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S:32 諦め

「――は?」


 ――まあ、そういう反応になるだろうな。


「もし、もしだ。その『こことは違う世界』があって、そこにお前が迷い込んだとする。そうなったら、お前はその考えで生きていけると思っているのか?」


「――おちょくってんの……?」


 今にも飛び込んで剣を叩き込んできそうだ。


「だから――」


「そんなにやられたいなら――その願い通りにしてやるよッ!」


 そう言いながら飛びかかってくるレガフを空はほとんど反射神経で防いでいた。

 しかし、空は見よう見まね、本物に劣り、やはり力では押される形となった。


「偉そうにほざいて――こんなもんなのかよッ……!」


 その言葉に少しの色づいた背景を見ながら、空は必死に防ぐ。

 レガフの力が強くなっていく。

 だんだんと背中が地面に近付いていく。

 ついに膝をついたとき、レガフが言う。


「このまま――殺してやるッ……!」


 果たしてこれが将来ヒーローを志す者の言葉遣いなのだろうか、余裕のない空でもそれを考えてしまった。考えさせられるものだ。これがレガフの本性なのか、それとも種族の本性を表しているのだろうか、と。

 押されて膝が砂利と擦れる。痛い。その痛みがさらに空の余裕をなくしていく。


「グ――オォォォォ……!」


 獣のような唸り声をあげ、さらに強くなる力。いよいよ腕が持たない。木剣で思い切りぶたれるのも時間の問題かもしれない。

 ぎりぎりと、木剣の切っ先が近づいてくる。心臓が跳ねるのがわかる。


「ッ……」


 ――不意に、舌打ちが聞こえた。それはきっと目の前のレガフだろう。

 眉間により切った皺、三白眼すら超えて四白眼にすらなっている。その者の口は歯を異常なまでに白く見せ、その輪郭は歪み、ぎりぎりと音を鳴らす。

 その顔は、とてもじゃないけど、ヒーローを志す者の顔ではなかった。


「らちが明かねえ……」


 そうはっきり聞き取ってから、二人が動いたのはすぐのことだった。

 レガフの木剣が――後ろへひかれた。

 押し返そうとしていた空の木剣はあらぬ方向へと体を連れていき、いつの間にかレガフの木剣の切っ先がこちらの頭を殴打しようとしている。

 ――悟った。きっと当たったら痛いのだろうと思った。当てるなら早くしてくれと願った。この勝負が終わった頃には笑われているのだろう。空としては入りたくて入ったわけではない学園だ。気にしないでもいい。

 だが――思ったことは起きなかった。

 ――時が、止まった。

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