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S:53 独り言

「面白くなんてない」


「いや、おもしれえ。今のお前はおもしれえんだよ!」


 何を言っているのだろうか。


「この狂人が」


「狂人? 確かにそうかもしれねえな……だけどお前もお前だぜ。顔色一つ変えずに、その内心さえももやがかかって、おまけに魂の質が変わったときた! これはおもしれえんだよ!」


 一人でつらつらと、今の状況について述べている阿呆がいる。

 あれはだめだ。スロスのようなものはまだ手の施しようがあるが、こいつは論外も論外。会話することさえばかばかしい。


「だからよ! 戦おうぜ。早く、その剣で!」


 そう言って男はセイルの剣を一瞥もせず指さす。

 だから俺は、それを使わない。

 代わりに一言くれてやる。


「俺はそれで戦わない。俺は俺の剣がある。その剣は俺のものじゃない」


「はあ? そんなこと言ってねえで、お前の剣なんてないんだから、使っちまえよ。どうせ俺とお前しかいないんだからよ」


「残念ながら、同意しかねる。お前が俺の話を聞かなかったように、俺はお前の話を聞きはしない」


「ほお……癇に障るガキだ。――いいぜ、この世は実力だ、そんなに叩きのめされたいのなら、存分に叩きのめしてやるぜ!」


 相手の堪忍袋の緒が切れたのを確認すると、俺は目の前に手を掲げて、目をつむる。

 ――今なら何でもできそうだ。

 掲げた手から、剣を想像する。できるだけ、あちらの世界に準じた、日本人ということを、こちらの世界から歪に、異質にみられるような剣の形。


「――なんだそりゃ?」


 俺の顕在させた剣は、こちらの世界では流通していないことが、男の反応を見て分かる。一安心だ。これ以上この世界との共通点を作りたくない。この世界が変わるのであればいいが、自分から変わるのなんて御免だ。


「――」


 目の前には、俺がこの世界では未だ見たことのないものだ。しかし、こと日本人にとってはなじみのある刃物。


「これは『刀』だよ」


「はあ? なんだそれは、そんなもん一回も聞いたことないぞ」


 気の抜けているような声だが、俺には関係ない。あいつがどう思おうが、関係ないのだ。

 だからこれは、独り言なんだ。

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