S:87 密会
「さっきぶり、と言われたらあなたはあなたではなくなってしまうと思うんだが」
夜風を受けながら、空は一瞥もせずに答える。今日も夜空が綺麗だ。昨日は注目できなかったが、星が澄んで見える。
「さっきぶりはさっきぶりさ。それは君が何人と会ったとしても変わらない」
先ほどまでと同一人物とは思えないほど落ち着いた声音だ。
「確かにそうですね。――で、こんな真夜中に何の用ですか。僕は夜風に当たりに来ただけなんですが」
「つれない少年だ。いや、だからこそか。私の秘密に気付いたのは」
そうなのだ。彼の――ルミラの秘密に空は気づいた。いや、あの場合は気づかせてくれた、の方が正しい言い方だろう。
「――あの説はどうも、気づかせてくれてありがとうございました」
嫌味らしく言っても、ルミラは反応をしない。クスリとも笑わない。
「しかし――本当にルミラさんなんですか? 正直言って今のあなたはよほどのことがない限り英雄には見えない」
「そう言われると新鮮だな。みんなは私の顔を見ると英雄だなんだとあがめるのに」
「結局は見た目が全部ってわけだ。あなたがあなたの姿でなければ英雄足り得ないわけだ」
「耳が痛いよ」
英雄は空を見ず、ただ瞼の裏の暗闇を見ている。
「それで――本題に入ろうか」
「――何か用があってきたんだろ。さっさと用件を言ってくれ」
「よくわからないな、君は。――いや、よくわからないからこそか、私が託したのは」
「託した?」
空がルミラの方を向くと、ルミラはもたれかかっていた壁から離れ、神妙な顔つきで空のそばに立っていた。
「私は、少年に託したいんだ――私の全てを」
次回、託す思い。




