S:95 苦い思い
――
「え、っと……」
「見ないでよ」
泣きながら、言葉を強くぶつけてくるアモスに、空は抵抗することなく、床へと視線を落とす。
「……」
「……」
先ほどまでと同じ沈黙なはずなのに、痛い。気まずい。息苦しい。
「笑っちゃいなよ」
不意に高い音がそう告げた。相変わらず動けず、唾をのみ込むことで、そこにいる実感が持てた。
「早く。笑いなよ。醜い私の言うことなんて聞いてくれてありがとね。私は違うのよ、やっぱり。――不通になんて、なれやしないんだわ……」
その声は諦念、嘲笑を自分に向けていた。彼ではなく、彼女自身に。
「私は天使なんかになれやしない。ほら、早くどっか行ってよ。私とかかわるとろくなことないよ」
彼女は泣く。その言葉たちは表向きでは空に向けられたものかもしれないが、真意は彼女自身を傷つけるための言葉なのだ。
「――」
こういったことに耐性がないから、空は言葉をかけることをしない。できない。
きっと空が自分の背中に生える翼を見せても、彼女の自虐は終わらないだろう。そんなことをしても自分をいじめることをしない材料にはならない。
じゃあ、どうすればいい。どうすれば。
「出てってよ……」
――結局、その言葉にあらがうことのできないままに、空はその場を後にした。
あと5話。




