S:19 並ぶ者
――この話は全て実話だ。細かいことは控えるが、全て空が小さい頃体験した、実話。
「――ある日の、ある少年の話だ。少年はお前らと同じ、『力』によってみんなを従えていた。いや、従えようとしていた」
小さい頃の、過ちを犯しても、許される時代の話。
「そしてもう一人、少年とは真逆の、『力』では統制せず、できるだけみんなと横並びで歩こうとした少年」
それが空自身だった。
「例えるなら、縦と横。直列と並列」
「縦と、横」
「そうだ。――その少年たちは、もちろんだが、別々のグループに所属していた」
「グループ……?」
――英語が通じないのか。
空はそのことに気付き、今後気を付けて話すと共に、お詫びも込めてグループの簡単な説明をした。
「その、なんだ。グループってのは――団体だとでも思っていてくれればいい」
「なるほど……つまりは二つの団体があって、その二つは方針が真逆だったと……」
「そういうことだ」
「まだ細かいことは分からないから、もう少し続けてちょうだい」
「言われなくとも」
そして空は続ける。
「少年たちはお互いをいがみ合って、いずれ争い合った。直列小年は汚いやり口で並列少年を丸め込んだ。全てを力に任せて」
「それで、並列少年はどうなったの?」
「――すべてを奪われたのさ。暴力によって」
仲間も、その地位も。
「結局、その争いは直列少年の勝利に終わった。並列少年は、直列少年の団体からひどい辱めを受けた。悪事をこなせと言われたこともあった。――だけどそれに、否定することなんてできなかった」
力のあるものに力のない少年が勝てるはずもない。
「でも少年はその状況に『妥協』しようとした。自分だけが、ってな。――でも違った……! 世の中はそんなに甘くなかった! そいつと共に走ってきた奴ら全員、そいつと同じぐらいの、いやもっとひどい! 辱めを受けていた。そいつは感じたよ――力に仲間なんていない。いるのは一人の自己中心者だけだって」
「ッ――!」
彼女が感じているのと同じタイミングで、胸が痛むのを感じる。
胸の痛みをなかったことにするように手を固く握り、空は尚も話す。