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常磐と共に  作者: 野暮天
第二章
12/13

第十一話 左大臣藤原頼長

 時間は遡る。義朝が清盛と手を組んだ少し前。左大臣の藤原頼長は崇徳院と結託して謀反を起こそうとしていた。

 崇徳院は鳥羽院のなくなった初七日になっても現れず人々は不審に思っていたところだった。

 御門は検非違使を集め都の警護に努めた。

 そのうち院方の武士が捕縛され、いよいよ崇徳院と頼長の結託は明らかになっていった。

「下野守、今日私がそなたを呼んだのは何でもない。院のことだ」

 高松殿に呼び出され鳥羽院の遺言に基づき人員が整備された。そのうち源氏と平家ともに名を連ねたが簡単に味方ができない人間もいた。平清盛は立場上簡単に御門側につくことはできないはずだったがそれでも義朝との誓いを守ってくれた。

「院と左大臣が結託して私の命を狙っているというのはもはや隠し立てようのない事実だ。だからそなたは敵となった左大臣に対して策略を練ってほしい」

 具体的な施策は信西入道に任せると告げられた。鳥羽院がなくなる以前より皇居の警護を依頼されていたのだからこうした事態に陥るのも自然なことだった。

「ここまで来たら左大臣の荘園を没収するくらいまでしないと」

 左大臣藤原頼長が御門に対して呪詛しているとの噂もある。東三条邸に討ち入り頼長の財産を召しあげる覚悟だった。

 院の力を削ぐことがこの争いで勝つことの条件だったからだ。

「承知いたしました。私はこれから出立の準備を」

 頭を下げ御門の前から去る。背後には信西の姿があった。

「これは院と御門の力関係をはっきりさせるための争いだ。武功をあげるためにどちらにつくか迷う連中もいるがそなたはそうした人間とは違うはずだ」

「当然だ。なくなられた院の遺言にも御門をお守りするようにと申し付けられていた」

 かつて仕えた主人が亡くなればすぐに裏切るという真似はしたくない。武士としての誇りがあった。一方で父為義が院方につくことは予想できた。

「これから院の味方をする勢力と御門を守る勢力に二分されるだろう。見ものだな」

 信西は勝つ気でいるらしい。冷静沈着に見えて豪胆な性格は仏の道を行くものとは思えない。現世での野望を果たすためにも彼は勝たねばならないのだろう。

「安芸の守(平清盛)の息子の安芸判官基盛が院方の武士を捕縛したとも聞いている。平家の力があると頼もしいな」

「ああ。池禅尼さまが重仁親王の後見をされていると聞いたから不安であったがよかった」

 その裏には義朝と清盛の約束があったことを彼は知らない。血判書まで作ったのだ。そう簡単にこの誓いが揺らぐことはないはずだ。

 できたら清盛とは生涯の友でありたい。彼にはそう思わせる気品と魅力があった。武力で成り上がったとはいえ田舎侍の義朝にはない知性と力があった。

「しかし俺も急がねば。左大臣の居、東三条邸に御門に対して呪詛を申し上げる人間が用意されているはずだ」

 義朝は屋敷に戻ると朗党を集め、討ち入りに向かう。

 御門の宣治を頂いて御門に対する不敬を働く輩に成敗しなければ。

「皆のもの、参れ」

 義朝が去る直前、会議で左大臣藤原頼長が肥前国に流罪が決まった。もし仮に義朝が頼長を捕縛できれば大きな功績をあげることができたが。

 馬に跨がり東三条邸に向かい門を叩く。だが返事はない。

「ここまで来たら致し方ない。抉じ開けるか」

 南西の小さな門を打ち破るが人っ子一人いない。

「くそっ遅かったか」

 だがまだ人の気配はある。義朝は急いで邸内の神社を通りすぎた。千貫の泉のほとりにある壇を一瞥すると三井寺の相模阿闍梨勝尊という僧がいる。

 おそらく彼が呪詛をしている張本人だった。

「お主何をしている。場合によってはただで済まないぞ」

 義朝がそう告げても僧は黙っているだけだった。

「内裏に参上されよ」

 朗党二人がかりでつかみかかるが僧は金剛力士のように身動きひとつしない。

「そういうことなら厳しく対処させていただく」

 男の数を増やして僧に殴りかかり、彼が祈祷に使った仏像や書類、頼長の手紙を召しあげ担ぎ出す。

「この者を宮中にお連れしろ」

 男たちはうなずくと大声をあげて白帯で僧を縛り上げる。もうこの人数では勝ち目がないのがわかっているのか僧は覚悟したように目を閉じるだけだ。

 男たちが僧を担ぎ宮中に向かうと、蔵人治部大輔源雅頼が証拠品を受け取り、判官首席の高階俊成が御門に命じられ尋問を始める。

「そなたは何をしておった。この証拠から見るに御門を呪詛していたのではないか」

「私は関白殿下と左大臣の仲が和睦されるようにお祈り申し上げているだけです」

「そんなはずがあるまい。冗談も休み休み言え」

 これ以上申し上げても嘘は明白だった。僧の弁明もむなしく捕縛が決定した。

 だが肝心の左大臣頼長の姿はなく焦りは増す一方だった。

「下野守、よくやってくれた。引き続き警護を任せる」

 御門から直々に感謝のお言葉を頂戴した。

「身に余る光栄。しかしこれ以上悠長にもしていられない」

「わかっておる。仔細は信西に任せてある。あやつは頭の切れる男だ」

 御門は自分の言葉で語るのは意外だった。

「私とて危険を感じていないわけではない」

 普段は遊興に耽っているのにこうした時には真面目な顔をする。彼もうつけものというわけではないのだ。

「失礼なことを申し上げた」

 自分が知らぬうちに相手を侮っていたことを義朝は恥じた。こうしている間にも敵方は着々と勢力を集めつつある。

「もうよい。そなたは控えろ」

 しばらくは屋敷に戻らず宮中で警護することが必要になりそうだ。裏で父が兄弟たちと崇徳院に協力しているのをまったく知らないでいた義朝はただ今後に思いを巡らしていた。

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