S:11 自分ルール
書き溜めです。
なるほど魔法というにはいささか簡単すぎる代物ではなかろうか。想像しただけでそのものが作れてしまう。それを知らないのであろうこちらの世界の住人と空とでは確かに空に分がある。それとも、これがハンデだと考えるのが妥当なのだろうか。
「そういやさ」
「ん?」
「魔法と魔力って何が違うんだ?」
「――」
あれ? 何かいけないこと聞いちゃったかな……。
「――。分かった。そう言えば何も知らないみたいだしね。説明するよ」
「何か、ごめんな」
「謝るようなことじゃないよ。僕も君も悪くないことだもの」
そしてセイルは語り出す。
「まず、この二つには歴史が深く絡んでいる。それでも聞く?」
勉強に対する姿勢を聞いているのだろう。あちらならいざ知らず、全てが道、好奇の対象であるこちらの歴史を断る必要は感じない。
「ああ」
「――まず一つ。魔法と魔力、この二つは大きな違いがある。それは、発言者の違い。この世界で初めて魔法を使った人物、それが僕達天使類の人々の中にいた。その名を――『セイル・ドフアズ』、魔法の先駆者にして、魔法に潰された、別称――『亜魔』。天使類に成らず、成れず、魔法に染まりて、魔法に溺れる哀れの具現。姓名に含まれる子は、哀れなる子――」
「――」
なるほどようやく分かった。セイルが自分の名前に何の反応も示さない空へのあの反応の意味が。
当たり前だが、空はそんなことを知らない。今初めて知ったのだ。
「ふーん、で?」
「――で、って……これでもソラは僕を蔑まないの?」
「何? 蔑んでほしいのか?」
「いや、そういうわけじゃ……」
というか。
「お前がその本人じゃないんだから気にする必要なんてあるのか?」
「だって、つけられた意味がそういうことだもの……」
「いいか? よく聞けよ? というか復唱しろ」
「――え?」
「『今日から俺がルールだ』」
「今日から俺が、るーる……?」
「あ、そう言うことね。ルールってのはな――簡単に言ったら、法律だ」
こちらの世界にあるのかは分からないが。
「僕が、るーる……」
「そうだ。世論なんて関係ない。お前はお前だからこそお前なんだ。そこに名前なんて関係ない。考えてもみろ? 生まれが違えば、お前の名前は『セイル』じゃなかったかもしれない。そんぐらい薄っぺらいもんなんだよ、名前なんて」
空自身、それをこちらに来てから嫌ほど感じている。
――何だ勇者って。
「つまり、だ。極論、お前はその名前でされてきたこともあるだろう。けど、その名前じゃなきゃ出会えなかった人たちもいるわけだ。――思い当たりがあったりするんじゃないのか?」
――恋愛とか、してそうだからなぁ……。
だって、いけめんなんだもの。
「――ありがとう。なんだか楽になったよ」
やっぱり笑顔がよく似合う。
「さあ、話の腰折って悪かったな。さ、続き続き」
「うん。――しかし、なんだかソラの考え方って、人類にとても似てるなぁって思ったんだけど、人類に友達とかいるの?」
「エ――あ――。いない、かな……」
「そっかぁ」
何この子、鋭い。
空が転生者だというのも、そのうちばれてしまうかもしれない。
「そ、そんなことよりっ! 続きが気になるなぁ!」