S:78 閑話 ―スロスの苦労―
七勢派には、いくつかの条約がある。
そのうちの一つ、七勢派の一人と、七勢派外の人物で会話する際は、本名を利用し、七勢派複数人と七勢派外の人物で会話する際は、賜った名を使うこと。
七勢派たるために、行動で示し、名を轟かせろ。
――しかし、なぜそうした条約が制定されているのかは誰も知らない。
「は。グリード?」
今スロスは、完璧にそう言った。空にもしっかりと聞こえた。
廊下で話していたことを思い出す、そのとき空はグリードと発していた。
すなわち目の前にいる、空を睨んでいる人物――空の部屋に突撃してきた人物が七勢派だというのか。
「ん、どうしたユーシャ。不思議そうな顔をして。昨日やりあったんだろう? 不思議なことなんて一つもないだろうに」
「不思議なことしかないわ! お前、七勢派だったとか俺知らないんだけど!」
「あ? ――あー、そういや、名乗ってなかったな。というか、昨日とだいぶ感じが違うじゃねえか」
どういうことだ、とでも言いたげたが、空さえままならない話題なのだから答えられない。
ただ一つ言えることがあるなら。
「俺は俺だ、変わっても変わってねえよ」
「――。前言撤回、やっぱ変わってないわ」
呆れた声とは裏腹に、その碧眼の奥は楽しそうにゆらゆら揺らいでいる。
「グリード。自己紹介は大切にしろと言われていただろ。しかもお前、不法侵入しておいて『条約』まで破るとは――」
「やめろやめろ。いやな想像させんな。俺も興奮してたんだ。許してくれるだろ」
「はあ」
スロスの苦労は計り知れない。
空は二人の会話の意味は分からなかったが、その心だけは読み取れた。
スロスのちょっとした苦労の話と、七勢派の『条約』の話です。
次回は久方のセイルです。
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