S:90 朝
――
朝日をカーテン越しに浴びて、空は目覚める。
――結局まともに寝られたのは、夜風に当たりに行く前と、目覚めた直前の一時間ぐらいか。
空は今一度、ルミラに言われたことを思い出す。
「君の未来は――ないよ」
「――。は」
「ないんだ。君の未来は。私には見えない。少年の未来はどれだけ見えても、その隣に君の姿はいない」
「待ってくれよ。それがどうして、俺が死んだっていうことになるんだよ」
「私は君が死んだ、とは言っていない。君の未来が私には見えない、ゆえに『ない』といっただけだ。これがどういうことかは、私にもわからない。でも、少年の友人である君が私を手伝ってくれれば、私も君の未来を改変する手伝いをしよう」
「未来の改変……って言ったって、未来は変えられないもんなんじゃ――」
「一人だけ――私の知っているもので一人だけ。未来を変えたものがいる」
「……誰だよ」
「とある少年だよ。私は、驚いたよ。ちょうど、君のような者だった。名前は――ソラス」
「――」
また、空の前にはだかる謎の少年ソラス。
「だからだ。君とそっくりだった彼が未来を変えた。だから君に未来を変えてもらいたい。これも英雄の勘だが――君は世界をひっくり返すぐらいの力を持っているんだ」
そう言われて、両の手を見る。
この手にそれほどの力が込められているのか。
「余談だが、君の作った手鏡」
「何でそれをっ――」
「それを今、魔法で顕在させることができるのは、世界で一人だ」
「は?」
あれほど簡単に作れたものが、俺一人にしか作れない……? 何かの冗談じゃないか。
「本当だ。私が作ろうとしても――――――――。これぐらいだ」
ルミラの手が光り、何かが形づくっていく。
それは歪な四角形を作り、その真ん中にぐにゃりと何かが湾曲したものを映す。
「私たちに作れても、これぐらいが限界なんだ。君のようなきれいな鏡、ましてや手鏡なんて誰にも作れない。――君は生きる革命なんだ」
「生きる革命、か」
こうも大それたことはモニタの中でしか聞いたことがないため、わが身に起こるとこうも非現実、当てはまらないと感じてしまうとは思わなかった。
子供のころ――今も十分に子供だが――こういった主人公にあこがれはしたが、いざ自分がその身に置かれると、主人公たちも大変なものだと逃げ出しそうになる感情に同感してしまう。
「俺、死ぬのかな……」
ルミラに言われた言葉が頭の中を飛ぶ。
君に未来はない。
その言葉が本当なら、いや、本音は本当だなんて信じたくないが、英雄が、英雄の勘がそういうなら、そういうことなんだろう。死ぬ感覚に慣れたといえば語弊があるが、きっとあの時のように、あっけなく死にそうな予感がする。
――その時、果たして空の死を悲しんでくれる人はいるのだろうか。死んだあと――今度こそ空に行き場はあるのだろうか。生きている今、考えるべきではない漠然としたことが頭の中で反芻する。
「ソラ、早いね」
空が起きたことに気づいたセイルが、朝のあいさつ代わりにそんな言葉をかけてくる。
――俺が死んだら、こいつは悲しんでくれるかな。
そう思うことで、この漠然とした思考を終了させた。
「セイル――おはよう」
新しい一日がまた、始まる。
感想等待ってます。




