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S:56 空抜

 目の前に男の剣が迫ったとき、俺の心中に一滴の雫が落ち、波紋が立ち――止まった。


 目の前には無様に固まった男の剣が、首元まで迫っていた。


「――」


 思考も固まって、何も考えが出てこない。

 出てきたのはある言葉のみ。


「型無し、一の技――」


 ――カラヌキ。


 自分にすら聞こえるか聞こえないかの声量で発したそれを唱えた途端、空の体は男の剣の切っ先から男の背後へと移動していた。

 いつの間にか右手には木刀が握られていて、それを男のがら空きな背中に突き刺した。

 音を立てず、ジワリと分厚い膜を破っていく感覚が手に伝う。

 不思議と、気持ち悪さは感じなかった。

 刺したまま、時間が動くことはなかった。どんどんと刺さって、やがて膜を再び破る感覚が伝う。

 未だ動こうとしない時間の中で、空の意識は渾沌へと誘われた。

 あらゆる思考が頭の中で渦を巻き、やがて矛盾が生まれ、対話が生まれた。


 お前は誰だ?


 お前は俺だ。


 俺は俺しか知らないぞ。


 嘘つけ、俺はお前だ。俺のこともこの感情も全部お前は知っているし、持っている。


 いいや知らない、俺は空だ。


 いいや、お前はユーシャだ。


 違う、俺は空だ……よな――


「ソラ!」


 ――その声は、ひどく聞き覚えのある声だった。


「――――」


 気づけば時間は正常に動いていた。外から流れる風が頬に当たることでそれを感じる。


「そ、ら――」


 開口一番、空の口からこぼれた言葉はそれだった。それは誰にも届かず――もしかしたら、自分にさえ届いていないのかもしれない。そう考えるとゾッとするが。

 そうして空の視界は暗転する。

めちゃめちゃ間が空いてしまった……!

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