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産廃水滸伝 ~産廃Gメン伝説~ 6 白馬の騎士  作者: 石渡正佳
ファイル6 白馬の騎士
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連続ゲリラ

 扇面ヶ浦の調査をした翌朝、飯塚町の宮小路区長からまた不法投棄があったと通報があった。

 「この間の通恋洞の近くなんですよ。でも海岸ではなく行司岬の下にある袋地の農道の脇なんです」

 「ずいぶんわかりにくい場所みたいですね」電話を受けた喜多はどこのことなのか土地勘がなかった。

 「すごく奥まったところなんです。地元の者でもまず行くことはありません。ご案内してもよろしいですよ」

 灯台の駐車場で宮小路区長と待ち合わせて現場まで誘導してもらうことにした。宮小路が運転する軽トラは岬の崖上の細い農道を一キロ以上も走って開墾されて間もない袋地の畑に出た。不整形な畑の周囲を細い農道がサーキットのようにぐるりと巡っていた。道幅はとても細くダンプが間違っても迷い込む所ではなかった。風除けのために植えた潅木のせいで海面は見えなかったが、そのすぐ先からは扇面ヶ浦の急転直下の断崖で、べたつく潮風が絶えず吹き上げてきた。崖際の一角にはペンキメーカーの耐候試験場があって、二十センチ角に切ったトタン板が海苔の干し場のように整然と並んでいた。産廃が棄てられたのは海とは反対側の崖だった。

 「これは扇面ヶ浦と同じ出所のゴミっすね」長嶋が不法投棄物を見るなり言った。

 「どういうこと?」伊刈が問い返した。

 「同じ会社のフィルムがあります。たぶん他のゴミも向こうのと同でしょう」

 「群馬から来たゴミが二か所に分かれて捨てられたってこと?」

 「三台は直行であっちへ棄てて一台はどこかで四トンに積み替えてからここに持ってきたんでしょう。どう見たって十トンじゃ入れない道路すからね」

 「どうしてそんな面倒なことをするかな」

 「わかりません」

 「とにかく証拠を持ち帰ろう」四人は手分けして証拠収集を開始した。遠鐘が危険な崖をなんなく降りていくのを宮小路区長が感心した様子で眺めていた。

 証拠をまとめて引き上げようとした時、今度は緑町の幣原区長から通報が入った。

 「県道脇の空き地に不法投棄がございます」幣原の言葉遣いには生まれながらの素性のよさが現れていた。

 「どんなところですか」喜多が応答した。

 「県立高校の北の県道脇でございます。道路から丸見えでしてかなり目立ちます」

 「棄て逃げですか?」

 「昨日の昼間は何もなかったそうでございます」

 「朝陽高校の北側で新規の現場だそうです。どうしますか? 県道脇の空き地でかなり目立つそうです」通話を続けながら喜多は伊刈を見た。

 「まだ日が落ちるまで時間がある。今から調査しよう」伊刈は即答した。

 「わかりました」喜多はこれから現場確認をしたいと幣原区長に説明した。

 新しい現場の場所はすぐにわかった。民家が連たんした県道脇の廃屋跡にダンプ一台分の荷姿がきれいに残っていた。幣原区長の立会いでチームの四人はすぐに証拠収集を開始した。

 「これは都内のゴミですね」最初に声をあげたのは遠鐘だった。

 「埼玉のもありますよ」遠鐘が応じた。

 「やっぱりこれもどっかの業者のヤードに積んで重機で踏み潰した産廃みたいですね。扇面ヶ浦のものと似ていますが潰しかたがいくらか甘いすね」長嶋が言った。

 「確かに微妙な違いがあるね」伊刈が応じた。アドレナリンが出ているせいか証拠探しの最中も次々と声が飛んだ。

 「同時に三件の捨て逃げ事件なんてどうなってんだろう」喜多が額の汗をぬぐいながら言った。防寒服を着たままの作業だったので、体の熱がこもってサウナに入ったように汗が噴出してきたのだ。

 「二週間待たされて渇きに渇いたってわけだ。産廃ダンプの無差別同時多発ゲリラだな」伊刈が応じた。

 「もっと増えるんでしょうか」

 「ゲリラはしばらく続くかもしれないな。とにかく目の前の事件を一つずつやっつけよう」

 日暮れまでは一時間しかなかったが四人がかりでたちまち産廃の山が掘り崩されていった。

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