

 もう一つ不安なのは、人に見つかる可能性があるということだ。

 特にこの傷だ。見つかった場合大事になりかねない。それだけならまだしも、自分の用事に巻き込む恐れがある。少女は、それだけは避けたかった。


 少女は、誰にも見つからない様に隠れながら移動を続けた。

 ビルを飛び、窓から窓に移動し、地上では車よりも早く足音も無く走り抜けた。

 まるでスーパーマンだ。だが、それだけの実力を持っていても、少女は油断しなかった。何故なら、相手も自分と同じ存在だからだ。

 チュイン。

 何かが掠れた音と同時に、何かがかすった様な気がした。少女は視力を強化し、その音の反対側の位置に注目する。

 ちょうど、同じ物が飛んできた。少女はそれが弾丸だと理解出来た。

 おそらくハンドガンの弾だろう。それほど大きく無い。

 視力を強化した今の少女なら、弾丸の形状から、螺旋状の痕まで見える。

 それは銀製のフラグメンテーション弾だった。

 体内をズタズタにする為だけに作られた。最悪の対人兵器。

「わざわざ銀製って、私は狼人間か。いやあながち否定は仕切れないけど」

ハンドガンの射程は非常に短い。今の距離でも命中率は低いし、この程度距離があれば十分回避出来る。

 問題なのは、これ以上距離を詰められた場合だ。命中精度もそうだが、あまり近いと避けるのが辛くなってくる。

 少女は速度を上げ、急いで走りぬける。想定以上に相手との距離は近かった。

 死ぬのは良くないが、最悪死んでも問題無い。本当に最悪なのは、情報を持って帰られないことだ。

 相手を顔を見て、手口もわかった。それだけが、少女の唯一の成果だった。


 皮肉な様だが、追われ、襲われている今の状況は、相手の戦力を分析する絶好の機会になっていた。

 相手の装備は高威力の長物、ライフル等の何かにフラグメンテーション弾のハンドガン。それと、近接の武器だ。当たってないし近寄りたくないからそれが何かまではわからない。

 この時点で、相手の能力は戦闘用では無いことがわかる。もし自分の力に自信があるなら、武装をそんなに持たない。

 例えば少女なら、近接用の武装は必要無い。トラックまでなら一撃で引き裂けるし、大型車を持ち上げることも容易だ。

 もし不意打ちを受けてなく、万全の状態なら、こっちから迫って相手を殴り殺している。

 それは、意味の無い仮定の話だった。

 

 ライフルも、自分にとっては脅威では無い。

 高威力だが、一瞬で貫通する。心臓さえ、当たらなければ大した怪我にならない。今自分の胸に空いている穴が一つ増える程度だ。

 むしろ炸裂し、体内に破片が残るフラグメンテーション弾の方がよほど危ないし怖い。



 長いこと逃げ続ける少女。こんなボロボロの状態でも、異常な速度を繰り返し逃げ回る。

 今は路地裏の目立たない位置から、新しい路地裏に移動し続けていた。土地勘は無いが、勘だけでも割となんとかなっていた。

 逃げ切れそうだ。少女はそう考え、気を緩める。

 もし一般人に見つかっても、気絶させたら大丈夫だろう。

 少女はそう考え、油断しきっていた。


 そう、少女は、最悪の想定をしていないことに気付いた。

 そもそもその想定は手遅れだった。

 少女はその最悪に思いついたのでは無い。気付かされただけだ。

 この少女は普通の人ではありえないほど、優秀な部分が多い。

 例えば、足。例えば視力。そして、嗅覚だ。まるで犬並と言えるだけの嗅覚が、少女には備わっていた。

 その嗅覚が、硝煙の臭いを感じていた。

 そして、その弾丸は自分には飛んできていない。


 少女は後先考えず、その方向に駆け抜けた。


 そこには血まみれの少年が倒れいてた。

 少女は、最悪の想定をようやく理解した。それは、自分と何ら関係無い、幸せな人間を巻き込んでしまうことだった。

 自分のせいだ。少女が関係無い人間を巻き込んだのは、別にこれが始めてという訳では無い。

 それだも、いやだからこそ、自分達みたいな人間が、普通の人を犠牲にして良いなんてこと、許せるわけが無かった。

 

 自分達は人の様なまがい物だ。そんなまがい物が、光の世界を歩く人々を、犠牲にすることは許されないことだ。

 周囲を見渡す少女。襲ってきた人物の気配が無くなっていた。

 おそらく、この少年を殺したのは相手にとっても想定外だったのだろう。騒ぎが大きくなる前に逃げたらしい。

 倒れている少年を、少女はじっと見つめた。自分と同い年位の少年だった。

 もし、自分が学校に行けていたら、こんな服を着れたのだろうか。

 少女は、そんな悲しい考えを振り払い、少年の様子を見る。

 地が流れ続けていて、まだ暖かい。もしかしたらこれなら間に合うのでは無いか。今から救急車を呼ぼうか。

 一瞬だけ、そんな甘い幻想に溺れた。そして、その幻想を捨てる。大丈夫なわけが無い。

 まず、流血の量から既に致死量を超えている。その上、心臓は五割程度消失していた。

 対能力者用の高威力ライフルの直撃だ。一般人なら間違い無く即死になる。少女でも、心臓に当たると即死する自信がある。

 これは当たり前の結果だ。ライフルが当たれば即死する。ただ、それだけの結果だ。


 それでも、少年はまだ体温が残っている。

 それだけで、少女は自分の命を捨て、賭けに出る価値は十分だと判断した。


「ごめんなさい。巻き込んでしまったわね。出来ることはしてみるわ。もし、うまくいっても、もっと嫌な運命を背負わせるかもしれないけど」

 少女は少年を抱きしめ、そっと座り込む。

「ごめんなさい。ただの我侭。自己満足だね。それでも、私みたいなまがい物じゃなくて、幸せに生きているあなたに生き残って欲しいの」

 その少年は答えない。既に死んでいる。その死体を見たら、誰もがわかるだろう。

「だからお願い。私の命を上げる。私の全部をあげるから。 生きて、笑って。そして、幸せになって。それだけで、私の人生は価値があったって……思えるから」 

 少女が言葉を紡ぐ度に、地面に流れていた少年の血液が少女の周りに集り、少女に吸収されていった。

 少年の流した血は、一滴残らず少女の中に納まり、惨劇があったとは思えないほど、この場所は綺麗になっていた。

 それに対して、少女は苦痛の表情を浮かべる。

 少女の中に他人の血液という異物が入ったのだ。辛くないわけが無い。それでも、少女は止めなかった。

 少女の失った腕が急に生えた。

 銀色の毛を纏い、長い爪の生えている。ライカンスロープを豊富とさせる様な、偉業の腕。

「ああ。血を吸ったから私も一応回復するのか」

 少女はそれを慌てず、いつもの事の様に流した。

「適合係数が跳ね上がってるわね。こんな状態初めてよ。うーん。死亡寸前だからかな。もし組織が知ったら喜ぶ情報ね。教えないけど」

 少女は顔を歪ませながら、少年を更に強く抱き抱えた。

「これだけ係数上がったらうまく行くかな。もし失敗したら一緒に死んであげる位しかしてあげられないなぁ。そうならない様に、最後のお勤めに気合いれよう!」

 少女はそう言いながら、抱きしめている少年の顔を見た。

 思ったよりも可愛らしい顔をしている。じーっと見つめる少女は、ふと何かを思いついたらしい。


「……最後に多少の役得くらい、良いよね?そんな経験すら無かったし」

 そう誰かに良いわけしながら、少女は恥ずかしそうに少年にキスをした。

 別にこれは、この後の作業に関わることでは無い。少女は、ただしてみたかっただけだ。

 少女の、最初で最後の命令以外の行動だった。

 一度位、マトモな青春を味わいたかったという少女の心からの願いだった。


「なんか……恥ずかしいわねこれ。でも、良い感じかも。あーあー。もっと色々と楽しみたかったなー。キスの先とか知りたかったなー」

 少女は少年を抱き抱えながらそう愚痴る。

 そんな少年は、体の傷が塞がっていき、顔色も徐々に良くなっている様だ。

 それに非礼して、少女の顔色が悪くなっていた。土気色に変わり、同時に少女の体が、端から光になり消えていっていた。

 なんとなく、幽霊の様に薄くなっていく少女。存在が希薄になっている様だった。

 良く見ると、細かい粒子の様な物が、少年の中に傷口に入っていた。

 「生きて、笑って、そして幸せになって」

 少女は、まだしゃべれる内に、最後の願いを少年に託した。


 少年の傷が塞がり、息を吹き返した時には、少女の姿はどこにも無くなっていた。


 口の中の不快感で天道は目を覚ました。

 なんだろうか、鉄臭くて口の中がねばねばする。寝起きでもここまで酷くはならない。

 周囲を見回すと天道は驚いた。何故自分は路地裏で寝ていたのだろうか。

 意識を失うようなことをした覚えはない。

 酒だって飲んでない。そもそも天道は飲酒も喫煙もしたことが無い。

 何とか思い出そうとするが、路地裏前に来た辺りまでの記憶はあるが、それ以降何も思い出せない。

 何があったのか天童は必死に考える。だが答えが見つかるより先に、悪夢のような現実に気づいた。


 自分の体を触る。自分のシャツに穴が開いていて乾いた血で固まっている。その瞬間に、不快感と吐き気に襲われた。

 何があったかは覚えていないが何があったかはわかってしまった。

 目覚める前の自分は死の気配のようなものを感じた。

 自分は死ぬ所だったんだと、天道はそう思おうとする。一度死を味わった恐怖を気のせいだと誤魔化す為に。

 吐き気を抑えて自分の体を触る。

 痛みも傷も全く無いだからあれは夢だったんだ。 

 そんな幻想を銅褐色のシャツが粉々に粉砕した。

 そして、ただ、この場所を一刻も早く出たいという衝動に襲われた。


 ここにいたらいけない。ここで死んだということを忘れる為にに、ここで死んだという事実は無かったことにする為に、を天道はここを離れたかった。


 何でどうして、何もわからない。ただただ状況に混乱する天道。

 唯一わかったのが自分が死んだという体感のみ。それすら認めず、考えないようにしていた。

 その体感は非常にリアリティがあって、思い出そうとすると吐き気の次に震えが襲ってきた。

 得も知れずの恐怖の感情。死とは怖いものだという、本能を叩きつけるように恐怖が襲ってくる。

 周囲を見回す。天道は偶然、無事だったブレザーを見つけた。

 ダサいから着たくないなどと言うことはもう言えない。少しでもシャツを隠さないと見つかった時に面倒だ。

 ズボンのほうは元から黒に近い色だから目立たない。近づかれたらその不自然な胴褐色と不快な臭いで気付かれそうだが。

 

 天道はその場を急いで離れは家まで全力で走った。

 誰も待っていない。たった一人の為に用意された、大嫌いな場所。

 だが、今はその場所が何よりも恋しかった。

 

ありがとうございました。

こちらでは雰囲気が台無しになるので余り余計なことを言わないようにしたいと思います。

一つだけ。

読者のおかげで私は作品を書けます。

本当にありがとうございます。

そして読んでくださりありがとうございました。

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