S:70 乙女のアイテム
気づけばもう70話
カーテンの向こうから現れたのは、言葉通り一枚の布だけをかぶせられたような姿をしていた。髪は地面に向かってストンと下がって、ポンチョのような布一枚だけ着ている。実にきわどい。肌も白く、金色の目は、ベッドに倒れ込む空を見下ろしている。
すべてが白い、これが本当の天使だろうか。
「……」
あまりの美しさに目が、言葉が奪われる。レインやスロスも美形だが、彼女は美形というレベルを通り越している。たとえるなら存在のない絵画だ。世界中の絵師を集めても、どんな想像をしても、この形相を作り出すことはできないだろうという奇跡の美しさ。
「そんなに見て、楽しい?」
声が発せられて、空は我に返る。
「あ――ああっ! ごめん」
「――」
彼女の目が少し鋭くなった気がしたので、弁明しておく。
「君が、きれいすぎたから……魅入っちゃって」
空がそう言うと、彼女はおおよそ驚いたようには見えないような表情で。
「びっくりした」
と言った。
「びっくりしたって……もしかしてあんた、鏡持ってないのか?」
「鏡? 私が? 持ってるわけないでしょ」
声は静かながらも、その不満を声に乗せて訴える。
そういえば鏡はこちらの世界では貴重だった気がする。セイルが確かそう言っていた。
そうか。
「それなら、ここで会ったのも何かの縁だ。お嬢さんに、一つ魔法をご覧に入れよう」
「へえ。楽しそう」
冷静に考えれば、この人は七勢派だったよな。それに、空自身キャラが混在しているように思う。他人といるときでも猫をかぶろうとしていたのに――多分クラスメイトの前で発言したあの時からどうでもよくなったのだろうけど。
あと、休養中であろう今、魔法を使えるのか。昨日、あの黒い木刀を作り出してしまったし。魔力というのも、やはり実感がわかないものだから。
「じゃあ見とけよ。――できるかわからないけど……」
小声で言ったが、彼女には聞こえていたようで、逃げるように空は右手を突き出し、広げ、目をつぶり想像した。
――鏡を生み出した時を思い出せ。あの時は等身大だった。それをもっと小さく、小さく。右手と同じ大きさに。それと、手鏡は確か閉じられるようになっていたので、蓋と連結部分も鮮明に思い浮かべる。
黒い風景に、もやもやと想像した鏡が形作っていく。
そうして鏡は鮮明になっていき、やがてあの時のように視界が白くなる。
目を開くとそこには、想像した通りの手鏡があった。
「ふう……」
疲労感こそないものの、初対面でいきなり成功させると豪語したようなもので、それに対する報酬は、成功と、緊張による精神的疲労だった。
「どうさ。これが世にも珍しい鏡も鏡。――手鏡さ! 乙女の必須アイテム!」
「あいてむって何?」
「あ」
そうだった。成功したテンションで英語を言ってしまった。こちらの人は少しは理解しているだろうが、こんなにすらすらと出てくる奴は知らないだろうし、その単語を知らない可能性が高い。
「ま、まあ、アイテムが何かは置いといて――ほれ。これ、やるよ」
勢い強めで喋ったのが一気に萎えていったので、ごまかすように手鏡を差し出す。やはり、乙女には必須なのだと思う。よくもまあ鏡もなしに寝ぐせとか直せるものだ。
彼女は手鏡を手に取り、嬉しそう――にはしたものの、その顔は少し悲しそうだった。
「どうした? 鏡、いらなかったか?」
「――何で?」
何で、そんなことを聞いたのだろうと、言いたいのだろう。
「君が、悲しそうな顔するからだろ」
「――」
彼女は――なぜか泣き始めた。あまりに突然で、空も――まして、当の本人である彼女さえも状況がつかめないでいた。
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