S:69 間奏
「は?」
「……」
彼女は一度、そう言うと顔の向きを変えた。
「ちょっと待てよ。あんた、七勢派の一人なのかよ」
「――」
「お、おい!」
彼女は答えない。顔をそむけたまま。
もしかしたら聞いてほしくないのかもしれない。――と思ったところで、空は自分の美人に対する免疫のなさというか、甘さを認識して苦笑する。
だが、一般論では人の事情にずかずかと入り込むことはあまり好ましくないだろう。彼女だって何かしらの負の感情がともっているから空に対して話さないのだと思う。
「分かったよ。これ以上聞かないよ。悪かった」
彼女にこれ以上聞かないという旨を伝えて、日差しがまぶしかったのでカーテンを閉めようとする。
しかし体はうまく動かない。――きっと昨日の出来事が原因なのだろう。
型無し、一の技。カラヌキ。
無意識で放たれたあの技。あれが空の『流派』なのだろうか。あの、瞬間移動じみたものが。だとしたらなんてチートなのだろう。使えるようになった方が得だ。鍛錬を怠らずにしようと決意した空。
それより――スロスの言っていた『試練』とは先日のことなのだろうか。だとしたら、これは乗り越えたことになるのだろうか。
正直言って――あの時、空は『空』ではなくなった気がしている。別の誰かと意識を共有しているような、自分であって自分でない、誰かと混ざった意識の中で流派が発動したように思えた。果たしてこれは『試練』を超えられたのだろうか。
「んーー」
難しい。判断基準がない。曖昧なことしか言われなかったので、わからない。
「難しい……」
目をつぶって考えても、わからない。――というか、いい加減まぶしいんだが!
頑張って上半身だけを起こして、手を目いっぱい伸ばしてカーテンの端をつかみ閉める。
カーテンは遮光するものだったらしく、部屋の中はすぐに暗くなる。病床を隔てるカーテン越しの彼女の影も見えなくなってしまった。
「ふー」
しかし、上半身を動かす、たったこれだけの動作でも疲れてしまうのか。技一つでこれほどまでに疲れるとは、先が思いやられる。疲れをベッドにぶつけるように、ベッドに背中から倒れ込む。
そういえば。
彼女の了承もなしにカーテンを閉めてしまったが、よかっただろうか。
「あのー」
「――」
――応答すらしてくれない。
「カーテン、勝手に閉めたけど、大丈夫?」
「――」
返事がない。もしかしたら頷いてくれたりしているのかもしれないが、全部が影になった今、その動作を見出すのは難しい。
どうにかヒントになるものを探そうとして、少し開いたカーテンの向こうにある白髪を見る。
――綺麗だ。光を失ってなお、その透明感は存在している。毛先まで流れるような、まるで川を見ているような気になる。
その髪はしばらくしてカーテンに吸い込まれて、代わりにペタペタと控えめな音となり、空の耳に伝わる。
そしてカーテンは開かれた。
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