S:33 時間
時が止まった。
なんの物の例えでもなく、時が止まった。
頭の中がぐるぐると回るようだった。記憶、思考、すべてのものが流れては回って、ごちゃ混ぜになっていく。
うっすらとした思考の中で察する。
そして、たどり着く。
これは――走馬灯、ではないか?
時間が止まり、過去が再生される。これは明らかに空の知っている走馬灯と同じものだ。
だからこそ絶望した。三度目の、死。それを突き付けられたということだ。
故に、手の力を緩めた。
が、時間は動いてくれない。厳密にいえば動いてはいるのだが、その再生速度のまま、加速してくれない。
――どうすればいいんだよ。どうすることもできないじゃないか。
あきらめたのに、それすらを否定する世界に、嫌気がさした。
何をしても動かない。もう死ぬことさえ許されないのか。
なら。ならと。
空は逆転の発想を始める。嫌味なことに、考える時間は有り余るほどある。それこそ、永遠といっても差し支えないほどに。
死を感知することによって時間は止まった。そしてその時間は、空の死が確定してもなお止まったまま。ならばほかに動かす方法があるはずだ。
死ぬことによって時間が止まるならば――『生きながらえること』によって、時間が動き出すのではないか。
ならやってやる。
決意し、動かない体を必死に動かそうとする。少しずつ動いているのならば、体を動かすことぐらいたやすいことだろう。
体を動かすのは脳。脳で意識的に体を動かすイメージをする。ゆっくりでもいいから、浮きつつある体を、その剣を握っている右手を、ゆっくりと体の前へと持ってくるイメージ。
すると、イメージした通り、体は動き、少しずつだが右手が体の前に来た。
まだ時間は動かない。
今度は剣をそのまま目の前のレガフに振り下ろすイメージ、あくまで剣に剣をあてるイメージ。体に当てて致命傷だったら、さすがに後味の悪い戦いになるからだ、空もさすがにそこまでイラついているわけではない。イラついてはいるが、理性は保っている。
ゆっくり、ゆっくりと近付いていく。目に見えるほどには違いが分かるぐらいのスピードで動いていく。これが現実世界の速さで再生されたなら、きっととても早く感じるのだろう。
剣が体の前に来て、空は直感した。
――そして時間が動き出す。




