S:83 暖かい魔法
はっと、ルミラの方を見ると、ルミラも分かったように遠い目を空に向けていた。
手の上に乗せられた手が、離れていく。その行き場のなくした手は、ルミラの唇へと持っていかれ、やがて人差し指を天へ指した。
黙っていてくれ、この仕草を、このやるせない表情を、セイルはきっと知らないんだろう。セイルなら、空を受け止めきったセイルなら、悲しみこそするだろうが、認めてくれるだろうに。
「ユーシャ……いいな」
頭を撫でられた空を羨ましがるセイル。
そうじゃないんだ、そんな目で見てやるな。
「僕を撫でてはくれないんですか?」
やめてやれ、撫でられないんだ。過去を知っているお前だからこそ。
確かにルミラが空を選んだのかは疑問が浮かぶばかりだ。
「小さいころになでてやっただろ?」
そう言って、セイルの頭に手を置いて乱暴に掻いた。
――その手は、明るく、夕暮れの色を放っていた。
「これでいいだろ? それより、少年にも用があったんだが、もっと他に本命の話をしに来たんだ。だから――」
背中の翼が地面に大きく影を作り。
「じゃあな、少年たち!」
またも砂ぼこりをたててどこかへ飛び立っていった。
「ソラ、僕はうれしいよ……」
「何がだ?」
「あの人が行方不明になったって聞いたときは確かにこの世の終わりを感じた。出会う約束をしていたのに、会えないなんて……って思ってたけど! こうして、今日また見た、あの人の姿を。最初は信じられなかったけど、喋り方とか全部あの人だったんだ! なんか……泣けてくるよ……」
涙ぐむセイル。
それらの言葉は、ルミラの事情を知らないからだろう。あの人からは死の感じがするだなんて言っても、信じてもらえないだろう。空としても、信じてほしくない。
震えるセイルの背中を、夕陽が温めていた。
微ネタバレなんですけど、普段優しいけど、夜とか裏の顔がめちゃめちゃぶっきらぼうなおじさんってかっこいいよね。




