S:13 剣
思わず自分の顔に触れる。触れる感覚の違いなどもう分からないが、それでも触れる。それは、それが、自分の顔ではないから。
もしかするとだが、イルマといた時も、空は空の顔ではなかったのかもしれない。
いや、今それを考えるのはやめよう。もうあの時の空はいないのだから。
確実に、体を二つに切り裂かれた。確か、片手剣に。
「ソラ?」
「ん! ――ああ」
「僕もやってみるから見ててよ!?」
「お、おう――想像する、作りたいものを」
「分かったよ」
セイルは空の見よう見まねで想像する。目を開き、手を前に出し。
そして、手が光る。何を想像しているかは分からないが。
「これで――どうだッ!」
光が最大限になり、その後、出てきたものは。
――片手剣だった。
中二病を再発させられる片手剣。雷のようなデザインだから、雷属性だろうか、ゲームの感覚で言ったら。そしてそれがセイルの、いうなれば『適性魔法属性』で、適性武器なのだろう。
あいにく、この剣の価値は大雑把にしか分からないが、素人目の空でもよくわかるほどに、その刀身には光沢があり、ただの金属ではないことが分かる。
「ソラ――ソラ! できた、できたよ!」
「良かったな」
薄情と言われてもまだそれしか出てこない。その剣の価値が分からなかったら、その剣はパチモンと一緒だ。
「何か薄情だなぁ……もう少し感動してくれてもいいのに」
「まあ、早く構えてみろって」
「分かったよ……――っ!」
セイルが構えるのを気長に待っていると、急に音がしなくなるので、セイルを見る。セイルは、その、地面に転がっている剣の柄を握ったまま、パントマイムのように、持ち上げようとしている。
「なーにしてんだ。さっさと上げろよ」
「そんなことっ、言われたってっ!」
持ち上げる勢いを乗せたまま手が離れてしまい、そのまましりもちをついたセイルに変わり、今度は空が持ち上げようとする。
「持ち上がらないわけがないんだよ……」
柄を握って、空は察す。
それは見た目の割に、途轍もないほどの重量を持っていて。
「――――」
空は、それこそ一つの建物を動かそうとしているのではないかと錯覚した。このからだならあるいは、と思っていたのだが、無理だった。からだがわるいのではない、剣が重すぎるのだ。
しかし、何故、セイルはこの剣を顕在させたのだろうか。
「なあセイル」
「ん?」
「この剣は、お前にとって――何なんだ?」
セイルは少し微笑んでから。
「これはね――小さい時に見た戦士の剣だよ」
――それが僕の憧れ、僕の目標でもある。もちろん、この道を決めたのもそれが影響してる。
セイルはそう言った。空は単純にその人が気になってしまった。セイルの憧れる戦士、その歴史が。
しかし、その前に。
「この剣、何とかしようぜ……」
部屋のど真ん中。置かれていた建物級の剣をどうするかを、今夜の題材にした。