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S:31 頑張りって、なんだ?

 グランプリ開催の宣言がなされて、なぜみんながそんなにハイテンションになっているのかがわからなかったが、きっと気にしてもしょうがないだろう。体育祭とか、そういったノリだと思う。

 空ならこんな行事ででしゃばる真似はしない。失敗したとき、笑いものにされるからだ。

 ――だが、いまは『ユーシャ』だ。ならばすべきことは一つ。

 『ユーシャ』は今までみんなから異質な目で見られていたことは確かだろう。その背中といい、その考え方といい、この世界においてはおかしい存在として見られているはず。

 だが、ここで一位をとってみたらどうだろう。先ほど冒涜したみんなに対する意見への裏付けができるのではないか。あいつになら言われてもしょうがない、という空気にできるのではないだろうか。

 そういった黒い策略をひそひそと立てる空をよそに周りの温度は上がっていく。


「グランプリは勝ち残り戦だ。見事勝ち残ったものには素晴らしい特典を用意しているので頑張るように」


 ルールを一通り言ったスロスは、そのコロシアムのちょうど真ん中に移動して、最初に戦う人を指定する。

 呼ばれた名前はもちろん知らない人だ。みんなが盛り上がっているが、空のテンションはそこまで上がっていないかった。

 始めの合図が出されて両者が剣を振る。それはまさしく子供の遊びのようだった。が、空はそれを批判することはできない。空もまた、剣を振るったことがないからだ。

 いつしかは空の番がくる。それに備えて精神を整える。木刀でも当たったら相当痛いだろうし、それに対する覚悟を決める。

 順調に試合は終わっていき、いよいよ空の名前が呼ばれた。


「ユーシャ!」


 それと一緒に呼ばれた名前は。


「レガフ!」


 そう呼ばれた、黒い髪の男の子だった。


「……」


 空は嫌悪感をあらわにしながら相手のことをにらんだが、レガフはそんなことを気にも留める様子もなく、さわやかな笑顔で挨拶をした。


「よろしく」


 先ほどまで同じクラスで空を罵倒していたやつだとは思えなかった。


「あ、ああ」


 コミュ障なりに返事を返した。精一杯だったが、レガフは満足した様子だった。

 そして近くで挨拶を交わして、空は気づいた。こいつはさっき俺が見ていたやつだ。

 ――俺はこいつをまねたんだ。

 だとしたら、どんな数奇なめぐりあわせだ。運命みたいだが、男と運命だなんてぞっとする話だ。せめて女の子がよかった。できればかわいい子で。


「両者、構え!」


 言われて、不格好ながら剣を構える。

 レガフも同じく構えて、その異変に気付いたらしい。

 それもそうだろう、だって構えが一緒なのだから。


「僕と一緒の構えかい……?」


「たまたまだよ、たまたま」


「へぇ」


 それだけ言葉を交わして、静寂が流れる。

 剣を構えてから、かなりの時間、そう感じているだけの一瞬かもしれないが、ようやく動いたのは。


 相手の口だった。


「よくもまあ、それで正義を語れたもんだ……!」


 いうや否や空から見ると俊足にすら見えるほどの速さで剣を持ち向かってくる。

 振りかざされる剣。かろうじて受け止める。

 静かに激しい鍔迫り合いが始まる。それと同時に、会話も始まる。


「どうして君なんかが評価されるんだ……」


 始めの会話は、そんな一言だった。


「あ? 何言ってんだ」


「そのままの意味だよ!」


「何、言ってんだッ!」


 つばぜり合いが終わり、剣を持ったまま会話を始める。きっとその心は、雑念を持ったまま戦いたくないというものだろう。


「――剣を振らないってことは、話がしたいんだろ?」


「察しがいいじゃないか」


 どうやら当たっていたらしい。


「で、昨日今日で話すことなんてないと思うんだけど……」


「それだよ」


「……」


「それだっつってんだ。――お前は言ったな、優越感で剣を握るって」


「ああ、言ったけど」


「僕たちが死に物狂いでこの国に仕えようと思っているのに、それを、編入で入った君が僕たちの、何がわかるっていうんだ!」


「――ああ、そういうこと」


 空はなんとなくだが、話の筋を見つけた。

 つまりレガフはこう言いたいのだ。

 ”たかが”編入で入ってきた俺”ごとき”が、”頑張って”入学した僕たちを見下して意見するな、と、大方そんなことを言いたいのだろう。

 そもそも根本から間違っているんだけど、きっとレガフは気づいてないんだろうな。


「あのさ、なんか勘違いしてるっぽいが、俺は何も全員がそうだって言ってるわけじゃないぞ」


「――」


 相手は依然、しかめっ面だ。


「お前が何を思っているかわからないが、確かに俺はいろんなことを言ったし、したと思う。ここに来るまでも、努力をしてきたわけでもない、お前の言い分はすごくわかる」


「じゃあ……!」


「だけどな。俺だって頑張ってんだよ」


 それは、勉強面、精神面、生活面、その他もろもろの面でだ。こちらに来て、一度死んで、生きるすべを探した。世界を知ろうとした。言葉を学ぼうとした。あっちの世界でやってこなかったことを、頑張り始めたのだ。やりたくもないことだってある。だけど文字通り『生まれ変わった』からこそ、できることがある。けどその分、知らないこともある。それを知るために、今後を楽しむために、したことのないことに挑戦しているのだ。――かつての自分を隠して生きてきた、真逆の生き方をしているのだって、一つの挑戦といえる。それはきっとレガフのような、純粋な気持ちに近いのだろう。

 だからこそ、お前は頑張っていない、なんて言われたら、空だって少しは頭にくる。一つの意見、一つの見方を知っただけで、それをつぶそうとしているんだ。それあ空の立場からしてみれば、『生きるための知識を放棄』したことにほかならないことなのだ。

 つまり、自分を過信する限り、自分の知りえることだけを頼りに生きていく。空はそれが通用しないのを知った。

 異世界、異文化を目の前に、そのやり方で通したら――もちろん生きていけるわけがない。

 だからこそ、言ってやらなければならない。


「一つ質問だ。お前は、『こことは違う世界』があるって言ったら、信じるか?」

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