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後編


そこは真の暗闇だった。目は利かない。五感も消えつつある。

だが上下と触感、第六感はわかる。

イルマはこの闇の中で人の気配を感じた。


「そこか!根津さんまだ生きてる?」


じわり、と闇の浸食が強くなる。

護符が力を発し、イルマの周囲が火花を散らし、時に炎を発する。


「効くじゃんか護符。見えやすいのはありがたいね」


炎はすぐに消えてしまうが、それだけで救助対象を見つけるのには十分だった。

すばやくつかみ、黒球から出ようとする。

闇の中で方向が解るのはイルマが正確に自分の動きを覚えているからだ。


「あなたは、にがさない」


男とも女ともつかない声が響いた。この黒球の主「トガ」のものだ。


「かれのとがは、わたしのもの」


静かに闇の底から聞こえる声は常人であれば震え上がる類いのものだ。


「あなたは、わたしにはいってきた。あなたの咎もわたしのもの。

トラソルテオトル……かみには、わたさない」


がしりとイルマの足首を誰かがつかむ。


「知るかボケッ!薄汚い人間もどきが!ちゃんちゃらおかしいんだよ!

ああわかるよ?ファッション変態がでてきたらムカつくよな本職としてはよ!

罪だ?咎だ?なにそれ。生きてる限り誰でも地獄行きな程度には罪深いんだよ!

それをとがめる権利がおまえさんにはあるって?ふざけてろ」


だがイルマは見もせずに足首をつかんだものをハンマーで粉砕する。


「ああ、お前さんにも言い分はあるだろうさ。だけどそれこそ知るか!

おめーのルールに従う理由なんざないからな!おら悔しかったら何かしてみろ!

安い挑発に乗る知性があるところ見せてくれよ!」


しばらくの沈黙の後、刃物のような何かがイルマの体に向かって切りつけ、刺してくる。


「ふれれば、かみがじゃまをする。つかめば、たたく。なら切る」


五回、六回、深く切りつけられイルマから血がふき出る。だがそれでもつかんだ根津は守り切った。


「あなたのとがは、切り裂いた血であがなう。あなたの咎は、とてもおおい」

「知ってるよ!それより俺の血を飲んだな?」


イルマは呪文を唱える。


「生き霊、おこなうぞ。血花にのせて飛ばせば、向こうは知りたる。

燃え行け、絶え行け、我が怒りを知れば、向こうは即座微塵にまらべや!

その身の胸元、四方にさんざら微塵と乱れやそわか!」


それは自信の怒りを呪いとして相手に送る術。人の恨み辛みが生み出した闇の呪術だ。


「これが、いかり……わたしに届きうるちから」

「ああそうだ!理不尽にブチ切れる怒りこそ人間の力だ!

ムカつくことされたら怒るのが人間らしさだ!

てめーが舐め腐った人間の心にも深淵はあるんだぜ!」


たしかにその怒りは深淵に届いた。攻撃の手がわずかに緩む。

そしてその間にもイルマは確かに出口へ向けて歩いていた。


「なるほど……きょうみ、ぶかい。わたしは、みている……」

「じゃあせいぜい覗き返されてびびらないこったな。じゃあなクソ深淵」


そして、光がイルマを出迎えた。

彼は根津を助け、黒球の外に出られたのだ。



「おかえりなさい。やったようね」

「ああ、助け出せたよ」


イルマとアマナは二人して荒い息をつきながら目鼻から血を流していた。

たった一人助け出すのにベテランの退魔師がこのようになる。それが深淵というものだった。


「それで、悪いのだけれど。私の方も同じ用件なのよ。知り合いがアレに巻き込まれたわ」

「何人?」

「五人よ」

「五人!マジかよ五回もこれやんの?正気で言ってる?」

「マジよ。それと、狩人に正気なんてないわ。もっともその前に……」

「ああ、やることがあるな。見てないで出てこいよ黒騎士!殺すぞ!」


物陰から黒騎士が数十人出てきた。


「深淵からの生存者か……悪いがこちらも仕事だ。持って帰れば研究班から報酬が出る」

「どーせお前らのことだから解剖してぶっ壊すまで1セットなんだろ!知ってるよ!

だから俺の憂さ晴らしに頼むから死んでくれ黒騎士」


イルマはアマナに護符を返すと呪文をつぶやき、ハンマーに火を灯した。

アマナも手に野球ボールほどの火を灯す。


「アマナ、野球やろっか」

「そうね、ピッチング練習はお好き?」


ガキン、と音がしてアマナが投げた火球をイルマがハンマーで撃ち放つ。

まず一人それで頭が焼きつぶれた。


「大得意だ。さあかかって来いよ!ぼさっとつったってんな!」


そうして路地裏で騎士と狩人の戦争が始まった。



結局、アマナは援軍を呼び最終的に5対5の大乱戦になり現場は道路が血風呂になるほどだった。

だが警察が来る頃には狩人も黒騎士もいなかった。

最終的にイルマはこの後五人を深淵から救い出すことに成功した。


これにて深淵「トガ」の封印は終わる。黒球はいつまでもそこにあった。

しかしこれはさらなる惨劇のほんの一幕でしかないのだ。


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