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S:29 過去

「集合!」


 スロスのその人声がみんなを整列へと導く。

 元の位置へ着くやつらを横目で見ていると、その手にはやはり、いろいろな、多種多様な武器が手に取られていた。正直興味がわかないわけではないが、今はこれだけでも空の心は満たされているのでこれで良しとする。


「これでようやく実習が始まるわけだが――誰も彼も武器の使い方を知っているわけではないだろう。三時間あるので、そのうちの一時間、この場での自由時間とする。武器を振るも投げるもいいが、ほかのものに当てないように」


 スロスが一通り目的と注意を話し、コロシアムの端へ移動した。

 さて、一人だ。することがパッと出てこない。


「――」


 よし。


「せんせー」


 スロスの元へ行き、どうすればこの暇をつぶせるか聞こう。――来るなとは言われていないわけだし。


「? ――何だ、ユーシャ君か」


 声こそ普通だが、なぜだろう、少し残念がっているようにも見える。


「どうしたんだ?」


「いやー、何したらいいか思いつかなくって……へへえ」


 なんだかこっぱずかしくって語尾がおかしくなってしまったが、笑われなかったので良しとする。


「そうだな……朝言ったようにしてみたらどうだろう?」


「朝? ――ああ、流派とかなんとか……」


「それだよ。――君が流派を作ればいい」


「ん?」


 耳がおかしくなってしまったのかと空は聞き直す。


「君が流派を作ればいい」


 ――聞き違いではなかったようだ。


「いやなに、あんな突飛な発想が出てくるんだ。流派の一つは二つ、君なら簡単に作れるものだと思ったのだが」


「思ったのだが、って言われても……」


 そう簡単にできてしまうことではないだろうし、簡単にできてしまったらそれこそ問題になるのではないか。


「それとも、まさか私と剣を交えたいというまいな?」


 何も持っていない手を差し出してこちらへ向ける。

 冗談のつもりなのだろうが、剣を持っていたと考えるとぞっとする。


「交えたい、って言った方がいいんでしょうが――あいにく、ボロボロにやられる未来しか見えないのでやめときます……」


 英雄対素人とか。言葉の並びだけで見たら、いじめだと思ってしまう。


「そうかそうか。――じゃあ、この一時間、適当に剣を振っておくんだな」


 教師とは思えないぐらいの適当な発言と、クールとは思えないような笑い方をしてスロスは手をようやく下げた。


「しかし君には悪いことをしたかもしれんな」


 急にまじめな顔になったスロスが、謝罪をしてきた。何のことかは大方把握している。――授業開始後のあのことだろう。


「いいっすよ――あんまし気にしてないんで」


 これは本心だ。空の本心。

 ――元の世界でも一人だった。もう経験していることだ。ならば何を憶することがある。


「君は確か編入だったな」


「そうですけど」


「詳しい事情は知らないが――きっと国民のために剣を振るいに来たのではないのだろう?」


「――」


 空は、無言をとった。どう答えればいいかわからないからだ。


「たし、かに、俺は剣を振るために来たわけではありません。それどころか、理由もなくこの学園に入ってしまった。――そりゃみんなも恨みますよね。剣を振りに来てない奴に自分の気持ちをとやかく言われて」


 自虐じゃない。客観的に今の状況を見ただけだ。


「そうか? ――でも君はその優しさを持っている。だれしもを想い、考えられる。こんなことを言ってしまってはあれだが、状況を判断するのに他者の気持ちは一切介入しなくてもいいんだ。――でも君は、他者の気持ちを考慮して発言をした。私だからこそわかるが、他のものにはこのすばらしさが分からないんだ」


 いかにも残念そうにスロスはため息をつく。


「じゃあ先生は――その考えにどうやって至ったんですか?」


「――。答えた方が、いいかい?」


 ――これは、ダメな回答をしてしまったのかもしれない。


「い、や、無理には――」


「――やっぱり君は、気持ちを察せる素晴らしい生徒だ」


 まるで試したような物言いで、スロスは一つ咳ばらいをし、話し始める。


「私はある人にこの考えを教わった。――我が弟、ソラスだ」


「ソラス……」


 レインから聞いたその名。聞いた限り、スロスにとってはとてもつらい出来事だっただろうに、それを自分から話すというのは、やはり空の外見が似ているからだろうか。


「ソラスもその考えを誰かに教わったなどと嬉しそうに私に話してくれたものだ。私も私で聞くものすべてが新しくて、新鮮だった。――それが不思議なんだ。君のその考え方とほとんど一緒なんだから」


 そう話すスロスの表情が一層穏やかになって、ソラスが愛されていたのだと確信できた。


「で、そのソラスさんはどうなったんですか?」


「そうだな――決して軽んじてはいけないことだと私は思っている。知りたいのなら、放課後、職員室に来るように」


「うっ」


 どうしてこうして職員室なんかに呼ばれてしまったのだ。それだけを見たら、悪いことを下みたいに見えるだろうが冤罪だ。


「それよりも、剣を振らなくてもいいのか? ――先の授業をばらすのは癪だが、勝ち抜き戦をしようと思っているから、それなりに慣れておいた方がいいと思うが」


「失礼しました練習してきます」


 あのさ。

 そういうことは早め早めに言ってくれないと。

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