S:97 一歩
「失礼しますっ!」
汗をふき、息を切らして保健室に到着した。
廊下から周りの目を気にすることもなく、息を切らしたまま、今の勢いのままで挨拶する。
返事は――ない。
ということは朝と同じ状態なのだろうか。
空の頭の中に、朝の出来事がフラッシュバックする。
だめだ、ここで立ち止まっては。朝の出来事をまた繰り返してしまうのか、お前は。
違うだろ、俺は空だけど、ユーシャでもあるのだから。
ドアに手をかけ、勢いよく開けた。
――保健室は、夕焼けさえ差し込まない、闇の間だった。
特定のベッドを見る。――小刻みに震える人影がいた。
空間には空の息がよく響く。それを聞いている彼女はどんな気持ちなんだろう。
きっと今にも逃げ出したいだろう。少なくとも空はそう思う。
だから、さっさと終わらせよう。
空は決意して、服を少しだけはだけさせて、その翼が見えるように翼に意識を向ける。
魔法と同じように、広がるように意識を向ける。背中にない筋肉があるように意識して、その筋肉を伸ばす。はじめなのでゆっくり、ゆっくりと翼を広げる。
広がった翼は、部屋に歪な形の影が姿を現す。
深呼吸。吸って、吐いて。
「よっし」
空にしか聞こえないように、小さな決意を秘めて一歩踏み出す。
あと2話。




