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S:61 英雄の一撃

 光は男をめがけて――それを放った本人にすら見えない速さで、男の胴を駆け抜けた。

 ほぼ同時に、セイルは立つことすらできないほどの倦怠感を体に感じて、その場に倒れ込む。

 ――男の、地に倒れ込む音とセイルの倒れ込む音が重なる。


「ど、どうだ……!」


 意地になって強気になったセイルに、男は


「―――なるほど、これはつええ。なんせ英雄の一撃。俺に同行できる技じゃねえ」


 かすれた声で応答する。

 かはっという音の後に、男がセイルに質問した。


「――どうして、お前があの技を知ってんだ……? 教えてくれよ」


 倒れ込んだまま、天井を見たまま会話する二人。さっきまで闘気であふれていた室内では、想像できないほどの静かな空気が流れている。喋るのをやめてしまうと、流れてくる風の音が耳に入る。

 ――今更、隠す気力なんてないな。


「――不法侵入してきたあなたに話す義理なんてないんだろうけど――話すよ。あの技を知ってるってことはある程度知ってるんだろうし」


 あの技を知っているということは、セイルと同じようにその場所にいたということなのだろう。だからセイルは主観的な世界を伝えるだけだ。こちらに損はないし、男にも得はない。


「僕が子供の時、二軒隣の家が事件にあった。『希望事件』って言ったらわかるかな」


「……なるほど。そういうわけね」


 『希望事件』。今やだれもが知る事件だ。セイルの地元で起きた、国単位にその存在を知らしめるほどの影響を持った事件。その事件は凄惨極まるもので、のちにその場所は『土地なし』とされ、国が直々にその土地の権利を捨て、またその土地に移住することを禁じた。それほどまでに凄惨な事件だったのだ。

 そして――一人の英雄を生み出した場所としても有名で――それが セイルのあこがれる男だ。

 地元の天使類六十人が犠牲になった事件に終止符を打った男。きっと彼がいなければ、この事件は未解決だっただろうし――セイルがこんなところにいなかったかもしれない話だ。

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