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産廃水滸伝 ~産廃Gメン伝説~ 6 白馬の騎士  作者: 石渡正佳
ファイル6 白馬の騎士
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直立不動

 翌朝、約束の時間に通恋洞の現場に行くと既に十人ほどの作業員が集まっていた。ダンプ三台とユンボを載せた回送車も待機していた。細い農道によく入ってこられたと思う重装備だった。しかも周辺のお花畑は一切荒らしていなかった。高峰の約束は半端じゃなさそうだった。

 「あの伊刈さんはどちらでしょうか」かしららしい男が進み出た。年齢がまちまちの作業員の中でむしろ若い部類だった。長身でなかなか凛々しい顔をしていた。他はただの作業員で彼一人が高峰の配下に入っているのだと思われた。

 「僕が伊刈だけど」

 「そうですか」頭は直立不動になった。

 「会長から伊刈さんの指示に従えと言われています。よろしくお願いします」そう言いながら最敬礼したのには伊刈もちょっと驚いた。

 「じゃあ始めてください」

 「わかりました…作業始め」頭の号令が響きわたったとたんユンボのエンジンが震えた。伊刈たちが立ち会っていなければ、これから不法投棄をやろうとしているかと疑われかねなかった。

 ユンボのバケットでざっくりと産廃をすくいあげてダンプに積み込み、こぼれ落ちた産廃は手作業で拾い上げる撤去工事が続いた。作業員たちは黙々と働いていた。一時間ほど作業が進んだところで伊刈の携帯が鳴った。番号表示はなかったがすぐに着信ボタンを押した。

 「ああ伊刈さんだね。どうだいよくやっているかい」高峰からだった。

 「ええだいぶはかどりましたよ」

 「そうかそれはよかった。あんたが満足するまでやらしてくれ。中途半端な仕事をしたら俺が許さない」

 「ほんとによくやってくれていますよ」さすがの伊刈も恐縮して答えた。

 「一度挨拶に行かないとならんねえ」

 「いつでもお待ちしていますよ」

 「それにしてもあんたたち大したもんじゃないか」

 「何がですか」

 「まあいいってことよ。俺もこういうなりゆきは初めてなもんでねえ」

 「これからダンプは…」伊刈が言いかけたとき高峰はブツッと電話を切ってしまった。

 作業は三時間で終わった。最後は箒で掃き清めて砂まで持ち帰った。現場にもともとあった農業用ビニールくずや野菜くずまで積み込んだので前よりもきれいになった。

 「これでいいでしょうか。伊刈さんにいいと言ってもらわないと会長に怒られますから」頭がまた直立不動で言った。

 「大丈夫満足したよ。会長に褒めておくよ」

 「ありがとうございます」頭は最後にまた最敬礼すると安堵の表情を浮かべた。「撤収」

 「どこに持っていくの」伊刈は帰り支度を始めた作業員たちの目を盗んで運転手に尋ねた。ダンプは組織に属さない借り上げだから口が軽いだろうと思ったのだ。

 「横浜の方だってよ」運転手は一言だけぼそりと答えた。

 「班長これで幕引きですか」花畑を抜けていく重々しい車列を見送りながら長嶋が言った。

 「これ以上は調査しない約束だから」

 「約束を守るんすね」

 「相手が守ったんだからこっちも守るよ。そうしないとまた同じ問題が起こったときに信用してもらえなくなる。どうやら会長っていうのは本物らしいから」

 「藍環業はこのままでいいんすか」

 「ここでムリしなくても神奈川県の許可は停止されたそうだし警察も内偵中だと聞いてる。どっちみち時間の問題だと思うよ」

 「自分も高峰の顔を立てるべきだと思います」長嶋の賛意は伊刈にもうれしかった。

 事務所に引き上げるとわざわざ奥山所長が個室からねぎらいに出てきた。

「やあご苦労様」奥山は満面の笑みだった。「さっき合併前の町長の宮小路区長さんがびっくりして電話してきたよ。こんなに早く片付くとは思わなかったって。ゴミが飛んでハウスのビニールに穴が空かないかと心配していたんだそうだよ。花の出荷が最盛期だからね」

 「ゴミよりも花が心配でしたか。もしかして撤去してたの見てたんでしょうか」

 「農家からダンプが何かやってると通報があったそうですよ。それで見に行ったら役所がいるから撤去してるとわかったんでしょう」

 「だったら顔出してくれればよかったのに」

 「邪魔したら悪いと思って遠慮したんですよ」

 「区長に喜んでもらえてよかったです」

 「よかったどころじゃないですよ。区長がぜひみんなに会ってねぎらいたいと言っているんです。これから行ってきてもらえないですか」

 「これから? 午後も現場あるんですけど」

 「行ってください。区長の誘いじゃ断れないでしょう。元町長ってだけじゃない。先代は県議までやってた地元の名士なんです」

 「そうですか、わかりました」伊刈はメンバー全員を連れて宮小路区長の自宅まで挨拶に行った。長屋門がある旧家で庭木がよく手入れされていた。屋敷の裏には酒か醤油を醸造していたころの名残のレンガの煙突があった。

 「よくやってくれました。ほんとうにご苦労様」宮小路は諸手で出迎えてくれた。

 「これが仕事ですから」

 「市が産廃をやるようになって正直なところ期待と心配と相半ばしていましたが、これほど早く撤去してくれるとは驚きました」

 「まあ今回はラッキーだったかもしれませんね」

 「どうやって撤去させたんですか」

 「証拠を探したんですよ」

 「あのゴミの中からですか」

 「諦めずに探せばありますね」

 「それなら今度から住民も手伝わせてください。なんでもやらせますから。ほかの区長にも言っておきますよ。環境事務所のみなさんがやってくれたって」

 「手伝ってもらえると助かります。証拠探しは人数が多い方がいいですから」

 「プロ集団が来てくれてほんとによかった。これでもう安心だ」宮小路の賞賛はいつまでもやまなかった。

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