S:34 初勝利
体の中から感じる時間。一瞬だけとてつもない重力がかかった感覚。とてつもない悪寒が体中を駆け巡る。
「――ぐぁ」
小さく喘いでようやく空は現実を見る。
それは空の木剣がレガフの木剣の目の前にあって――レガフの目が見開かれていた現実。そして、その一秒後に起こった現実。
レガフは空の勢いに乗った剣筋を受け、耐え切れず、壁へと一直線に投げ飛ばされる。
壁と肉の当たる音を初めて聞いた空は、レガフが打ち付けられた音に驚く。
そして打ち付けられた壁が粉々になっているのに再び、驚いた。
体が動かなくなった。自分がしでかしたことを間近で見るとその異様さが分かる。少し前まで人間だったはずだ。種族が違うだけで、こんなにも力の差が違うのかと痛感した。
周りの奴らが空と、壊された壁――レガフを交互に見る。
空はレガフの元へ行く。ケガしていなければいいのだが。
と、向かっている最中で、がれきの中から土埃を払うように一人の男が見えた。
見えた途端、皆が息を飲んだ。
その形相、姿は――悪魔そのものであった。
血にまみれた顔に、それでも剣を握って立つ、怒り狂った形相を晒すように。
レガフが一歩、こちらに向かってきて、突如止まった。
当然皆が身構えた。何をしてくるのだろうと。
だが結果は素っ頓狂だった。レガフは立ちながら気絶していた。
立ち尽くす両者。その二人を遮るものはスロスの声だった。
「そこまで」
声量こそ小さいが鶴の一声、皆の注目を一瞬で集めた。
今、ジャッジが下される。
「この勝負、ユーシャの勝利」
静かに告げられたからなのか、それともこの日の先のできごとのせいなのか、その場は閑静なものだった。
静かに告げられた勝利の合図。空の心には深く困惑だけが残った。




