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産廃水滸伝 ~産廃Gメン伝説~ 6 白馬の騎士  作者: 石渡正佳
ファイル6 白馬の騎士
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トンボ

 広域農道北側現場から集めた証拠で一番多かったのはインスタントコーヒーやスープなどの食品パッケージの束だった。読み取れるメーカー名も多彩で、どれもTVコマーシャルで毎日見かける有名企業ばかりだった。パッケージは未使用のシート状だったので当然食品工場から廃棄されたものと思ったが、調査を進めるとそうではなかった。パッケージ類を担当した遠鐘が連絡すると大手飲料メーカー東洋シーグラムの菊池資材課長が出頭してきた。菊池は掘り出された証拠を手にとって丹念に点検した。

 「まだ袋がシート状につながった状態ですねえ。これはテスト印刷段階のものですよ。印刷工場から廃棄されたかもしれませんね」

 「印刷工場ですか?」遠鐘が問い直した。

 「パッケージフィルムは化学メーカーで製造し、印刷工場でプリントし、当社工場かもしくはOEM(委託生産)工場で製品に使用されるんです。製造ラインで使用するフィルムはロールでして、こういうシートではないんです。それにこれってトンボが付いていますね」

 「トンボ?」

 「シートの印刷位置を決める十字のマークですよ。あとカラーチャートも付いてる。これは間違いなくテスト印刷のものですよ。印刷工場の廃棄物だと思います」

 「印刷工場は特定できますか」

 「もちろんできます。当社で改めまして調査しまして、そこから先の廃棄ルートもご報告します。そのかわりと言ってはなんですが当社の社名が出ないようにお願いします」

 「風評被害対策ですか」

 「ええおっしゃるとおりです。食品業界は風評が一番怖いですから」

 「調査内容を現段階で公表するつもりはありません。調査でも御社の社名はできるだけ出さないようにします」遠鐘が言明すると東洋シーグラムの菊池は安心したような顔で引き上げていった。

 翌日にはすぐに調査結果が返ってきた。

 「うちがパッケージの印刷を委託しているのは帝国印刷の群馬工場でした」

 「かなり大手の印刷会社ですね」

 「業界一位か二位ですね」

 「テスト印刷フィルムの廃棄先はわかりましたか」

 「それはいろいろだそうです」

 「わかりました。こちらで調べてみます」

 大企業の社名ばかり出てくるので遠鐘の調査も調子が上がってきた。遠鐘はすぐに帝国印刷の群馬工場に電話した。いくつか電話を回されて最後に出たのは資材課長の貫又かんまただった。

 「ああこれはうちのだ」不法投棄と聞いて環境事務所に駆け付けてきた貫又はパッケージフィルムを見るなり言った。

 「テスト印刷のものですか」

 「お客様との打ち合わせ用に出したものだと思います」

 「つまり客先で捨てた可能性もあるということですか」

 「これ一枚ならそうですね。しかし東洋シーグラムのだけじゃなく複数銘柄ありますからね。このコーヒーはネプコのものですねえ。こっちのシャンプーのパッケージもうちの印刷です」

 「これ全部帝国印刷で廃棄したものということですか」

 「お恥ずかしいことです。ただ全部じゃないです。当社のではないものもあります」

 「仕分けできますか」

 「ええやれます」貫又は手際よく証拠の中から帝国印刷群馬工場の取引先のものだけをピックアップした。

 「これはなんでしょうか」伊刈はピックアップされなかった証拠の中からコーヒー缶を半分に切ったような形のプラスチックを拾い上げた。

 「これはダミーラベルですね。マンダリンボトラーズのコーヒー缶です。これはうちが印刷したものじゃありませんね」

 「ダミーラベルってなんですか」

 「自動販売機の商品選択ボタンの上に飾っておくイミテーションの商品ラベルですよ。昔は本物の缶を飾ったんですが、それだと場所をとるし金属だと錆びたり黄ばんだりするので最近はプラスチックのダミーを使うんです」

 「なるほど」

 「ダミーラベルは専門業者しか扱わないものなのでマンダリンボトラーズに聞けば製造しているところはわかるんじゃないですか。ただ自販機の解体から出たものだと難しいかなあ」

 「詳しいんですね」

 「飲料メーカーは印刷工場にとっては一番のお得意様なんで自然と詳しくなります」

 「群馬工場からの廃棄ルートは特定できますか」

 「時期によって頼んでいる産廃業者がいろいろでして今すぐにはわかりません。しかしカラーチャートの位置とかが違いますので印刷した時期は特定できるだろうと思います。何枚か持ち帰ってもいいでしょうか」

 「かまいませんよ。いつわかりますか」

 「二、三日いただけますか」

 貫又から翌日すぐに連絡があった。「わりと簡単にわかりました。お借りしたテストシートを廃棄した産廃業者は福島のニシキ・パワーエナジーでした」

 「どんな会社ですか」

 「プラスチックを焼却してボイラーを炊いているリサイクル工場ということです」

 「取引期間はどうですか」

 「昨年の夏くらいから取引しているようです」

 「FAXでかまいませんからそれを報告書にしていただけますか」

 「わかりました。あのそれでこの会社が不法投棄したということなんでしょうか」

 「それはもう少し調査しないとわかりません。調査結果が出たらご報告します」

 「そう願えますとありがたいです」貫又は場慣れした口調で言った。どうやら不法投棄現場で帝国印刷の印刷物が発見されたのは初めてではない様子だった。

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