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S:41 言葉の真実

「おーい」


「んぁ……」


 遠くの方から声がした気がした。

 意識が徐々に今の状況を思い出しつつある中、それとは逆に空の精神はとても穏やかだった。


「起きろー」


 かぶせられたものに刺激が与えられたのを感じた。それをトリガーに目を開いていく。

 目を開くと、知らない天井があった。一面白のタイルが張り巡らされた、清楚な天井。

 視界の左端、光の中に人影が見える。人影がどんな表情をしているかは分からない。


「誰……?」


 久しぶりに声を出したのだろうか、そんなに時間がたっていたのだろうか、声はうまく出なくてしゃがれていた。

 人影は何も言わず、手を伸ばしてきた。伸ばされた手が空中で迷い、空には触れなかったが、空は不快感はなかった、少し安心したほどだ。


「起きたか」


 アルトな声質の、耳によくなじむ柔らかく綺麗な声だ。

 先ほどまで戦っていた、スロスの声だ。


「?」


「どうやら状況が呑み込めていないらしいから、状況を説明してやろう」


 そう前置きして、スロスは話し始めた。


「まず、レインは私が吹き飛ばしてしまったが、軽傷だ。レインがきれいに受け身を取れたからだな」


「そうすか……」


 戦っていた時は何とも思わなかったが、よく考えたら空の指示によって吹き飛ばされてしまっていたのだから、レインが重症ではないことが分かって、胸をなでおろした。俺にだって罪悪感ぐらいあるんだからね!


「む。公衆の面前であんな心無いことを言っていたのに、心配してあげるんだな」


「先生は俺を何だと思っているんだ……」


「そして、今君がここにいる理由――聞きたいかな?」


 そういわれればと、空は思い出した。

 あの時、あの『走馬灯もどき』が流れた後、自分がどうなってしまったのか。あの時、何が起こったのか。


「もちろん」


「君ならそう言うと思ったよ」


「ならついてこい。体は動くだろう?」


 スロスはそう言って片目を閉じる。

 ついてこい、ということは、実戦形式で教えてくれるのだろう。楽しみだ。

 空はベッドの上で体が動くかを確認し、ベッドから降りる。

 スロスはこっちだとだけ言い、すぐに外へ向き直る。そのあとを空は無言でついていく。

 連れていかれた先は――今日の剣技実習で使った格技場だった。


「今日の職員室はここにしようか……ソラスのことも知りたいらしいし」


 言ったスロスの瞳の中が曇ったのに空はあえて気づかないふりをした。


「さあ、始めようか」


 そう言って空に木剣を投げてくる。

 木剣を丁寧に受け取って、地面に浅く突き刺す。


「ユーシャ、今日の朝のことは覚えているかい?」


 授業中と打って変わって少し柔らかい口調になるスロスを見て、朝を思い出す。そういえば、今日はやけに長く感じたなぁ。


「なんでしたっけ? 流派がどうとか……」


 で、合っていた気がする。


「そうだ。流派がどうとかだ」


 合っていた。


「しかし、世知辛いものだ。流派でさえ、今は同族に向けるためのものになり果てた」


「? それってどういう……」


「現役を引退したからこそわかることだってあるってことだ。――君は知らないだろうから、説明しないとな……」


 今、けなされた気がする。


「まあまあ、知ってるかもしれませんよ?」


 へらへらしながら言うが、空自身、分からない可能性の方が高いことを知っていた。


「じゃあ一つ質問。『従えるには力、通用せぬなら弱みを』、という言葉を知っているか?」


「知ってますともさ」


 空が知っていて当たり前という態度をとったので、スロスも露骨に驚く表情を出している。――そこまで驚かれると、さすがに傷つく。


「えと……レインが教えてくれたんですよ」


 慌てて自分の無知アピールをする。――何が悲しくてこんなことをしているのだろう。そしてしれっとレインの株を上げてしまった。スロスはなるほど納得している。納得されても困る。


「レインが教えてやったというなら納得だ。――して、その言葉なのだが――」


 そこまで言ってスロスが言葉を濁す。

 あー、とか、うー、とか言いながら、上半身の半分ほどの羽織をパタパタとさせている。

 先生ではあるが、皆の知らないその人を知れるというのは、なんだかこそばゆいうれしさだ。

 っと、そうじゃなくて。


「もったいぶってないで教えてくださいよ」


「――もしかしたらがあるから、怒らないって約束してくれるか……?」


 妙に気弱だな、この人。


「怒りません」


「――実はだな――その言葉、私が言ったんだ……」

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