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S:58 友のために怒り


「――。いいぜ、話そうか」


 男は友好的な言葉を発して、言葉と反した行動をとった。セイルに剣を渡してきた。自分の剣ではなく、セイルの剣を。


「どういうつもりだ」


「どうって……これでどっちも剣を持っている状態だ。つまり裏切りっこなしってこと。そういうつもり」


 そんなことも分からないのかというふうに男が答える。


「――まあいい。で、状況説明はいつしてくれるんだ?」


「今からしてやるから待てって」


 そう言って男は手に持っていた剣を鞘に納めてこちらに向き直り、ドスンと地面に座り込む。


「俺が客観的に事を伝えるのはどうかと思うが、俺はこの部屋を目指してたわけじゃなく、たまたまこの部屋に突っ込んだってだけなんだよ。で、突っ込んだら、そこのガキがいたわけだ。んで、俺も用があってそこのガキと戦ったわけだ。結果は――まあ、俺の負けだったけどな」


 まるで過去の笑い話のように男が語るので不審に思う。もちろんそれだけが理由ではない。


「じゃあ、何でユーシャは倒れてるんだ?」


「あ? ――あいつユーシャってのか……。 あいつが倒れてる理由は分からん。ったく、倒れたいのはこっちの方だっての……」


「どうでもいいけど、勝負的にはあなたが負けたってこと?」


「ああ、そうだな」


 セイルが言葉をかけただけで、男の態度が露骨に悪くなる。ということは、やはり実力的には男の方がソラよりも勝っていたということなのだろう。


「これでいいだろ? もうおさらばしてもいいか?」


「だめだろ」


「なんでだよ」


 男はのらりくらりした様子で立ち上がり、言う。その様子はさほど反省していないように見える。

 ――ゆえに、セイルは。


「いい加減にしろ――ッ!」


 気が付けばセイルは渡された自分の剣を力強く握っていた。頬には力は入り、痛いぐらいに男をにらむ。


「お、ようやくやる気になったな?」


「黙れ!」


 男が発する言葉数に比例して、再発した怒りがこみ上げる。自らが発する痛みで、さらに力が入る。

 だが、そんな中にも冷静な自分がいて、問いかけてくる。

 剣を抜いていいのか。お前に抜けるのか。

 語りかけてくるのは――過去の自分。

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