S:76 大罪の研究者 -廊下での一幕ー
「――それは、今しなきゃいけないことなんですか?」
「ああそうだ。中に入ると第三者もいる。私は君の言葉を第三者には伝えようとは思っていない。あくまで一対一での質疑応答のはずだ」
確かに一理ある。誰が何を言わなくとも、状況が二人きりにしている時点でどんなに詭弁でもそれは擁護されるものになる。それは、気持ちの面がなく、気持ちを持たぬ完全なる第三者である状況がそういっているのだから。
だから、この問いに対する空の答えは、完全なる、0か100かの答えだけ。答えるか、答えないかだけなのだ。
もちろん、何も思っていないと嘘をついてこの場をやり過ごしてもいいが、それでは後々の空のためにはならないのではないだろうか、という思念が頭をよぎる。確かに、ここは質疑応答に見えても、見方を変えれば無言の意見交換会でもあるのかもしれない。
答えない意味もないし。
「分かりましたよ。で、どう答えればいいんですか。考えたことを全部話せばいいんですか?」
「いや、時間もない。要点だけ話せ」
スロスはまるで空の考えが分かっているかのように話す。空からしたら気持ち悪さしかない。どうしてそんなに信頼できるのか、空の頭に。
「――。はい。それじゃあ要点だけ。俺の知ってる知識が全部あってるとは思ってません。そもそも世界のことも知らない奴なんで。それで、そいつから言わせてもらうと――七勢派。名前の通り七人いて、それぞれが、そうですね、伝わるかは分からないですけど、『七つの大罪』になぞらえているものなのでは?」
「――。ユーシャ。すまない。少し追加で質問してもいいか」
「?」
七つの大罪。その単語を空が口にしたとき、スロスは少し表情を硬くした。
「ユーシャ。君は、その七つの大罪について、どこまで知っている……?」
「? どこまでって、そりゃ、今から話すところまでですよ。どうしたんですか?」
「いや、すまない。弟が同じことを言っていてな。確か師匠に言われたことだと言っていたんだ。何、昔の話さ。話の腰を折ってすまなかった。いいぞ」
まったく不思議だ。ソラス。俄然気になる人物である。スロスの反応を見るに、七つの大罪、それはこの世界では存在しない文字列なのだろう。
「で、七つの大罪になぞらえられていて、まずせんせーの『怠惰』のレイジー。で、アモスの『色欲』のラスト。で、ここからは予想ですが、『強欲』のグリード、『憤怒』のラーフ、『暴食』のグラトニー、『傲慢』のプライド、『嫉妬』のエンヴィ。これでちょうど七つ。どこからの情報かは言えないですけど、だいたいはあってるんじゃないですか?」
すらすらとある知識をひけらかした空を、スロスが震えながら見ている。
「……ユーシャ、どうしてそこまでわかるんだ……」
分かっていたんだ。と言わないあたり、予測の範疇を少しでも超えたのだろう。喜ばしい限りだが、こちらが有益な情報を期待するのは無駄だろうか。
「だから、情報源は言えませんよ。ただ言えるとしたら、俺は誰からも教えられていないってことです」
空は確かに誰からも教わっていない。空はインターネットに教えてもらったのだ。それにこの体になってからは教わっていない。だから間違ったことは言っていないし、事情聴取がある手前、異世界から飛んできたなんて言って、話題転換しても大変だ。
「そうか……」
なぜ少し悔しげなのだ、先生よ。
――そういえば。
「どうしてそんなことを聞いたんですか?」
空の心からの素朴な質問にスロスはためらいもなく答えた。
「ふ、私が英雄兼教師であると同時に、一人の研究者でもあるからさ。さあ、立ち話も終わりだ。そろそろ入ろうか」
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