S:26 ソラ
お久しぶりです。
さて、次の授業は空達が先行して習った――かじり程度だが――実習講義だ。実習講義は、空達が朝いた、あのコロシアムのような場所、正式名称『格技場』に集合だそうだ。
その昼休み、空はあの場所にレインに呼ばれた。
「どうしてまたこんなところに……」
「だってあんた、この学園のどこどこに来いって言っても分かんないじゃない」
その通りだが。
「なんか話があるんじゃないのか、ここに呼んだってことは」
「いや、何がってほどじゃないけど――言ってないわよね?」
「あ? ――ああ、言うわけねえだろ。言える相手がそもそもいねえし」
「前の言葉だけ聞いたらいい奴に聞こえるんだけどね……」
「おい、哀れに思うな」
このやり取りだけ聞いた人は空とレインが旧知の仲だとでも思ってしまうのだろう。実際、名前には親近感しかないし、あながち旧知の仲にもなり得る歳だ。まあ、彼女からしたらどうでもいいか。
「で、本当の用事ってそれだけか?」
「いいえ、なんだか皆が噂してるのが気になって。あんたは知ってる? 今日の実習――あの英雄が私たちの担当だって」
顔をずいと近づけてそう言うレインの『英雄』というのは、朝のあの人――スロスのことだろうか。それとも、また違う人なのだろうか。
「英雄、ねぇ」
「そもそもそうじゃない可能性の方が低いのよ、普通に考えて。だって国最高峰の学園よ? だったら期待値に沿った教員を用意するに決まってんじゃない」
確かに、そう考えると英雄がいるのもうなずける。
「だからって俺をここに呼ぶ理由にはならないだろうに」
「それは……――私、見ちゃったもの……」
「は?」
一体、何を。
「朝、あんたが男といるところ見たもん!」
「待て待て!」
声がでかい。そんでもって、空が男といた、その言い方はいかにも語弊を生みそうだ。それこそ、どこぞの界隈が湧くような。お前は俺の彼女かとでも言いたくなるような言い方だ。
「うー……」
本来の気持ちは、羨ましい、のだろう。だけど、できることならば赤面したまま寄ってこないでくれ。いや、嫌いとか、そういうわけではない。ただ、この世界、この種族の顔面偏差値がずば抜けて高いのだ。だから、コミュ障にはつらいのだ。勘違いしそうだから。
「羨ましい、ってか?」
「そうよそうよ! 何よ!? 朝に格技場が使えるなんて聞いてないわよ!」
「だから声……」
情緒不安定かこいつは。
「で、お前はあの人知ってんのか?」
「逆に知らない人見てみたいわよ」
――なんだか、ゴメンナサイが湧きあげてくるなぁ……。
「ま、まあ――でもさ、朝のを見てたんだったら、どうして俺らのやってるところに入ってこなかったんだ?」
「それは……! ――誰が、誰が英雄にずかずかと近付いていけるもんですか! だって英雄よ!? この種族を救ったといっても過言じゃないのよ!?」
「……何度も思ったが、お前ら。英雄をなんか、神かなんかと勘違いしてないか?」
「あるところでは神と扱われてるのよ。予想はつくかもしれないけれど、戦の神、としてね」
――なんだか、本当にすごいな、こっちの世界は。
きっかけがあれば、冗談抜きに神様になれるのか。あっちのような言葉の軽さは感じられないのが、何とも素晴らしいのか何なのか。
「しかし、あんたほんとにおかしなやつね。考え方と言い行動と言い……ほんとに天使類か疑わしくなるわ」
「まあ、それは見てもらった通り」
天使には似つかわしくないほどの黒い翼を持っているが。現段階では天使類で間違いはない。頭の中は、まあ、人だ。
「黒い翼……本物を見たのは初めてだけど、よっくもまあ、そんなに見せびらかせるもんね」
「俺だって見せびらかそうとして見せびらかしてるわけじゃねえよ。それに、別に見られて減るもんでもないだろ?」
「そりゃ減らないけど……――! もしかしてあんた、あの伝説知らないの……?」
今度のその声はもう、驚きを通り越して、もはや呆れの次元まで到達していた。
空としても、自分からすすんで無知を選んだわけでない。むしろ、知恵を得たいのだ、何もかもが未知なのだから。
「しかもな、黒いだけじゃないんだ。この翼、片方しかないんだ」
「えっ」
――なんか、シンプルな反応が一番傷つくな……。
「マジであの伝説通りじゃん」
「あ?」
何よ? と言っているレインだが、空からすると初耳もいいところだ。
伝説と一致。なんとも中二心をくすぐられる。
「その伝説ってやつ――ちょっと教えてくれよ」
「――知らなかったのね」
どうやら決めつけられていたようだ。心外だ。その通りだが。
「まあいいわ。授業を見てる感じでも――不思議だけど、言語そもそもを知らなそうだもの」
「言葉もありません」
「面倒くさいから簡単に言うわよ」
そうしてレインは一言で済ます。――その一言が空に大打撃を与えたとも知らず。
「『魔物戦争』トフォン勢力、スロス様の宿敵であり――スロス様の実の弟。魔法と剣、どちらにおいても最強。突飛な思考で、本来分かり合うはずのできない魔物と手をとった男――」
それが――ソラス・トフォン――。




