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産廃水滸伝 ~産廃Gメン伝説~ 6 白馬の騎士  作者: 石渡正佳
ファイル6 白馬の騎士
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自警団結成

 森井町の坪内区長と飯塚町の宮小路区長がそろって奥山所長を尋ねてきた。仙道が伊刈を伴って所長室に入った。

 「伊刈さん、この間はご苦労様でした」宮小路が改めて伊刈の労をねぎらった。

 「いえこちらこそお世話になっております」

 「事務所ががんばってくれていることに感銘を受けましてね、住民もこのままじゃいけないと思いまして今日はご提案に参ったのです」

 「とおっしゃいますと」

 「森井町と飯塚町で不法投棄自警団を組織されるというんだよ。私はありがたいことだと思うんだが二人の意見を聞かせてくれないかね」奥山所長が宮小路区長の代わりに説明した。

 「私の意見を言わせてもらってよろしいですか」仙道が先に発言した。

 「もちろんですよ」

 「所長がおっしゃるとおりありがたい申し出だとは思うのですがかなり危険ですな。相手はヤクザです。住民を危険にさらすのはいかがかと。やはりここは警察と行政にお任せいただくのがよろしいと私は思います」

 「こんなことを言ってはなんですが」坪内区長が発言した。「市が夜パトを始められた時、これでやっと産廃ダンプの来ない夜を迎えられると期待していたのです。ですが現状はどうでしょうか。不法投棄は一向になくならない。これ以上行政に任せてはおけません。私らの地域は私らの手で守るしかないというのが私らの結論なんです。ただ宮小路さんがぜひとも事務所の伊刈さんのご意見を聞いておきたいとおっしゃるものですから本日は二人でご相談に参りました」

 「伊刈、おまえはどう思うんだ」意見を無視された仙道が伊刈を見た。

 「どんな作戦を立てているんですか」伊刈が坪内に聞き返した。

 「対策は二つあります」坪内が答えた。「一つはもう産廃業者に土地を売らない貸さないという申し合わせです。私ども農家も悪かったんです。不法投棄された土地はもとをただせば私どもの土地です。五十万かそこらの金に目がくらんで大事な農地を貸したことを今は悔やんでおります。ゴミ屋も余所者が増えましてね、最近ではもう無断で穴を掘られてしまいます。宮増のばあさんの土地なんかひどいものでして、気骨もんですから土地を貸せと言ったゴミ屋を一喝しまして一円ももらっとらんのに、勝手に十メートルも盛られまして使い物になりません。もう我慢ならんというのは一つはばあさんの土地が明日の我が身ということでしてね。もう一つは住民が回り番で夜警をやろうということです。森井と飯塚に小さな監視小屋を建てて交代で張り込もうと思っとります」

 「それは危険すぎる」仙道がすかさず言った。

 「危険は承知の上です。このまま不法投棄が続いて私ども農家が一番心配なのは作物の風評被害なんです。もう一日も待てません」坪内の決意は固いようだった。

 「僕はいいと思いますよ。警察も行政もあてにせず住民が立ち上がろうというのはすごいと思います。陳情や請願ばかりで自分たちでは何もしないのが市民運動の通り相場です。それに比べたら農家の皆さんが監視小屋を建てて張り込み、ダンプに立ちふさがろうなんてすごいです。頭でっかち口先ばかりのプロ市民じゃこうはいかない。江戸時代から一揆で戦ってきた農民パワーですね。それに実際効果があると思います。一つの場所に居続けることは、そこを守りたいと思ったら一番有効な方法だということは実証済みなんです」

 「おまえなあ、住民にけが人が出たらどうするんだよ」仙道はあくまで反対だった。

 「市の夜パトだって警察をあてにしないで自立しようというのが出発点でした。結果としてチームゼロは警察との連携を深めています。これは結果論です。住民が立ち上がるなら、それを警察と行政がバックアップするということでいいんじゃないですか」伊刈と仙道の意見が真っ向からぶつかった。奥山所長が困ったように人徳者の宮小路区長を見た。

 「伊刈さんのご意見は賛成ということですね」宮小路が静かに言った。

 「はい」

 「実は来週、森井稲荷の集会所で自警団の決起集会があります。夜七時からでございますが皆さんにもご出席願えませんでしょうか。犬咬署の生活安全課長様はお来しいただけるということでございます。そこでもう一度伊刈さんに今のようなご発言いただけないものでしょうか」

 「ぜひ伺わせていただきます」奥山所長が宮小路に即答した。だが内心集会への出席に乗り気なわけではなかった。

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