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S:57 セイルの帰宅

 訳が分からない。

 なぜ部屋に帰ってきただけなのに、こんな惨状が繰り広げられているのだ。

 そこにいたのは、胴から血を流す男と、虚構状態のソラ。


「ソラ!」


 呼びかけにソラが応じることもなく――反対にソラはその呼びかけによって倒れた――ように見えた。

 相変わらず男は立ったまま、血を流している。

 ソラが倒れたのを引き金に、男の顔がこちらに向いた。目はうつろで、その中の感情はいろいろなものが渦巻いているように見える。


「あなたは、誰ですか……?」


 目だけで男を威圧する。正直、セイルには今がどういう状態なのかは理解できないが、それゆえにセイルには、友人がこの状態なのは、相当こたえるものがある。


「あぁ……? ――ああ、そういうことか、まあ、なんだ。こんな状況でも礼儀を重んじるあたり、こいつと同じぐらい頭イカレてやがんな」


「――――」


 まくしたてるように喋る男を目が痛くなるほど凝視するセイル。息遣いが荒くなるのを感じる。


「何、してるんだ……」


「まあ、それが普通よな。その目が普通だ」


「質問に答えろ……何がどうしてこうなった!」


 セイルの怒号と、それを冷めた目で見る男。


「何がそんな不満なんだよ……!」


「――何も。なーんか、興ざめしただけだ。事情は説明してやるから」


「――ッ!」


「俺が勝手に決闘申し込んだだけだ。俺が倒れるならまだしも、こいつが倒れるのはよくわからん」


「――」


 それを聞いたセイルの目から、怒りが引き、代わりに諦念がよぎる。セイルも、こいつと話しても理解されないと、次元の違う人種だと心が察した。ソラと同じように。

 しかし、セイルにこの状況を打破するほどの案があるわけでもない。誰も何もしない、均衡状態が続くのみ。

 セイルは、自分の息遣いを確認する。――大丈夫、落ち着いた。

 それを確認し、今の状況を整理していく。

 半壊した部屋に、倒れるソラ。つっ立っている謎の男。きっとこの男がこの部屋を半壊させ、ソラを倒した張本人だと思うのが妥当だ。

 だが、考えろセイル。ソラから教わったことを念頭に動け、あくまで冷静に。

 男はソラが勝手に倒れたと言っていた。裏付けにはならないかもしれないが、男の体には剣で突き刺したような傷が存在する。対するソラは傷一つない。

 ――どうやら、この均衡状態でできることは、男が提示してきた状況説明を受ける以外になさそうだ。

 落ち着け、一つ息を吐いて、すっと息を吸い、相手を見据える。


「おっ、目つきが変わった。――やる気満々だな」


「やる気はありません。僕が今したいことは、あなたから事情を説明してほしいだけです」


「なんだよ冷めてんな」


「あなたが言ってくれるといったんでしょう?」


「――」


 淡々と、求めるものだけを求めようとしてるセイルの様子を、男が品定めするように見る。


「――。いいぜ、話そうか」

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